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TANGZU WAN'ER S.G レビュー「女性ボーカルが映える、低価格イヤホンの傑作」

おはこんばんちは。今回はTANGZUの低価格イヤホン「WAN'ER S.G」をレビューします。

TANGZUは中国のイヤホンブランドで、元々は「T Force Audio」というブランドを展開していました。
しかし、先にゲーミングブランドとして「T-Force」が既に存在していたことによりブランド名を変更する必要に迫られました。その際、中国の唐王朝をコンセプトとした商品展開、開発チームの約半数が「唐」という名前だったことなどから「唐」と表す「Tang」を用いた「TANGZU Audio」ブランドを誕生させました。

TANGZU WAN'ER S.Gは唐王朝をコンセプトとした王朝シリーズのなかで低価格帯をターゲットとしたイヤホンです。
WAN'ER S.Gは中国史上唯一の女帝となる武則天(則天武后)に頭の良さと詩文の巧みさから愛され女官として仕えた「上官婉児」を指します。
王朝シリーズには他にいくつかのイヤホンがあり、どれも高い評価を受けています。

  • 唐の初代皇帝である李淵(Li Yuan)の「TANGZU Yuan-Li」
  • 中国史上唯一の女帝である武則天(則天武后)の「TANGZU Zeitan Wu」
  • 唐の第二代皇帝である李世民(太宗)の「TANGZU Shimin-Li」

WAN'ER S.Gは国内AmazonにてLINSOULから2920円で購入可能です。国内Amazonでは他にも取り扱いがありますが、正規価格で販売されているものはLINSOUL経由のもののみですので注意してください。

外観・特徴

低価格機ということで樹脂筐体を採用していますが、パッと見て安物感は一切感じられないようなビルドクオリティです。
今回は白を選択したため透明な素材が採用されており、とても綺麗に透き通っていて見た目の満足度は非常に高いです。

ドライバー構成はダイナミックドライバーを1機採用するシングルダイナミックです。
樹脂筐体にダイナミック1発というシンプルな構成ですが、写真で見ただけでも美しさを感じます。

ケーブルは0.05mmのOFC線を35本束ねて4芯構造としたシンプルなもの。
タッチノイズは少なめですが、耳掛け部分の癖付けが固めなので装着感はイマイチといったところです。

また、イヤホン・ケーブル共にqdc風の2pin端子が採用されていますが、qdcともTFZとも違う独自の2pin端子となっています。
具体的にはカバーの長さと2pin端子の長さの両方が違う寸法となっていて、qdc 2pinではピンが奥まで刺さらず、TFZ 2pinではピン自体は奥まで刺さりますがカバーの深さが違うため隙間が出来ます。
写真で見ても分かる通り寸法が全く違っています。リケーブルをする場合はTFZ 2pinが有力かと思います。

左:TFZ 2pin、中央:qdc 2pin、右:WAN'ER S.G 独自

付属品はかなり豪華です。そもそもパッケージのサイズが7000円のTKZK Ouranosや5600円のKBEAR Robinより大きい時点でなにかがおかしい。
イヤホン本体とケーブルの他にイヤーピースが2種類3サイズ付属します。グレーのイヤーピースはよくある汎用品ですが、色付きのイヤーピースはKBEAR 07というちゃんと使えるイヤーピースです。

そして極めつけはパッケージに描かれた「上官婉児」をイメージしたイラストと同様の布。かなり鮮やかで綺麗に印刷されていて、3000円のイヤホンであることを忘れてしまいます。

音質

WAN'ER S.Gは全体的に明るくスッキリとした鳴らし方が特徴的です。かと言って少し前のKZやTRNなどの元気系サウンドほどではなく、あくまでも自然ならバランスを保ちながら明るめの音を鳴らします。明るめの音ですが過度に寒色系ではなく自然なバランスを保っており、寒色・暖色のどちらでも過不足なく鳴らしてくれます。
3000円以下という価格の樹脂筐体イヤホンとは思えないほどに音の響きや余韻が心地よく鳴ります。金属筐体ではよく響く一方で少し硬い印象が出てしまうことがありますが、WAN'ER S.Gは硬くなりすぎない程度で鳴らします。
この価格帯としてはやや大きめなサイズのハウジングと、フェイスプレートを固定するための柱のような構造が見られないスッキリとした内部構造が響きと余韻の良さに繋がっているのでしょう。
全体的に滑らかでザラつきのない質の良い音を鳴らします。低価格イヤホンはドライバーのチューニングや筐体の共振抑制にそれほどコストを掛けられないため一部の周波数帯域で音のディティールに粗が出やすいのですが、WAN'ER S.Gは分析的に聴き込んでも粗が見えづらい印象です。3000円以下ということを忘れるくらいに高音から低音まで一貫して高音質で、1万円以下のイヤホンであれば十分に戦えるでしょう。

細かく聴き込むとハーマンターゲットカーブと比べると少し高音寄りの傾向があるように感じました。特にボーカルから高音にかけての周波数帯域がしっかりと出ているため、女性ボーカルの伸びや弦楽器の倍音が心地よく感じます。
音場は広くもなく狭くもなくな標準的な広さで、上下方向の空間もしっかりと確保されていて正方形に近い音場が用意されていて定位や距離感も十分に正確です。音の広がりを重視したミックスのEDMやトランスでも特に問題は感じません。

良いことばかり書いていますが、さすがに完全無欠というわけではありません。
解像度や分離感は価格帯で見れば平均以上ですが特筆するほどに良いわけでもなく、音数が増えてくるとディティールの再現が厳しくなります。個々の音の輪郭が僅かにぼやけているためか、ディティールが甘く感じられたり、音が前に出てこない印象を受けることがあります。
それらを踏まえてもWAN'ER S.Gは同価格帯ではライバル不在。1万円クラスのイヤホンですら同じレベルの音質に届いていないものが思い浮かぶくらいです。

高音

WAN'ER S.Gの高音は明るくスッキリとした見通しの良い音を鳴らします。
マルチBAやESTドライバーを採用した高価格帯のイヤホンのように高音が非常に心地よく響きます。不快な刺さりや共振によるノイズはしっかりと抑えながら高音を楽しむための刺激感を十分に確保することで、聞き疲れせずに高音を楽しむことができるサウンドに仕上げられています。
この音が3000円以下の、ましてや1DD機から鳴っているとはちょっと思えないほどのサウンドです。低価格の1DDイヤホンは高音の再現性に難があるものが多かったのですが、ついに3000円以下でこの高音が出るようになったのかと思うと感慨深いものがあります。

バンディリア旅行団 - 平沢進

終盤に高音がよく伸びるコーラスが入っていますが、共振によるプチプチとしたノイズが気になる部分です。
約3万円のAcoustune HS1300SSでも解消できていなかったノイズですが、WAN'ER S.Gは僅かに残って入るものの9割以上解消しながらコーラスの美しい高音はしっかりと再現されています。

レーザービーム by Perfume songwhip.com かなり刺激強めな鋭い高音であっても刺激感を残しながら歪まずに鳴らしてくれます。

中音

樹脂筐体のイヤホンでは中音で共振が発生しやすく上位機種との音質差を感じやすい部分です。
WAN'ER S.Gは先日紹介したTKZK Ouranosと比べても遜色なく、他に所有している1万円以下のイヤホンたちと比べても全く見劣りしないどころかWAN'ER S.Gと同じレベルに達しているイヤホンのほうが珍しく感じます。
低価格イヤホンで高音の伸びや明るさを求めていくと中音にも影響が出てしまったりするのですが、WAN'ER S.Gの中音は極めて自然で癖のない音を鳴らします。さすがに1万円を超えるイヤホンと比べると細かい部分で明確に差が出ますが、少なくとも今までの3000円以下で購入できるイヤホンから出る音ではありません。

Espace by Hajime Mizoguchi songwhip.com 3000円でこんな音が聞けていいのだろうかと思えるくらいに厚みと実在感のある音を出します。
音の繋がりも十二分に滑らかで、もうイヤホンはこれでいいんじゃないの? となっても仕方がないと思えてしまうくらいに良い音です。

ボーカル

WAN'ER S.Gでは低価格イヤホンでよく見られるボーカル域の欠点はほとんど見つけられません。唇の動きが感じられるほどの生々しさと艶があります。定位や距離感は音源に正確で、凹みすぎたり前に出すぎることはありません。
男性・女性を選ばずどちらでも素晴らしい音質ですが、特に女性ボーカルとの相性は抜群です。先に書いたように中音よりも少し高めの周波数帯域にピークがあるため、女性ボーカルが非常に綺麗な伸び方をします。WAN'ER S.Gで最も良い音を感じられる部分です。

愛は静かな場所へ降りてくる(2011リマスター・バージョン) by ZABADAK songwhip.com 3000円ですよ。何度でもいいますがWAN'ER S.Gは3000円で購入できるイヤホンです。
それをリケーブルもせず、2ペア3000円するイヤーピースにも交換せず、ZABADAKの染み入るようなボーカルが綺麗に聞けてしまうなんて想像できませんでした。
この曲は本当に鳴らすのが難しく、10万円クラスのイヤホンでさえリケーブルをしなければ上ずったような印象が出ることもあります。それなのにWAN'ER S.Gは十二分に伸ばしながら上ずることなく綺麗に鳴らしてくれます。

瞳の中のシリウス by Takane Shijou (CV: Yumi Hara), Umi Kousaka (CV: Reina Ueda), 徳川まつり (CV.諏訪彩花), Miya Miyao (CV: Choucho Kiritani), Umi Kousaka, Matsuri Tokugawa, Miya Miyao songwhip.com 3分20秒あたりからCメロのゆったりとしたバラードパートが入ります。
歯擦音が強く、特に上田麗奈さんが演じる高坂海美のパートが最も刺さりやすいところですが、WAN'ER S.Gでは上手く伸ばしながら刺さりを抑えています。

低音

低音はミッドベースからサブベースまでバランス良く鳴らします。
中高音と比べると僅かに控えめですが十分な量感がありますが、ダイナミックドライバーらしいタイトでレスポンスの良い高音質な低音を楽しむことができます。

Rave After Rave by W&W songwhip.com EDMらしいタイトな重低音が入っていますが、サブベースがしっかりと出ていないと響かないためキックだけが強調されてしまいます。
WAN'ER S.Gはダイナミックドライバーらしいタイトな低音をレスポンス良く鳴らし、ミッドベースからサブベースまでしっかりと出せているため重低音をしっかりと楽しむことができます。

Come Together by Musica Nuda, Ferruccio Spinetti songwhip.com 女性ボーカルとコントラバスの異色デュオユニット。コントラバスだけとは思えないほどに様々な音を出してくれます。
弦を震えが見えてくるような低音を響かせますが、WAN'ER S.Gでもしっかりと堪能できます。

総評「マニアにも初心者にもおすすめできる低価格イヤホンの傑作」

良い点

  • 明るめのスッキリ系でありながら良好なバランス
  • 雰囲気の良さがある厚みのある音
  • 明るく見通しの良い高音
  • 自然で癖のない中音
  • 特に女性ボーカルが映えるボーカル域
  • 重低音もしっかりと鳴らしてくれる低音
  • 3000円以下という価格

良くない点

  • ケーブルの装着感はイマイチ
  • 独自の2pin端子(リケーブルはTFZ 2pinを推奨)
  • 音数が増えると分離しきれなくなる
  • ポーチやケースが付属しない

低価格機はどうしても粗が見えやすくなるため、極端なV次傾向にしたりボーカルを分厚くして他を捨てているなど、極端な傾向にすることで粗があっても楽しく聞けるイヤホンが多数派です。
TANGZU WAN'ER S.Gは3000円以下で購入できる低価格でありながら、その音質は匠の技が光る自然なバランスでありながら、他とは違うTANGZUらしさも感じられる素晴らしいサウンドに仕上げられています。
初心者がちょっと音に拘って有線イヤホンに入門してみようとした際に真っ先に候補に上がるイヤホンと言ってもいいと思います。明るめでスッキリとしながら自然なバランスを保ち、リスニングサウンドとしてかなり高いレベルでまとまっています。
リケーブルを考えるならTFZ 2pinを強く推奨します。qdc 2pinでは端子を奥まで挿入することが出来ないため低音の量感が大きく減衰してしまうことがあります。CIEM 2pinや通常の2pinタイプではqdcのように突き出したイヤホン側の2pin端子との相性が悪くピンが折れてしまう事故が起きやすくなってしまいます。
WAN'ER S.Gに変わる低価格機を出す際は、他の2pin形状と完全に互換のあるものを採用して欲しいところです。