Abusan’s Journey

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HIFIMAN SUNDARA レビュー「6年前に取り残されたヘッドホン」

おはこんばんちは、あぶさんです。
今回は平面磁界型ヘッドホンの代名詞ともなっているブランド「HIFIMAN」から、比較的手頃な価格で平面磁界を楽しめるとされているSUNDARA(サンダラ)をレビューします。

外観・特徴

HIFIMANは中国のオーディオメーカー・ブランドです。静電型と磁界型の平面駆動ドライバーを採用したヘッドホンを中心に多数の製品を展開しています。
SUNDARAはエントリーからミドルクラスに位置づけられる平面磁界型ヘッドホンです。

パッケージは至ってシンプルです。製品を示すシールは開封済みかどうかを見分けられるような構造になっています。

緩衝材の一部をヘッドホンスタンドとして使用できるのは良いアイディアだと思いますが、見た目が不格好ですし使いにくさも目立つためヘッドホンスタンドは別途購入したほうが良いでしょう。

SUNDARAは開放型ヘッドホンです。開放型は音漏れや遮音性を望めないため静かな自室などでの使用に限られますが、音に広がりが生まれ、その名のとおりに開放感のある快適な装着感を得られます。
SUNDARAという名前は古代サンスクリット語で「美しい」という意味を持ち、HIFIMANはその名のとおりに全方位で機能美を追求したとしています。
加飾のないシンプルなデザインは確かに機能美という言葉を連想させますが、部分的に安っぽさを感じるのもまた事実です。全体的に中華格安ヘッドホンな印象は拭えません。

使用されている平面磁界型ドライバーは同ブランドのHE400シリーズからアップデートされ、80%の薄型化と広い周波数帯域、ディティールの表現力を向上しています。
周波数帯域は6~75kHzと非常に広く、インピーダンスは32Ω、感度は94dBです。確かに従来のHE400(35Ω, 92.5dB)に比べて少し鳴らしやすくなっているようです。

ケーブルは至って普通の見た目をしていますが、タッチノイズを感じさせず、音質面でも特に問題ありません。
ケーブルは両出しの3.5mmなので汎用性が高くバランスでの接続も可能です。

国内では公式ストアの他にヨドバシカメラやeイヤホンなどの量販店で試聴・販売が可能です。
2024年7月時点での正規価格は37,950円ですが、HIFIMANは頻繁にセールを行うことに加え、SUNDARAは発売から6年以上が経過しているためセール時の値下げ幅も大きく、タイミングによっては2万円台での購入も可能です。

音質の評価条件について

クリックで展開

エージング(慣らし)について

100時間以上のエージングを終わらせた状態の個体に付属品のケーブルを組み合わせています。
エージングには手持ちのFLAC音源とSpotifyで作成した音質評価用プレイリストを使用しています。

評価に使用する音源について

音質評価に使用する音源は、手持ちのCDから取り込んだFLAC音源とSpotifyで作成した音質評価用プレイリストです。Spotifyのプレイリストは公開していますので店頭での試聴の際などでも使用できます。

音質評価用プレイリスト内の楽曲については以下の記事で解説しています。
abusan3225.jp

評価に使用する再生機器について

HIFIMAN SUNDARAのレビューにおいて以下の再生機器と設定値の組み合わせで使用しました。
各機器の音量合わせにはSpotify試聴用プレイリストから WONDER POP by Moe Shopを使用して行っています。
open.spotify.com

機種名(※1) ゲイン 音量(※2) フィルター 備考
FiiO M11 Plus LTD(M11PL) Middle 75 Low Dispersion Delay Filter
HiBy R6 Pro Ⅱ(R6P2) High 43 Low Dispersion Delay Filter ABアンプ
HiBY FC6(FC6) --- 17(※3) Darwin Ultra NOSモード
HDRオフ

※1. 括弧内は記事中で使用する略称です。
※2. 音量の設定値はSpotifyにて音量の均一化を有効化し、音量レベルを低音量にした状態で、私が普段の音楽鑑賞で使用する音量設定に合わせた場合の値です。
※3. FC6の音量はmotorola g52j 5GにDDHiFi TC09Sを用いて接続し、スマホ側の音量設定を100%に設定した状態において、上記の条件と同等となるように本体で設定した値です。

客観的な評価をするように努めていますが、あくまでも私個人の経験を共有するものです。聴覚には個人差や好みによる違いがありますので、購入の際には可能な限り実際に試聴されることをおすすめします。

音質

SUNDARAの音質で特に素晴らしいのは周波数帯域のバランスでしょう。10kHz以上の超高音が僅かに強く出ることがありますが、人間の可聴域全体で過不足無くフラットに聞こえるような優れたバランスを持っています。
開放型ヘッドホンでは低音が抜けやすいため60Hz以下のサブベースが物足りなくなる機種が多いのですが、SUNDARAは大きな開口部を持ちながら30Hz付近の超低音も不足なく鳴らすことができます。
十分な駆動力があるアンプであれば平面磁界型ドライバーらしく個々の音に力強さのある音を鳴らします。その反面、持続音や余韻の再現が苦手です。全体的に音の隙間が開いてしまい、空気感の表現が欠如しているように感じます。

時代に取り残された空間表現

SUNDARAの空間表現は左右が強く強調されており、奥行きはほとんど表現されていません。
左右方向では開放型ならではの広い音場が上手く生かされており、ハウジングの外側の領域まで使っているかのような音の広がりを感じさせています。高さに関しては狭いものの及第点でしょう。問題の奥行きは1万円クラスのイヤホンですら表現できている僅かな空間も感じられません。
奥行きが無いことでドライバーを繋ぐ一本の線に全ての音が集まっているかのようです。開放型という構造と、左右の強調された広がりがありますので閉塞感はありませんが、窮屈で平坦なサウンドとなってしまっています。

open.spotify.com 冒頭の拍手と音出しの時点でレコーディングされたスタジオの広さと空気感がよく分かる音源です。 [ SUNDARAでは奥行き感を感じられないため、曲が始まってからも楽器の位置関係が明瞭ではありません。

ややシャリ付く高音

平面磁界型の良さを感じさせるような質の高い高音を鳴らします。明瞭で抜けの良さを持ちながら金属的な質感が維持されています。
超高音ではシンバル系の音がシャリ付きます。強い不快感を与えるようなものではありませんが、自然な音色とは言い難いため人によっては過剰な演出だと感じるでしょう。

open.spotify.com 中音や低音とのバランスは問題ないのですが、冒頭のシンバル系の音がシャリ付いてしまいます。
個人的な感覚では過剰な演出だと感じられます。ギターの中音に被ってしまいバランスが取れていない印象を受けます。

確かな音像で聞かせる中音

基本的には平面磁界型らしさのある確かな音像を持った音を鳴らします。凹むことはなく聞きやすい音です。
1kHz以上ではシャリ付いた高音の影響を受けることでザラザラとした粗を感じる場面があります。確かな音像を感じるにもかかわらず音が軽く感じる場面もありました。

open.spotify.com サックスとスネアドラムの音が軽く聞こえることで全体的に雰囲気のない楽曲のように感じられてしまいます。

ディティールの表現が素晴らしいボーカル

ボーカルは平面磁界型の特徴であるディティールがはっきりとしたサウンドの恩恵を強く受けています。
声の周波数帯域を問わず滑らかで伸びも太さもあります。古い製品ですので8kHz付近の刺さりが強くなるポイントではチューニングの甘さがありますが、6年前ということを考慮しなくても十分に質の高いボーカルを鳴らします。

open.spotify.com ところどころサ行に刺さりを感じるものの、喉の奥を捉えたボーカルを細かいところまで描写しています。
平面磁界型らしい硬さの残る音ではありますが、ボーカルを楽しむには問題ない音質です。

豊かでありながら欠点も見えてしまう低音

低音は概ね質の良い音を鳴らします。キレがあって引き締まっていて、ロックやクラシックの低音を豊かに鳴らすことができます。
唯一苦手としているのはサブベース域で深く沈み込みじわっと広がるような低音です。ミッドベースや60Hzくらいのキックでは豊かな低音を鳴らしますが、持続音の再現を苦手とするドライバーの特性と、低音が抜けやすいという開放型の構造によるものでしょう。

open.spotify.com

総評「今となっては購入する価値はない」

良い点

  • 開放型ならではの開放感と抜けの良さ
  • 高音から低音までフラットな優れたバランス
  • 平面磁界型らしい確かな音像
  • 豊かな低音
  • 2018年のヘッドホンにしては良い音

良くない点

  • 音の隙間の表現が苦手
  • 奥行きのない左右に間延びした空間表現
  • シャリ付いてしまう高音
  • 粗が見え隠れする中音

SUNDARAは古いヘッドホンです。6年前に発売され、2022年には密閉型のバリエーションモデルが出ましたが、製品そのものへのアップデートはされていません。
国産のハイエンドモデルなどでは10年前の製品でも良い音だなと思えるものもありますが、中華ブランドは製品寿命が短く、SUNDARAもその例に漏れず2024年の今となってはわざわざ購入する意味はないように思えます。
SUNDARAのサウンドで今でも通用するのは高音から低音までフラットなバランスと豊かな低音くらいのもので、それ以外の部分は2024年の基準で見ると価格に見合っていません。SUNDARAに3万円のお金を払うのであれば、同ブランドのHE400SEやDeva Proを購入したほうが良いでしょう。