Abusan’s Journey

Photography, Drive, Journey, Camera, Audio, IM@S by abusan3225(あぶさん)

THIEAUDIO Ghost レビュー「特徴的ながら自然でTHIEAUDIOらしさのあるサウンド」

おはこんばんちは、あぶさんです。
今回は前回に引き続きヘッドホンをレビューします。レビューするヘッドホンはTHIEAUDIOの「Ghost」です。

外観・特徴

THIEAUDIO GhostはTHIEAUDIOブランドにおいて3つ目となるヘッドホン製品です。THIEAUDIOブランドにはPhantomとWraithの平面磁界型ドライバーを採用したヘッドホンがありますが、Ghostはオーソドックスな40mmダイナミックドライバーを採用しています。THIEAUDIOがヘッドホンにダイナミックドライバーを採用するのは初めてのことです。
40mmダイナミックドライバーは熱可塑性ポリマーフィルムスタビライザーにサーメット(セラミックと金属の複合材)を積層したものを使用しており、ドライバーにサファイアという名前をつけ、革新的な40mmドライバーであると謳っています。

パッケージはヘッドホンならではの大きさです。箱の中にはセミハードタイプのキャリーケースが収まっており、ケースの中にヘッドホン本体やケーブルなどが収められています。

ヘッドホン本体はシンプルな構造を採用しています。折りたたむことはできず、調節機構はZ軸方向の僅かな回転とバンドの長さを調節する機能のみとなります。Y軸方向の回転機構はありませんが、アームは前後で捻りが加えられているため頭部の形状にフィットするようになっています。細かい配慮としてハウジングがアームに当たる部分に小さなパッドを貼り付けることでカチャカチャという音を立てないようになっています。
ベロアタイプのパッドは適度に柔らかいものが採用されていますが、側圧がやや強いため箱出しでは少し不快感を覚えるかもしれません。
THIEAUDIOは開放型を選択した理由として、ヘッドホンというデバイスにおいて可能な限り自然なサウンドを提供するためだとしています。Ghostの音響チューニングにおいても人間の聴覚特性に合わせた自然なサウンドを目指したとしており、同ブランドのイヤホンと音質的に目指すところは同じところにあるようです。

ケーブルはヘッドホン側でLRが分離されたタイプです。端子は全て3.5mm標準プラグが採用されています。
線材は銀メッキのOFCで、ホットとコールドが完全に分離された4芯構造を持っています。このような構造を採用する場合は4本を編むようにすることが多いのですが、Ghostでは並列にケーブルを並べたフラットタイプが採用されています。

THIEAUDIO Ghostの国内正規価格は19,800円です。国内での販売は正規代理店のナイコムが行っていますが、AmazonではTHIEAUDIOブランドを展開するLinsoulからも購入が可能となっています。
最安はAmazonのLinsoulですが、国内でもポイント付与によってほぼ同じ価格で購入することが可能です。

eイヤホン : 19,800円 + 1,980ポイント

https://www.e-earphone.jp/products/detail/1508600/

フジヤエービック : 19,800円

https://www.fujiya-avic.co.jp/shop/g/g200000065620/

Amazon (LINSOUL-JP) : 17,820円 + 535ポイント

https://www.amazon.co.jp/dp/B0BS8JNJMZ

音質の評価条件について

クリックで展開

エージング(慣らし)について

100時間以上のエージングを終わらせた状態の個体に付属品のケーブルを組み合わせています。
エージングには手持ちのFLAC音源とSpotifyで作成した音質評価用プレイリストを使用しています。

評価に使用する音源について

音質評価に使用する音源は、手持ちのCDから取り込んだFLAC音源とSpotifyで作成した音質評価用プレイリストです。Spotifyのプレイリストは公開していますので店頭での試聴の際などでも使用できます。

音質評価用プレイリスト内の楽曲については以下の記事で解説しています。
abusan3225.jp

評価に使用する再生機器について

THIEAUDIO Ghostのレビューにおいて以下の再生機器と設定値の組み合わせで使用しました。

機種名(※1) ゲイン 音量(※2) フィルター 備考
FiiO M11 Plus LTD(M11PL) Low 82 Low Dispersion Delay Filter
HiBy R6 Pro Ⅱ(R6P2) Low 54 Low Dispersion Delay Filter ABアンプ
HiBy FC6(FC6) --- 14(※3) Darwin Ultra NOSモード
HDRオフ
EarFun UA100(UA100) Low 40(※4) Brick wall filter

※1. 括弧内は記事中で使用する略称です。
※2. 音量の設定値はSpotifyにて音量の均一化を有効化し、音量レベルを低音量にした状態で、私が普段の音楽鑑賞で使用する音量設定に合わせた場合の値です。
※3. FC6の音量はmotorola g52j 5GにDDHiFi TC09Sを用いて接続し、スマホ側の音量設定を100%に設定した状態において、上記の条件と同等となるように本体で設定した値です。
※4. UA100の音量はmotorola g52j 5GにDDHiFi TC09Sを用いて接続し、スマホ側の音量設定を100%に設定した状態において、上記の条件と同等となるようにEddict Playerで設定した値です。

客観的な評価をするように努めていますが、あくまでも私個人の経験を共有するものです。聴覚には個人差や好みによる違いがありますので、購入の際には可能な限り実際に試聴されることをおすすめします。

音質

Ghostは中音から低音が強く、高音はやや控えめな周波数特性を持っています。ハーマンターゲットカーブなどの流行に沿ったヘッドホンやイヤホンに慣れていると強く独特なサウンドに感じられるでしょう。
人間の内耳が持つ構造上、低い周波数の音が高い周波数の音に干渉する周波数マスキングという現象が発生するため、200Hz付近を抑え、等ラウドネス曲線などに準じた周波数特性となるようなチューニングが主流となりつつあります。200Hz付近での周波数マスキングは低音と中音の分離を妨げ、ベースは追いづらく、ボーカルは埋もれてしまいます。

Ghostの周波数特性は200Hz~500Hzで大きな膨らみがありますが、周波数マスキングによるネガティブな印象は特に感じられません。
低音と中音はしっかりと分離され、ボーカルは中央に定位し、高音から超高音までの見通しも悪くありません。高音は確かに中音や低音と比べて控えめなのですが、超高音ではちょうどよい塩梅で刺激が残るようにチューニングされており、心地よく優しい音でありながら楽しめるという相反する要素を両立したサウンドを実現しています。
独特な周波数特性とは裏腹に音場や定位感はとても自然で癖が無く、個々の音には確かな音像を感じさせます。細かいところまで分析的に聞き込んでも粗が見えず、THIEAUDIOらしい丁寧で精細な描写力が感じられます。

インピーダンス60Ωに感度91dBというスペックを見る限りでは音量の取りづらさという意味で鳴らしにくいと思われるかもしれませんが、実際のところはスマホのイヤホンジャックからであっても十分に余裕のある音量を確保することが可能です。
音質的な鳴らしにくさという意味では高い出力を要求しないためエントリークラスのDACドングルでも問題なく鳴らせます。ただ、それはエントリークラスのDACドングルであっても上位機種と同様の音質を実現できるという意味ではありません。

Ghostのサウンドは中低音寄りで暖かみのあるサウンドとして完成されており、優秀なエンジニアの手による一つの答えを見せてくれるヘッドホンです。いたずらに流行を追いかけず、強い特徴を持ちながら不自然ではない質の良いサウンドへと昇華させており、THIEAUDIOらしさが詰め込まれたヘッドホンだと思います。

  • I'm Gonna Sit Right Down And Write Myself A Letter ‑ ポール・マッカートニー open.spotify.com 張りのあるスネア、豊かに響くベース、小気味よく艶のある音を鳴らすピアノ、そしてポールのしゃがれた歌声。個々の音の質もそうですが、音の隙間、すなわち空気感がしっかりと再現されなければ全体の調和が乱れ、実在感のある音は鳴らせません。

高音

Ghostの高音は2kHz~6kHzの高音を大きく抑え、6kHz以上の超高音を少し持ち上げています。
不快な刺激を抑えるためには高音から超高音にかけてなだらかに減衰させていく必要がありますが、抑えすぎてしまうと退屈で味気のない音になってしまいます。控えめでありながら金属的な質感や残響が丁寧に描写され、シンバルやピアノの音が埋もれることはありません。開放型ならではのスッキリとした見通しの良さも合わさることで、ちょうどよい塩梅で心地よく優しい音を響かせます。

  • 青春コンプレックス ‑ 結束バンド open.spotify.com 冒頭のアクセントとなっているクラッシュシンバルの音は意外と鳴らすの難しく、超高音のチューニングが甘い場合はシャリ付いてしまったり埋もれてしまいます。ハイハットの音と同様の実在感が出るような描写力が試されます。
    Ghostには高い描写力があります。シャリ付くことも埋もれることもありません。

中音

中音は過度に加飾されてはいませんが、適度な艶や滑らかな質感、確かな音像、細かなところまで行き届いた丁寧な描写が感じられます。全体的なまとまり感と個々の音の捉えやすさも上手く両立されています。
総じてレベルが高い音質を実現しており、特徴的なバランスを持った周波数特性とは裏腹に、癖のない自然で実在感のあるリアルなサウンドです。

  • Caravan ‑ John Wasson open.spotify.com ビッグバンド系のジャズはブラスが一斉に吹く場面などで音が団子になりがちです。複数のブラスを感じさせる厚みがなければいけません。そして何よりも音の質に粗が見えてはいけません。
    Ghostは音の厚みと音の質は言わずもがな、自然な音場と定位感によって空気感や音の隙間の表現も上手く、実在感のある中音を鳴らします。

ボーカル

ボーカルは埋もれること無く中央に定位し、女性ボーカルの艶や男性ボーカルの芯をしっかりと表現しています。
決してリッチなサウンドではありませんが、喉を捉えた録音だけが持つ染み入るようなボーカルを2万円以下のヘッドホンで聞くことができます。

  • 愛は静かな場所へ降りてくる(2011リマスター・バージョン) ‑ ザバダック open.spotify.com ボーカルや中音だけでなく高音から超高音までの倍音をどのように鳴らすかで聞こえ方が大きく変わります。ハイ上がりになってしまったり、抑えすぎて伸びや艶が損なわれてしまいます。
    Ghostは愛は静かな場所へ降りてくるを染み入るように鳴らせます。THIEAUDIOのエンジニアは本当に素晴らしい仕事をしました。

低音

周波数特性的にはミッドベースが強く膨らんでいるのかとも思ったのですが、意外にもミッドベースからサブベースまでフラットに鳴らし、抜けすぎることもボワ付くこともありません。唸るようなサブベースもしっかりと鳴らします。中音との分離も問題なく、ベースも追いやすいため楽曲全体のリズムを掴みやすくなっています。
苦手としているのは深く沈み込んで広がるように響くサブベースと、僅かに欠けたアタック感です。特に低音を好む場合や、メタルなどの素早いレスポンスと強いアタック感を要求するようなジャンルではGhostの低音は大きな欠点となるかもしれません。
THIEAUDIOは低音の量感を増やしたいユーザーに向けて厚みのあるイヤーパッドへの交換を推奨しています。楕円形で高さが11cmくらいのパッドであれば適合するでしょう。

  • Planet Dada ‑ Yello open.spotify.com エフェクタを使った楽しげなサウンドを小気味よくドンドンと鳴らす楽曲です。
    こういうEDMなどにも通じる電子音楽系はアタック感や量感が重視されがちですが、意外と全体のバランスや質の良さも大事だったりして再生機器の性能を試すようなものが多かったりします。この楽曲もそういうタイプの楽曲で、小気味よく鳴らしながら質感の表現力も要求します。
    Ghostの音質は全体的にゆったりとしている印象があるためレスポンスやアタック感に優れているわけではないのですが、表現力がそれをカバーしているため意外と悪くない音を鳴らします。バッチリ合うとはいかないものの、合わないから楽しめないというタイプでもありません。好みによっては物足りないかもしれませんが、個人的にはGhostで聞くEDMは好きですね。

総評「THIEAUDIOらしさが詰まったヘッドホン」

良い点

  • 特徴的なバランスと自然な音色の両立
  • ちょうどよい塩梅で聴かせる高音
  • 粗のない実在感のある中音
  • フラットでバランスの良い低音
  • スマホでも十分な鳴らしやすさ
  • リケーブル & バランス接続に対応

良くない点

  • 側圧が強め
  • レスポンスやアタック感に欠ける

THIEAUDIO Ghostは特徴的であることと自然であることを両立したヘッドホンです。ブランドの宣伝では「人間の耳の知覚聴覚に完全に一致する音のバランスを達成した」とありますが、聞けば聞くほどにその意味がわかります。THIEAUDIOのエンジニアは、単純なハーマンターゲットカーブに沿ったバランスとは真逆でありながら、そのサウンドは極めて自然な音色に聞こえるように緻密なチューニングを行いました。
オーディオ趣味への入口としてヘッドホンを選ぶ際にもおすすめできます。特にエントリークラスではなく少し予算を増やしてより良い製品を求めたいのであればGhostは良い選択肢となるでしょう。上位の製品を増やしたとしても手元に残しておきたくなるヘッドホンです。