Abusan’s Journey

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KZ Castor(銀/黒) レビュー 「まともではない」

おはこんばんちは、あぶさんです。
今回レビューするイヤホンは、中華格安イヤホンブランドの代名詞ともなっている KZ の Castor です。

私とリアルで交流がある人なら、この記事のタイトルを見て驚くでしょう。「え? KZ買ったの!?」と。
なぜなら私はKZというメーカーを毛嫌いしているからです。至るところで「あれはまともなメーカーじゃない」と言っております。そんな私が自腹でKZのレビューをするなんて普通ならありえないことなのですが、私がKZのイヤホンを聞いたのは既に5年前ということもあり一切聞いていないというのもどうかなと。そこで、5年も経てば少しはまともな音を鳴らすようになったのではと淡い期待を持ちつつ KZ Castor を購入した次第となります。

KZ Castor の概要

KZ Castor は国内Amazonにて3000円前後で販売されているイヤホンですが、巷では☆5をつけているレビューもあるなど非常に高い評価を受けています。「音質だけで考えたらコスパ最強」なんてことも言われていたり、「リケーブル後のサウンドは絶品だ」という声もあります。
その言葉たちは本当なのかをレビューで明らかにしていきましょう。

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2DD + スイッチという構成

Castor はダイナミックドライバーが2つ入っている2DDというドライバー構成です。ダイナミックドライバーは1つで低音から高音まで幅広くカバーすることが可能ですが、2つ以上のダイナミックドライバーを入れることで音質の向上を図るのが2DDです。さらにドライバーを増やした3DDや、2DDに中高音用BAドライバーを組み合わせた製品もあります。

Castor にはもう一つ特徴があります。それは周波数帯域バランスを変更することができるスイッチがついていることです。Castor のスイッチは1,2,3,4の4つあり、ON/OFFを切り替えることで低音と中高音の音量を別々に操作することができます。
1と2は低音用スイッチ、3と4は中高音用スイッチです。1または3をONにすると低音を1dB増やし、2または4をONにすると2dB増えます。6dBの変化が起きると人間が感じる音量は2倍になりますから、2dBの変化は数値上ではかなり大きく感じます。

3000円前後という価格帯では2DDやスイッチという構成は珍しいためコスパが良い理由の1つとして挙げられることがあります。しかし、ドライバー数やスイッチの有無によって音質が良くなるわけではありません。オーディオというものは良いものを使ったからと言って音が良くなるとは限らない世界です。ドライバーの数でコスパを決めるなどナンセンスですし、結局のところは出てくる音がどうなのかが全てなのです。

Castor の2つのバリエーション

Castor には銀と黒の2種類があります。どちらも見た目はそれほど悪くないですし、好みの色で選べぼうと思っていると痛い目を見ます。なんとこのCastorというイヤホン、色で音が違うのです。

KZ の公式サイトによりますと以下の2バージョンが用意されています。

  • 銀:Harman Target Version
  • 黒:Harman Target with Improved Bass Version

要するに、銀はハーマンターゲットカーブに合わせたバランスの良い音、黒はハーマンターゲットカーブから低音を強化した音ということです。
「バージョンごとにカラーバリエーションを用意すればいいのでは?」「スイッチで音が変えられるなら、こんなバリエーションは要らないのでは?」という疑問が浮かびますが、KZなどというメーカーはまともではないので全て無駄です。受け入れましょう。

Castor のパッケージ

安価な中華ブランド製品にありがちな質素で安っぽさが漂うパッケージです。この手のイヤホンにありがちな角の潰れが無いところは評価できますね。

Caster の本体

プラスチックのハウジングに金属製のフェイスプレートという低価格イヤホンではオーソドックスな構成です。 ハウジングには先に説明したスイッチがついています。「ON」という文字がある方向にスイッチを切り替えることで対応する周波数帯域が増加するというわけです。このスイッチ、なぜか左右で上下逆に取り付けられています。切り替える際に左右で逆に動かさなければいけないため不便なのですが、KZというメーカーはまともではないので考えるだけ無駄です。

Castor のケーブル

低価格イヤホンで稀によく見る銅線です。タッチノイズが少なく、癖も強くないので意外に使いやすいケーブルです。
音質面も思ったほど悪くありません。試しに TANGZU Wan'er S.G に付け替えてみましたが、全体的に残響やサスティンが減衰するような印象があるものの、大きな音質劣化は感じられませんでした。

その他付属品

他にはスイッチを切り替えるためのピンやイヤーピース、説明書が付属します。
公式サイトではフォームタイプのイヤーピースが付属すると記載されていますが、実際に付属するのは白いシリコンのイヤーピースです。このイヤーピースも悪いものではなく、一昔前によく付属していたグレーのものと比べると音質や装着感に問題は見当たりません。4サイズや5サイズで販売すれば、それなりの数が売れそうなイヤーピースです。

Castor の価格

2025年8月末時点では国内 Amazon にて取り扱いがあり、価格は3000円前後です。AliExpress などでは2000円を切る場合があるようですが、3000円を基準としてレビューを行います。

Amazon.co.jp: LINSOUL KZ Castor

音質の評価条件について

エージング(慣らし)について

100時間以上のエージングを終わらせた状態の個体を使用しています。
エージングには手持ちのFLAC音源とSpotifyで作成した音質評価用プレイリストを使用しています。

付属品について

ケーブル、イヤーピースはどちらも付属品を使用します。イヤーピースの交換やケーブルの取り換え(リケーブル)を行った場合は、その旨を明示します。

評価で使用する言葉について

音質評価に使用する言葉は ITU-R から発行された Report ITU-R BS.2399-0 に準じた単語・表現を使用するようにしています。 Report ITU-R BS.2399-0 の言葉と必ずしも一致するとは限りませんが、言葉で伝えるという手段を選択している以上、わかりやすい表現を使用して齟齬なく伝えようとする努力を行っています。
ITU-R BS.2399-0 については以下のPDFにて詳細を閲覧可能です。

R-REP-BS.2399-2017-PDF-E.pdf
https://www.itu.int/dms_pub/itu-r/opb/rep/R-REP-BS.2399-2017-PDF-E.pdf

評価に使用する音源について

音質評価に使用する音源は、手持ちのCDから取り込んだFLAC音源とSpotifyで作成した音質評価用プレイリストです。Spotifyのプレイリストは公開していますので店頭での試聴の際などでも使用できます。

音質評価用プレイリスト内の楽曲については以下の記事で解説しています。
abusan3225.jp

評価に使用する再生機器について

KZ Castor のレビューでは以下の機器を使用しています。

銀 (Harman Target Version)

機種名 ゲイン 音量 ※1 フィルター 備考
SONY NW-ZX707 Low 52 --- Powerampを使用
ソースダイレクトON
HiBy R6 Pro Ⅱ Low 42 Low Dispersion Delay Filter ABアンプ
HiBY FC6 ※2 --- 13 Darwin Ultra NOSモード
HDRオフ
SteelSeries GameDAC Gen2 Low -30 ---
LG V60 ThinQ 5G --- 15 クリーン

黒 (Harman Target with Improved Bass Version)

機種名 ゲイン 音量 ※1 フィルター 備考
SONY NW-ZX707 Low 46 --- Powerampを使用
ソースダイレクトON
HiBy R6 Pro Ⅱ Low 35 Low Dispersion Delay Filter ABアンプ
HiBY FC6 ※2 --- 13 Darwin Ultra NOSモード
HDRオフ
SteelSeries GameDAC Gen2 Low -33 ---
LG V60 ThinQ 5G --- 13 クリーン

※1. 音量の調整にはSpotifyで配信されている WONDER POP by Moe Shop を使用しています。音量の均一化を有効化し、音量レベルを低音量にした状態で、私が普段の音楽鑑賞で使用する音量設定に合わせた場合の値です。
※2. FC6はmotorola eddge 50 ProにDDHiFi TC09Sを用いて接続し、スマホ側の音量設定を100%に設定しています。

上記に加え、機器間のインピーダンスによる音質変化を吸収するためのバッファーアンプとして Umbrella Company HP-ADAPTER を使用しています。

abusan3225.jp

客観的な評価をするように努めていますが、あくまでも私個人の経験を共有するものです。聴覚には個人差や好みによる違いがありますので、購入の際には可能な限り実際に試聴されることをおすすめします。

音質

銀 (Harman Target Version)

まずはバランスが良いとされている Harman Target Version (銀Castor)からレビューしましょう。特に記載のない限りはスイッチが全てON(抵抗がかかっていない状態)のレビューとなります。
銀Castor はハーマンターゲットカーブというものに沿ったバランスの良いサウンドが持ち味だとされています。確かに、KZ というメーカーの印象から比べると少しおとなしいと言いますか、あっさりとした印象を受けます。ただ、その音質は問題点しか無いと言っても過言ではありません。

まず感じるのはスッキリとした抜けの良いという印象なのですが、聞き込んでいくにつれて残響やサスティン、付帯音、エアといった要素がごっそりと抜け落ちていることに気が付きます。抜けが良いと感じたのは、上流から送られてくる音の信号のうち7割ほどしか再生できていないからなのです。
音の線も細く、全体的に質感も荒れています。分離感は良いと感じられますが、本当に解像度が良い音というわけではありません。空間表現も平面的で奥行きや高さは全く感じられません。高音はシャリついた印象があり、中音は荒れていて、低音は弱々しい。どこを見ても良い部分が見つかりません。

I'm Gonna Sit Right Down and Write Myself a Letter - Kisses on the Bottom -Deluxe- open.spotify.com

音の質という部分を確認するのにジャズは欠かせないジャンルだと思います。I'm Gonna Sit Right Down and Write Myself a Letter には、アタックが心地よいドラム、豊かな音で盛り上げるピアノ、弾む低音でリズムを支えるベース、そしてポールのおしゃれなボーカルと、良い音が詰まっています。
銀Castorの性能では、この楽曲の3割も楽しめないでしょう。アタックは弱々しく、ベースは迷子、かろうじてピアノとボーカルはギリギリ合格ですが、全体的に音が縮こまっていてノリの悪い音になってしまっています。

The Kids Aren't Alright ‑ ザ・オフスプリング open.spotify.com 銀Castorは音の線が細いため全体的に迫力がなく、洋ロックには不向きだと感じました。楽しめないというわけではないのですが、大事なものを失ってしまったようなサウンドを鳴らします。

銀Castorは本当にハーマンターゲットカーブなのか

銀Castorはハーマンターゲットカーブに基づいた音質であるとKZは主張しています。しかし、私が所有しているハーマンターゲットカーブに合わせたとされる他の製品と比べると、銀Castorの周波数応答は明らかに違和感があります。銀Castorは本当にハーマンターゲットカーブを持っているのでしょうか?

ハーマンターゲットカーブは、アメリカのハーマン・インターナショナルによって提唱された周波数特性カーブの1つです。これは「多くの人が好む周波数応答」を調べるための実験から生まれました。実験には200人以上のテスターが参加し、最も音が良いと感じられやすい周波数応答を導き出した結果がハーマンターゲットカーブです。
重要なのは、これは等ラウドネス曲線に類似したフラットな周波数応答ではないということです。一般的にハーマンターゲットカーブはフラットと比較して少し高音と低音が持ち上がったU-Shapeのような周波数応答を示します。また、オーバーイヤーやインイヤーなど、ヘッドホンやイヤホンの形態によっても異なる周波数応答カーブが提唱されています。

ハーマンターゲットカーブの周波数応答グラフについてはインターネット上で確認することができます。銀Castorはインイヤータイプのイヤホンですので、IE2017が妥当かと思われます。

From https://www.headphonesty.com/2020/04/harman-target-curves-part-3/

そしてこちらが、銀CastorについてKZ公式サイトに掲載されている周波数応答グラフです。

From https://kz-audio.com/kz-castor.html

この2つのグラフを見比べると、確かに銀Castorの周波数応答はハーマンターゲットカーブに沿っているように見えます。しかし、実際に銀Castorから聞こえてくるサウンドはハーマンターゲットカーブとは似ても似つかない印象を受けます。
銀Castorは明らかに低音が弱く、特に60Hz以下のサブベースは全くと行っていいほど感じられません。中音から高音は概ねバランス良く聞こえますが、明らかに中音から低音にかけて強い減衰が発生します。計測上ではハーマンターゲットカーブに近いのは確かですが、聞こえてくるサウンドはハーマンターゲットカーブに近いU-ShapeやV-Shapeではなく強い中高音寄りの傾向を示しています。

高音(銀Castor)

銀Castorの高音は少し荒れていてシャリついた印象を受けます。輝きがあるとか、金属的な響きがあるというわけではなく、ちょっとキツイなと感じます。ただ、高音のバランスが極端に強いわけではないため、音質的な難点はあるものの大きな問題とはなりません。
シャリつきが強く感じるのならスイッチの3と4をオフにしてみると良いかもしれません。

中音(銀Castor)

銀Castorの中音は小ぢんまりとしていて窮屈です。残響やサスティンを鳴らせていないため、スッキリとした印象がありながら窮屈な鳴り方をしています。
粗も多いのですが、250Hz~1000Hzの範囲では大きく目立つことはありません。1000~2000Hzでは高音域で感じられたものと同様の荒れた印象を受けます。

ボーカル(銀Castor)

銀Castorのボーカルは男性ボーカルに限ればギリギリ合格だと言えるでしょう。
女性ボーカルは倍音成分が荒れてしまうことで常に音質の悪さを感じさせます。
男性ボーカルはまだ楽しめる範疇に入ると思います。ただ、サスティンやエアが無いため味気なく感じます。

Somewhere - From 'West Side Story' open.spotify.com

男性ボーカルについては楽しめる範疇にあると思いますが、やはりサスティンやエアが無いことによる「何かが足りない」という印象を受けます。
音の周囲に存在するふわっとしたエアが無く、雰囲気や暖かさを感じられません。特にバラード系の楽曲で顕著に感じられるでしょう。

はじまりはいつも雨(カバー) - 藤田恵美 open.spotify.com

女性ボーカルは不合格だと言わざるを得ません。1000Hz以上の倍音に難があり、艶や滑らかさが失われています。

低音(銀Castor)

銀Castorの音質における問題点の3割は低音にあります。
まず最大の問題点はサブベースが全く聞こえないこと。集中すればかすかに聞こえますが、60Hz以下が全く出ていません。周波数応答グラフでは落ち込むことは無いように見えますが、実際には低音全体が弱く、サブベースは更に弱くなっています。
ミッドベースは最小限と言った印象で、中音や高音と比べて明らかに弱いと感じます。あまりにも低音が出ていないため、質感やキレ、響きを評価する以前の問題です。
これらの問題点はスイッチを切り替えても改善することはないため、明らかにサウンドチューニングの失敗だと私は考えています。いや、そもそもKZというメーカーにサウンドのチューニングなんてことができるはずが無かったですね。

Sparks ‑ Nikonn, Maroula
open.spotify.com

ミッドベースからサブベースまでのバランスが何故大事なのか。それは楽曲全体のリズムを正確に把握するためです。
この楽曲は低音のバランスを確認するのに便利で、サブベースが出ていないなどの問題がすぐに分かります。銀Castorはサブベースが出ていないだけでなく、ミッドベースも低音としての役割を果たせていません。

黒 (Harman Target with Improved Bass Version)

さて黒Castorのレビューに入りましょう。こちらも銀Castorと同じく、特に記載のない限りは全てのスイッチをONにした状態となります。
黒Castorは銀Castorと比べて低音を強くしたバージョンです。中音や高音は銀と変わりがないとKZは言っています。おそらく、スイッチに入れる抵抗を変えることで周波数応答を変えているのでしょう。

では黒Castorの音質はどうなのかと言いますと、基本的には銀Castorと同様のネガティブな部分がありながら、低音が聞こえるようになったことで全体的に音楽らしいと言える音を鳴らすようになりました。
低音を出すために行われたチューニングの影響なのか、中音や高音にあった音の粗が少しマシになったことが音質の印象を変えています。銀Castorは全てにおいてダメだと言えたのですが、黒Castorは3割ほど褒める余地が残っています。しかし、黒Castorを良いイヤホンだと評価するのは無理があります。銀Castorと同様に残響やサスティン、エアの再現性に難があり、ダイナミックレンジも狭く、窮屈な音であることには変わりませんから。

強化されたのはサブベースだけ

黒Castorは低音を強化したバージョンとされていますが、実際に強化されているのはサブベースのみです。
以下の画像はKZ公式サイトに掲載されている黒Castorの周波数応答グラフです。

From https://kz-audio.com/kz-castor.html

銀Castorと比べて低音が大きく盛り上がっていることがわかりますが、100Hz~200Hzのミッドベースは銀と黒で大きな違いがありません。さらに中音から低音のつなぎとなる200~300Hzでは銀Castorのほうが少し大きくなっています。
つまり、黒Castorで強化された低音というのはサブベースのことであり、ミッドベースまで含めた低音全体をチューニングしているわけではありません。

こちらの画像は同じくKZ公式サイトに掲載されている文言です。

こちらを日本語に翻訳したものが以下の文章になります。

より深い低音を求めるオーディオ愛好家向けにカスタマイズ

従来のイヤホン製品は、40〜300Hzの周波数範囲で約6〜7dBの低下を示すことが多く、Hi-Fiとして販売されているイヤホン製品の中には、4〜5dBの低下を示すものもあります。(なぜ、いわゆるHi-Fiイヤホン製品は低周波の低下が少ないのでしょうか?これは、ユーザーに誤った認識を与えるためです。低周波を削減することで、中高周波数の音質が向上しているように見せかけ、低歪みであると主張しています。実際には、技術的に他の周波数範囲に影響を与えずに100Hzの周波数範囲のみを強化することはできないため、これはすべて欺瞞です。)この低周波のわずかな低下は、核爆弾の爆発音を爆竹の音にまで下げるようなものです。

対照的に、KZ Castorは40Hz〜300Hzの範囲で10dB以上の低下を誇ります。 6dB が 2 倍を表すという音響理論を採用すると、KZ Castor の低周波範囲での性能は、データにおいて従来のヘッドフォンを明らかに上回ります。

要約すると

  • 多くのイヤホンは低音と中音の差が6~7dBくらいだよ
  • 高音質を謳うイヤホンでは4~5dBくらいだと言っている製品もあるよ
  • なぜ差を少なくしているかって? それはユーザーを騙すためだよ
  • 低音と中音の差を少なくする(低音を減少させる)と、中高音の音質が向上しているように聞こえ、歪みが少ないと主張しているよ
  • 低音と中音の差を少なくするということは全体の音質を下げることと同じだよ
  • Castorは低音と中音の差を10dB以上あって従来の製品よりも低音の性能を高くすることができたよ

一言でこの文章の感想を言いますと「お前が言うな」でしょう。オーディオや音楽というものを小馬鹿にしたような製品ばかりを作っているようなメーカーが、他社製品の音質について語るなど何様のつもりなのでしょうか。
周波数応答における低音と中音の差は、音の個性と言える範疇であれば音質面で問題ないはずです。確かに、相対的に低音が弱くなることによって中音や高音への影響は少なからず発生します。しかし、それは周波数応答だけを見た場合であり他の様々な要素によって音質は決まっていくものです。KZの主張は周波数応答だけしか見ておらず、オーディオという現象についての理解が不足していると言わざるを得ません。
KZに限らず中国の低価格イヤホンブランドやメーカーは大言壮語な謳い文句を用いることは常套手段ですが、この文章は流石に目に余るなと感じました。やはりKZというメーカーはまともなところではないのでしょう。

I'm Gonna Sit Right Down and Write Myself a Letter - Kisses on the Bottom -Deluxe- open.spotify.com 黒Castorは低音を取り戻したことにより、その音質を大きく改善させていることは確かです。銀Castorと比較すると、ドラムのアタック感が増加し、ピアノは豊かになり、ベースは弾むようになりました。
しかし、KZが行ったサブベースの強化によって発生した副作用は深刻です。ピアノは調律が狂っているように感じられ、ベースの音はブレています。低音が強いという周波数応答バランスは音の個性という意味では歓迎されるべきものです。誰しもがフラットな音を好むわけではありませんから、音質への影響を抑えながら個性を持たせることでユーザーの好みへと合わせていくことは良いことです。しかし、黒Castorの低音強化は音質面に与える影響が大きく、音楽というものを壊してしまうような破壊的な変更です。

J. S. Bach - Orchestral Suites No. 2 h moll BWV1067 - 7 Badinerie - flute open.spotify.com サブベースが強化されたことによって低音のエアは出たように感じました。しかし、中高音の残響やサスティン、エアは銀Castorと同様に乏しい印象です。
LYNXの演奏が魅せるホールが輝くようなホールトーンを鳴らすことはできません。

Rave After Rave (Original Mix) ‑ W&W open.spotify.com 銀Castorと比べるとEDMを聞くことができるようになったという意味で黒Castorは素晴らしいと言えるでしょう。ミッドベースがやや弱いところは気になりますが、EDMのキックはもう少し低いところにあるので問題になりにくいようです。
ただし、空間表現や残響の表現に難があることは銀Castorと変わりません。EDMの中でも満足に楽しめるジャンルは一部だけでしょう。

高音(黒Castor)

黒Castorの高音域は銀Castorよりも少しばかり良いと感じられる音を鳴らします。スイッチを全てONにした状態でもシャリついた高音が鼻につくようなことはなく、この価格帯のイヤホンとしては悪くないと言えるでしょう。
やや減衰が早いためドラムスのシンバルなどで物足りなさがあり、悪くはないが良いと言えるかどうかは好みに大きく左右されるかと思います。

中音(黒Castor)

中音は強化されたサブベースによって後退した印象を受けます。銀Castorに比べて粗が見えなくなっていますが、それはサブベースが出てきたことで相対的に中音が耳に届きにくくなり、その結果として中音の粗が見えなくなったということでしょう。

ボーカル(黒Castor)

高音や中音と同じく、銀Castorよりも僅かに改善はしているが良いとまでは言えないという微妙な音質です。低音が強化されたことで男性ボーカルにも僅かな改善が見られます。ただ、それは本当に僅かであり、ボーカルを楽しむ目的でイヤホンを買うのなら他の選択肢をおすすめします。

低音(黒Castor)

低音は黒Castorのキャラクターを決定づける重要な部分です。その低音はサブベース一本足打法とも言うべきであり、とにかくサブベースの量感が盛られています。
ミッドベースとサブベースのバランスなど取れているわけがなく、ジャズのベースは完全に歪んでしまいます。ロックではバスドラムの音が常に強く主張し、ミックス・マスタリングの意図を完全に無視した音を鳴らします。音楽を聞くというよりも、低音を聞くという行為に近いでしょう。
低音側のスイッチを両方ONにした場合、多くの人にとって不快に感じると思われます。もしあなたが音質やバランスを二の次としてとにかく低音が欲しいと考えているのであれば1と2のスイッチは両方ONにすべきです。しかし、そうでないのなら両方ともOFF、もしくは1番だけをONにした状態で聞くべきですが、最も良いのは他の優れたイヤホンを買うことでしょう。

Castor のリケーブルについて

この手の安価なイヤホンでは「リケーブルで化ける」と言われることが多く、メーカーがリケーブルを推奨することもあります。
私個人としてはリケーブルは仕方なく行う行為であって、リケーブルを前提としたイヤホンはそもそも購入を推奨しません。なぜなら、イヤホンと別にケーブルを買うという行為自体がコスパが悪いと考えているからです。
リケーブル前提とした製品は未完成の粗悪品なのではと思わざるを得ません。リケーブルを必要とせずに良い音を実現している製品こそ高く評価されるべきであり、リケーブルはあくまでも断線時のリカバリー手段、もしくは趣味性の高い遊びであるべきです。

KZというメーカーはリケーブルを前提とした売り方をしています。私はKZのことを嫌っている理由の一つですね。
とは言え、ケーブルを変えることで音質を変化できることは事実ですし、それによる遊びまで否定するつもりはありません。

Castorのリケーブルについては2種類試してみました。使用したケーブルは TANGZU Wan'er S.G の付属ケーブル、NICEHCK C8s-3、THIEAUDIO ESTの3種類です。
結論としては、リケーブルによって Castor の難点を解決することはできませんでした。Wan'er S.G の付属ケーブルについては音質が改善したと言えるほどの変化がありませんでした。C8s-3 では中高音の粗が改善しましたが、本体 + ケーブルの価格に見合った音にはなりません。総額1万円を超える組み合わせとなる THIEAUDIO EST へのリケーブルでは銀/黒の両方で大きな変化がありますが、1万円クラスのイヤホンと比べられるような音質は実現できませんでした。
周波数応答を好みに近づけるであるとか、音の粗を改善するという意味では効果がありました。しかし、空間表現や残響、サスティン、エアの表現はどうすることもできず、そういった部分で音質の頭打ちが起こります。そのあたりを考えると、リケーブルよりもイコライザーでの調整のほうが得られるメリットは大きいでしょう。

スイッチの効果と是非

Castor には抵抗を切り替えることで周波数応答を変化させることができるスイッチがあります。付属のピンで切り替えることで対応する周波数帯域に対し最大2dBの増加を期待できます。
スイッチを使用することで周波数応答を好みに近づけることができます。中華ブランドのイヤホンではチューニングスイッチなどと呼ばれ、主に1万円以上の製品で採用されていました。ただ、その変化が好みに近づくかどうかは使ってみないとわかりませんし、個人的な経験を元にするとスイッチが音質の向上という意味で役に立ったことはありません。不要な部品がアナログ信号の伝送経路に入ることによる音質劣化のほうが気になります。

Castor のスイッチには以下の効果があるとされています。

スイッチ 周波数帯域 増幅効果
1 低音 1dB
2 低音 2dB
3 中高音 1dB
4 中高音 2dB

スイッチを全て ON にすると V-Shape に似た傾向へ近づきます。逆に全て OFF で Castor のスイッチを切り替えてみましたが、どれも微妙な結果でした。そもそも、基礎的な部分で悪いと感じられる音質を、抵抗を切り替えて周波数応答を変えただけでは根本的な解決に至ることなどあり得ません。低音の量感が増えることで楽曲全体がしっかりする、中高音が増えることで女性ボーカルが近く感じられるようになるなど、周波数帯域ごとの聞こえのバランスを変えることは可能ですが、女性ボーカルの粗などの質そのものに見られる問題は一切改善できません。設定の自由度などを考えるとイコライザーを使用するほうが良いと思いました。

総評「いろんな意味で、まともではないイヤホン」

「買う価値なし」「検討の余地あり」「購入候補に入る」「即買い」の4段階で評価します。

私の結論は

  • 銀:買う価値なし
  • 黒:検討の余地あり

となります。

良い点

  • 3000円でスイッチ付きという面白さ
  • 黒:銀に比べて全体的にしっかりとしたサウンド
  • 黒:低音ジャンキーにはおすすめできるかもしれない

良くない点

  • スイッチを十分に活かせていない
  • バリエーションがわかりづらい
  • 残響、サスティン、エアの表現
  • 銀:シャリついた高音
  • 銀:荒っぽいボーカル
  • 銀:鳴らすことを忘れてしまった低音

KZ Castor という製品は、残念ながらオーディオ的な観点から褒められるイヤホンではありませんでした。その音質は酷く荒れており、音楽を聞いていて楽しいを思えるものではありません。
ただ、黒Castorに限るのなら好ましいと思う人がいるかもしれません。低音を心から欲している低音ジャンキーや、KZというメーカーのイヤホンが特に好きだというKZファンにはおすすめできるかもしれません。
銀/黒の両方に言えるのは「まともなイヤホンではない」ということです。final E500 のような確かな技術力によって実現された価格を超えた良さや、TANGZU Wan'er S.G のような質と個性を併せ持った良さはCastorにはありません。final や TANGZU は低価格でありながら「まともなオーディオ」を実現しているのに対し、Castor を聞く限り、KZ は低価格であることに胡座をかいている印象を受けました。面白さという意味では一部評価できる部分がありますが、オーディオ的な観点から見ると良い製品とは言えません。
とは言え、たった1つの製品でメーカーを評価するのもどうかとは思います。もう少しいくつかのKZ製品をレビューしていきたいと思います。

Castor は KZ というブランドと付き合えるかどうかの試金石

KZ というメーカーは、あり物のドライバーを適当に組み合わせ、周波数応答を変えるだけの作業をチューニングと呼び、オーディオ的な音質の追求などお構いなしに新製品を矢継ぎ早に出し、バズらせてもらうことで数を売っていく戦略を取っています。一言でいうとまともなモノづくりとは遠くかけ離れたプロセスであり、普通に良いものが欲しいと考えているのであれば関わらないほうが良いメーカーです。とは言え、聞いてて好みだと感じたのであれば KZ との付き合いを始めるのも悪くありません。そう考えると、実にKZらしさに溢れている Castor というイヤホンを聞いてみてから考えるのもアリだと思います。
Castor の黒 / 銀のどちらかでも気に入ったのなら KZ というブランドを長く付き合える可能性があります。そうでないのなら final の E500 や E1000 を購入候補リストに入れましょう。

final E500の再評価

KZ Castorのレビューをしていく中で同価格帯のイヤホンを聞きました。その中で以前にもレビューさせて頂いた final E500 をもう一度聞いてみて、やはり final というメーカーの実力はすごいものがあるなと感じました。
final E500は2000円以下で販売されているイヤホンですが、滑らかでエアが感じられる音質を持ち、高音から低音まで final らしい素晴らしい音色を奏でます。final が持つ確かな技術と経験に裏打ちされた底力を感じられる素晴らしいイヤホンです。
final E500 がこの世に出ていなかったら KZ Castor の評価は少し上がったかもしれません。とにかく低音が欲しいのであれば黒Castorは検討すべきイヤホンの1つですが、バランスの良いイヤホンを探しているなら final E500 を即決しましょう。