おはこんばんちは、あぶさんです。
2024年11月23日(土)に大阪の難波で行われたポタキャラ(Portable Audio Caravan)というポータブルオーディオのイベントに行ってきました。
全く知らないイベントだったので正直に言うと不安もありましたが、ポタフェスやヘッドホン祭りとはまた違った雰囲気があって楽しめました。また、地元の大阪で開催してくれるのはとても嬉しいですね。
今回はポタキャラと会場近くのeイヤホンで試聴させていただいた製品の雑感です。ちゃんとしたレビューではないのであしからず。
イヤホン
THIEAUDIO Hype 10
Hype 4からBAを一気に6個も追加したHypeシリーズのハイエンドモデルです。
低音は4や2と同じくアイソバリック構成の2DDであるため大きな違いはなく、良くも悪くもHype 2からBAを8個も増やせばこうなるよねという感想に収まってしまう音ではあります。
BAが増えた中音から高音にかけて包まれ感のあるリッチなサウンドが展開され、Hype 10に強い個性を与えています。この部分は非常に好みが分かれやすいポイントです。特に個々の音の存在感や明瞭度を重視するのならHype 10のサウンドを全く好まないでしょう。
自然であるという範囲を逸脱してはいませんし、粗は全くと言っていいほど感じられずディティールも正確に表現されていますから、個性的なサウンドとして価格を正当化できるレベルには完成されています。
THIEAUDIO Monarch MKIII
Hype 10からBAを2個削ってESTを追加したハイエンドモデルです。
ESTは高音のディティールにおいてアドバンテージがあるドライバーですが、BAやDDとの音色の違いが顕著に出るため上手く使うには高い技術が求められます。
Monarch MKIIIは良い意味でESTらしくない高音を鳴らし、中音や低音との優れた統一感を実現しています。明瞭度が高く確かな存在感があり、多くの人に好まれるスッキリとしたサウンドです。
THIEAUDIO Oracle MKIII
こちらもMonarchと同様にESTを採用したモデルです。
ESTとBAのクロスオーバーの問題なのか、それとも意図したチューニングなのかはわかりませんが、高音が強く抑えられている印象が拭えません。
BAから鳴っていると思われる中音のやや上の領域は十分に出ているのですが、女性ボーカルなどの倍音の領域となる6kHz以上で強い減衰があります。
Hype 2のレビューでも書いたように、THIEAUDIOの代理店はイベントに持ち込んだ試聴機がエージングされていないと思われる音質だったという疑惑があります。もしかしたらESTドライバーのエージングが不足している個体だったのかもしれませんが、他の場所では試聴していないためわかりません。
THIEAUDIO Origin
DD、BA、ESTに骨伝導ドライバーの4種類を採用したモデルです。
Originは2つの点において製品としての欠陥があります。
1つ目は装着感が非常に悪いところです。
11mmの骨伝導ドライバーを採用した結果、ハウジングが非常に大きくなりました。耳への収まり自体は良好な範囲を保っていますが、厚みが増えたことと、2pin端子の取り付け位置がフェイスプレート側に寄ってしまっているため、装着した際にケーブルが耳介を外側へ強く引っ張るようになります。ベクトルの方向は違いますが、装着感の悪さは3,000円のイヤホンと同レベルです。
2つ目はクロスオーバーのチューニングが全く上手く機能していないと感じられたことです。
先に書いたようにOriginは4種類のドライバーを採用しています。THIEAUDIOはハイブリッドやトライブリッドでのクロスオーバーチューニングに定評があるブランドですが、Originのサウンドは統一感がなく、それぞれのドライバーからバラバラな音が出ているように感じました。
個々の音の質や粗には大きな問題は無いのですが、とにかく統一感が無いため音楽として破綻してしまっています。
Acoustune HS1900X SHINOGI
1DDを採用したHSシリーズの最新モデルです。
HS1900XはHS1697TIを彷彿とさせる優れたディティールや高い明瞭度がありながら、金属ではなくカーボンを採用したことにより過度な明るさが取れており、クリーンで聞きやすいサウンドだと感じました。
個人的に万人受けに近づいたHS17シリーズよりも、個性的だったHS16シリーズのサウンドが好みでしたのでHS1900Xも好印象です。
イヤホンの形状も過去のモデルと比べれば普通の形状に近づいています。お値段はちょっとやり過ぎ感がありますが、HSシリーズの最高傑作だと思える素晴らしいイヤホンでした。
MADOO Typ622
Acoustuneが展開するMADOOブランドの第二弾です。
HSシリーズと比べると全体的に控えめではあるのですが、明瞭度は高くスッキリとした印象もある個性的なサウンドです。
622のサウンドで特に気に入った点は空間表現です。左右、奥行き、そして高さがしっかりと感じられ、その空間にリッチなサウンドが広がります。特に空気録音されたハイレゾ音源との相性が抜群に良く、1ドライバーならではの統一感と相まって素晴らしいサウンドを楽しむことができます。
MADOO Typ821
821は622よりもさらに高い明瞭度があり、どちらかというとHSシリーズに似ている印象を受けました。
レスポンスに優れていて小気味よく軽快に鳴らしてくれるためロックやメタルとの相性が良さそうです。
環境に起因するものかもしれませんが、高音のディティールが荒れやすく、女性ボーカルの倍音などが甲高く歪んでしまうことがあります。
イヤホン用ケーブル
ORB Clear force Ultimate Pentaconn ear Short
Acoustune HS1697TI用のリケーブルを探していたため試聴しました。
このケーブルの最大の特徴は非常に癖が少ないことです。上流の機器が持つDACやアンプの癖がそのまま出ます。
上流と下流の癖がマッチしない部分を調整する目的でのリケーブルには向いていません。不満点を解消するよりも、基礎的な音質を担保したまま良い部分を更に伸ばしていくことが得意なケーブルです。
R6 Pro IIとHS1697TIの組み合わせでは、ただでさえ強いHS1697TIの明瞭度やディティールが更に強化されます。HS1697TIは元から高音の癖が強いので歪みが出るかなとか、細いケーブルなので音の線が細くなるような方向にならないかなという不安もあったのですが、実際に聞いてみると杞憂に終わりました。
細くて軽いケーブルなので装着感も良好です。手元にお気に入りの組み合わせがあるのなら一度試してみて欲しいケーブルですね。
ヘッドホン
STAX SRS-X1000
静電型ヘッドホンのエントリー機です。静電型ドライバーを駆動するための専用アンプとセットで10万円です。
ハイエンドメーカーが作るエントリー機というものは、真面目に作っているものもあれば、どこかのOEMで適当に済ませている形だけのものもあり、当たり外れが激しい印象があります。
SRS-X1000は間違いなく前者です。10万円という価格でこのレベルのエントリー機を用意してくれたことに感謝したいくらいに素晴らしいものでした。
明瞭度とディティール、空間表現、そして音の質感の全てでハイエンドを思い起こさせるサウンドを鳴らします。特に感動したのは、十分なDRが確保していることを前提として、ボーカルの抑揚や表現を最大限に引き出すためにトゥルーピークで天井を打っているようなレベルのギリギリを攻めている音源において、歪みによるノイズが感じられなかったことです。
出力だけでなく制動力まで含めたアンプの駆動性能が高く、エントリークラスと言えど細かいところまで手を抜いていない製品だと思いました。
DAP
FiiO JM21
FiiOの低価格エントリークラスDAPです。
安価でありながらスペックの高い部品を使用することで高い特性を実現させているため「高コスパDAP」として宣伝されていますが、中華オーディオにありがちな特性だけは立派でありながら肝心の音質は微妙という製品にしか思えませんでした。
低価格なので相応に音質も低くなることは問題ありませんが、そのサウンドにJM21でなければいけない理由も見当たらず、音質よりも謎のコスパだけが独り歩きしている印象が拭えません。
HiBy R4
HiByのミドルロークラスDAPです。
JM21と同様に上位機種と比べた際の価格に応じた音質というものは感じられますが、低音の鳴らし方や空間表現などにR6 Pro IIやR8IIに通ずるような特徴を見出すことができます。
5万円以下という価格なら候補に挙げても良いと思います。JM21のような変な癖もないですし、HiByはPEQやMSEBなどのDSP機能が豊富なので自分好みに変えていくことも容易です。
DACアンプ
HiBy FD5
日本では未発売の据え置き型DACアンプです。
サイバーパンクな見た目とは裏腹に至極真っ当な据え置きオーディオの音が出ます。ただ出力が高いだけでなく、イヤホン・ヘッドホンのドライバーを動かすための余裕がしっかりと感じられ、ブランド初の据え置きオーディオとしては見事なサウンドだと思いました。しっかりとした芯のあるサウンドは自室で腰を落ち着かせて聞く用途に向いていると感じました。
国内での取り扱いを模索している最中だそうで、国内販売が遅れている理由は純正のACアダプターが国内の規格に対応していないからだとか。もしかしたらACアダプターを別売りとして販売するかもとのことです。
番外編(eイヤホンでの試聴)
ここまでがポタキャラ2024冬で試聴させていただいたものになります。
途中でちょっと会場を抜け出してeイヤホン日本橋店でも試聴させていただきました。
final S4000
正直に言うと何がしたかったのかよくわからないイヤホンです。
SシリーズはBAドライバーの新たな可能性を引き出すために新型チャンバーを独自開発したモデルであり、フルレンジBAドライバーを2基採用しています。
S4000はステンレス筐体とすることでストレートなサウンドを特長としているとされていますが、過剰で飽和したサウンドがチャンバーによって不要な残響を増やしてしまっているためストレートとは程遠い印象です。不要な残響は音をマスキングし、明瞭度が極端に低く感じられてしまうことで個々の音の存在感が消えてしまいます。
少なくともeイヤホンの製品紹介文に書かれているような「クセが少ない」「ストレートで聴きやすい」「自然な鳴り方」「ジャンル問わず活躍できる」という印象は全く感じられませんでした。
final S5000
S4000の真鍮モデルです。
基本的にはS4000と同様の特徴に高音の明瞭度を少しプラスした印象なのですが、その高音は何故か遥か遠くで鳴っているかのように感じられるため違和感しかありません。
final A6000
いつものfinalな音がします。Sシリーズを聞いた後に聞くと安心感がありますが、6万円という価格を正当化できるかと言われればNOですね。
SONY WF-C510
SONYの一番安価なワイヤレスイヤホンです。
そこそこの音質と機能、そして良好な装着感でカジュアルに楽しむのなら良いと思いました。
LDAC非対応にANC無しですが外音取り込みはあります。ただ、マイク性能が低いため外音取り込みの自然さは価格相応です。
そこそこの音質とは言え、SONYらしい柔らかく聴きやすい傾向は確かに感じられ、多くのジャンルで問題なく楽しめるでしょう。
SONY WF-C700N
WF-C510にANCを追加したモデルと考えれば大丈夫です。
どうしてもANCが欲しいけど予算は抑えたいのであれば候補に上がるかと思いますが、ANCの性能は上位機種と比べると明らかに劣ります。
音質はC510と同様です。音質を重視したいと少しでも考えるのであればLDAC対応モデルとなる上位機種を候補に入れるべきでしょう。C510と同様に、SONYのこのクラスのワイヤレスイヤホンは一昔前のデジタルらしさが残る音質です。
SONY LinkBuds Fit
小型で装着感重視なモデルですが、最上位モデルのWF-1000XM5と同じドライバーとプロセッサーを使用しているため、音質とANC性能も非常に魅力的だと感じました。
耳介にスポッと収まってしまうほどに小さく装着感に優れた本体のおかげか、高い没入感を得られることで音楽を邪魔されずに聞きたいという要求を叶えてくれます。
SONY公式ではANC性能がWF-1000XM5に劣るとされていますが、元から耳にしっかりと密着する形状を持っていることでANCオフ時のパッシブキャンセリング性能が高く、ANCを補助することでXM5と比べても遜色ないのではないかと思えました。
個人的にはXM5よりもおすすめしたい製品です。
SONY WF-1000XM5
言わずとしれたSONYのフラッグシップワイヤレスイヤホンですね。有線イヤホンと聞き分けられないと思えるほどの音質と、非常に高いANC性能が魅力です。
XM5はそこそこ良いアンプでイヤホン・ヘッドホンを聞いているようなサウンドを鳴らします。あくまでも自然な音という範囲を逸脱せずにリッチさと高い明瞭度を両立したサウンドをワイヤレスイヤホンで実現しているところはSONYのサウンド技術の高さを感じられますね。
スッキリとしたサウンドが好きならAZ80も候補に上がると思いますが、高音から低音まで粗のない純粋な高音質という意味ではXM5しか選択肢はないでしょう。