おはこんばんちは、トラペジウムという映画に脳を焼かれたあぶさんです。
今回レビューするイヤホンは中華イヤホンブランドでお馴染みのNICEHCKから約1年半前に登場したNX7 MK4です。
初代NX7からトライブリッド構成を貫き続け、NICEHCKの看板商品とも言えるNX7の最新バージョンをじっくりとレビューしていきます。
NICEHCKの看板商品「NX7シリーズ」
初代NX7は2019年に登場した製品です。ピエゾドライバー + 4BA + 2DDというトライブリッド構成を1万円以下という低価格で送り出しました。
その音質は高域のピエゾドライバーが強く主張しながら表現力が高く、低価格で高音質なイヤホンとして高く評価されました。
NICEHCKのラインナップやネーミングが変わっていく中、NX7はMK2、MK3と世代を明確にしています。NICEHCKにとってNX7というプロダクトを大切にしたいということなのでしょう。そして2022年10月に出たのが今回レビューするNX7 MK4です。
NICEHCKにNX7よりも高額なイヤホンが無いわけではありません。TopguyやLofty、最近ではチタンシェルで名実ともにフラッグシップと呼ばれるHimalayaがあります。それでもNX7というイヤホンはNICEHCKの看板商品としてハイエントリー~ミドルクラスを支えています。
外観・特徴
最近のNICEHCKはキャラクターのイラストをパッケージに使用する製品が増えています。 NX7もその流れに乗るのかなと思いきや「やっぱNICEHCKと言えばこうだよな」という安心感すら覚えるような製品名と製品CGをシンプルに配置しています。
十分な容積を持つポーチが付属します。自宅での保管や外出時の持ち運びに役立つでしょう。
ドライバー構成は2DD + 4BA + 1PZT(ピエゾツィーター)です。ドライバーの数や組み合わせはMK1から変わっておらず、合計した数の7はNX7の7です。ドライバー自体は改良が重ねられているようで、ダイナミックドライバーの振動板にベリリウムコーティングが施されています。
ケーブルはOCCの銀メッキ線です。見た目はかなり高級感があります。TFZタイプのカバー付き2pinが採用されています。
NX7はプラスチックのシェルに金属のフェイスプレートという構成が続いていましたが、MK4ではフェイスプレートに金属 + レジン + ウッドの3つの素材を組み合わせています。
見た目はかなり美しく質感も高く感じます。MK3では格安感と言いますか、どうしても野暮ったい印象が拭えませんでしたが、ほぼ同じ価格ながらMK4は確かな高級感を感じさせます。
イヤーピースはグレーの汎用品とAET07クローンのNICEHCK 07が付属します。
NICEHCK 07は装着感・音質で優れているイヤーピースです。5つのサイズが付属するため追加でイヤーピースを購入する手間はかかりません。
NX7 MK4にはフィルターを交換することで音質を調整できる機構が用意されています。
正直なところ、こういったユーザー側で音質を変える機構(スイッチなど)は、あっちを立てればこっちが立たないと言ったような、どのチューニングで聞いてもしっくりこないことが多いため私の好みではありません。
特性は周波数帯域 20Hz~28kHz、インピーダンス 39Ω、感度はフィルターによって変わります。ゴールドが112dB/mW、レッドが113dB/mW、ブラックが110dB/mWです。
国内AmazonにてNICEHCKから正規販売が行われております。非セール時でもAliExpressよりも安いため、特に理由がない限りはAmazonでの購入をおすすめします。
Amazon (NICEHCK):14,750円
https://www.amazon.co.jp/dp/B0BGN1DMVF
音質の評価条件について
クリックで展開
エージング(慣らし)について
100時間以上のエージングを終わらせた状態の個体に付属品のケーブルを組み合わせています。
エージングには手持ちのFLAC音源とSpotifyで作成した音質評価用プレイリストを使用しています。
評価に使用する音源について
音質評価に使用する音源は、手持ちのCDから取り込んだFLAC音源とSpotifyで作成した音質評価用プレイリストです。Spotifyのプレイリストは公開していますので店頭での試聴の際などでも使用できます。
音質評価用プレイリスト内の楽曲については以下の記事で解説しています。
abusan3225.jp
評価に使用する再生機器について
NICEHCK NX7 MK4のレビューにおいて以下の再生機器と設定値の組み合わせで使用しました。
今回からレビューに使用する再生機器が一部変わっています。
EarFun UA100の使用を取りやめました。本体での音量調整ができないなど、2024年の新商品に対してアドバンテージが無く、レビューで使用する意味はないと判断したためです。
機種名(※1) | ゲイン | 音量(Gold)(※2) | 音量(Red)(※2) | 音量(Black)(※2) | フィルター | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|
FiiO M11 Plus LTD(M11PL) | Low | 63 | 61 | 66 | Low Dispersion Delay Filter | |
HiBy R6 Pro Ⅱ(R6P2) | Low | 40 | 39 | 42 | Low Dispersion Delay Filter | ABアンプ |
HiBy FC6(FC6)(※3) | --- | 9 | 8 | 11 | Darwin Ultra | NOSモード HDRオフ |
※1. 括弧内は記事中で使用する略称です。
※2. 音量の調整にはSpotifyで配信されている WONDER POP by Moe Shop を使用しています。音量の均一化を有効化し、音量レベルを低音量にした状態で、私が普段の音楽鑑賞で使用する音量設定に合わせた場合の値です。
※3. FC6のmotorola g52j 5GにDDHiFi TC09Sを用いて接続し、スマホ側の音量設定を100%に設定しています。
客観的な評価をするように努めていますが、あくまでも私個人の経験を共有するものです。聴覚には個人差や好みによる違いがありますので、購入の際には可能な限り実際に試聴されることをおすすめします。
音質
NX7 MK4はやや強めのV字傾向のバランスを持っています。全体的に個々の音をはっきりと鳴らす元気で派手目な音ではありますが、派手というだけで音の質を誤魔化すようなタイプではありません。ゆったりとしたスローテンポな楽曲でも滑らかで質の良い音を鳴らします。
決してモニターライクなサウンドではありません。この音はこのドライバーから鳴ってるんだなとわかるような多ドラらしいサウンドです。
音色自体は自然だと言える範囲に収まっていますが、高音から超高音にかけてのBAとピエゾツィーターの音が重なる部分で癖の強さを感じます。NX7のピエゾツィーターはアンプの特性や駆動力の影響を受けやすく、ピエゾからの出音をちょうどいいバランスで収められるかどうかで印象が大きく変わるでしょう。
窮屈に感じさせない空間表現
NX7 MK4の音場は少し狭い印象があり、個々の音が近く奥行きや高さの表現もそれほど上手いとは言えませんが、1万円クラスと考えれば価格相応と言えます。
奥行きや高さが全く無いというわけでもなく、高音の持続音や倍音、ホールトーンをピエゾツィーターによって適度に残すことで音の広がりを感じさせ、窮屈なサウンドにはならないようにチューニングされています。
空間表現はEDMやトランス、空気録音された音源などのジャンルで非常に重要な要素となります。EDMなどの電子音楽では低音を重視しがちですが、欧米の電子音楽で重要なのは空間表現と超高音から超低音までのダイナミックレンジです。音源が持つ優れたダイナミクスを広い空間に展開できる表現力が求められます。 奥行きや高さが完全に損なわれてしまうと音が近すぎたり平坦で耳に届かない不自然なサウンドとなってしまいます。例え他の要素が優れていたとしても聞けたものではありません。NX7 MK4の音場は狭いと感じますが、不自然に聞こえない範囲で上手くチューニングされています。
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NYのスタジオに関係者を入れてステージを再現したアルバムです。冒頭に入る拍手の音から全体の広さや空気感が感じられます。
NX7 MK4では空間が少し狭く感じられますが抜けは悪くありませんし、狭いながらもステージ感が上手く表現されています。価格を考えれば十分だとも言えますし、楽しめない・合わないということはありません。
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やはりNX7 MK4がメインとしているターゲットはアニソンやJ-POPに近いところにあるのでしょう。
平坦でダイナミクスが少ない音源では奥行きのあるイヤホン・ヘッドホンとの相性が良くないことがあります。いわゆるボーカルが遠い・凹むという現象が発生します。中音域の過度な凹みや減衰によっても発生しますが、奥行きのある空間表現を持った環境でも発生します。
NX7 MK4は奥行きがやや狭いためボーカルとの距離が近い印象があります。THIEAUDIO Hype 2やTKZK Ouranousなどの空間表現が優れたイヤホンではボーカルとの距離を遠く感じます。
個人差を埋められるフィルター交換機能
NX7 MK4にはネジ込み式フィルターによる音質調整機能が備わっています。標準はゴールドですが、変更することで中音から高音にかけての周波数特性を変更することができます。レッドは高音の刺激を増やし、ブラックはレッドと対象的に高音の刺激を抑えて中低音を増やします。
仕様上では最大で2dBの変化があるとされています。人間は3dBの違いで音量が2倍になったと感じますから、2dBの変化は非常に大きな差です。フィルターを変えるのであれば再生機器側の音量も調節する必要があります。
リケーブルを考えない場合、私の耳と相性が良いフィルターはゴールドのようです。
ゴールドは刺激を楽しみながら女性ボーカルの刺さりも不快になりません。中低音に少し不満が残りますが許容範囲内です。
2番目に好みなのはブラックです。ゴールドと比べて男性ボーカルとの相性が改善されますが、女性ボーカルの伸びが抑えられてしまいます。
最も相性が悪いのはレッドです。女性ボーカルの刺さりが強すぎるためリケーブルなどでの対策が必要です。
高音は外耳道内の共鳴によって個人差が生まれやすくなります。人によってはレッドやブラックがちょうどよいと感じることもあります。個人差を埋めるための機構としてのフィルター交換は、手間がかからず変化もわかりやすいため良い仕組みです。
ピエゾツィーターの癖がある高音
高音は明瞭でスッキリとした音を鳴らします。僅かに感触よりでピエゾツィーターの癖もありますが、わざとらしいブーストを感じさせるような音ではありません。金属的な質感も荒れることなく再現されますし、超高音の持続音や倍音を適度に補完することで音に広がりを感じさせます。
先にも書いたように上流の機器や個人差で感じ方が大きく変わります。フィルターは高音域の聞こえ方で決めると良いでしょう。適度に強調された刺激のある音でありながら不快ではないというバランスが理想です。
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欧米のエレクトリック系で多用される超高音をNX7 MK4のピエゾツィーターは僅かに強調します。
優れた低音とともにEDMやトランスを盛り上げます。再生周波数の上限こそ28kHzに留まっていますが、ハイレゾ対応を謳いながら超高音の表現に難のある機種よりも優れています。
やや控えめながら作り込まれた中音
中音は高音や低音と比べると控えめで大人しく感じます。大きく凹むということはありませんが、中音を主体とした楽曲では物足りなく感じることがあります。高音の刺激が強くなるレッドフィルターで特に顕著です。
低価格帯のイヤホンでは中音の粗を隠すようなチューニングをしていることがありますが、NX7 MK4の中音は凹むものの細かく聴き込んでも粗は見えません。
NX7 MK4の中音で問題となるのはスネアドラムのアタック感でしょう。中音自体はそこまで凹んでいないのですが、スネアドラムだけはアタック感に乏しい印象が拭えません。
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冒頭のスネアドラムは皮の張りを感じさせ、ピアノとベースがリズムを作ります。
NX7 MK4の中音は自然な音色で不自然ではありませんがスネアドラムのアタック感が損なわれています。
BAらしい艶のあるボーカル
NX7 MK4は特に女性ボーカルが素晴らしいと感じました。ピエゾツィーターの高音が女性ボーカルの倍音を上手く伸ばし、BAらしい艶と湿っぽさとの相乗効果で心地よく聞かせます。
スローテンポなバラードでも細かいところまで精細に描写する能力があり、1万円クラスとしてはなかなかのレベルです。
女性ボーカルに対して男性ボーカルは少し控えめな印象です。ディティールの再現は優れているものの、中低音の下支えが弱いため安定感が欠けてしまい軽めに聞こえます。
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このアルバムは細かいところまで鮮明に捉えた録音で高く評価されています。シンガポール出身のジャシンタのソロで始まるDanny Boyは、ボーカルだけなのに空間がふわっと広がって音が回り込み、リアリティを感じさせます。
NX7 MK4では女性ボーカルの伸びの良さとディティールの再現度が優れていることを感じさせます。
open.spotify.com NX7 MK4の男性ボーカルは再現度という意味では悪くありませんが、地の底から湧き上がるような量感が無く、全体的に淡々とした印象が拭えません。
僅かに控えめながら質の高い低音
低音は150Hz付近がやや控えめなものの、サブベースまでバランス良く鳴らします。
ピエゾツィーターが入る高音と比べて僅かに控えめな印象はありますが、キレの良い引き締まった低音を鳴らし、沈み込みや広がりも問題ありません。ベリリウムコーティングが良い仕事をしている優れた低音です。多ドラらしく中音との分離感も優れています。
低音が物足りない場合はブラックフィルターへの変更、もしくは高純度銅線へのリケーブルで改善することが可能です。
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このアルバムは1992年に発売された古いものですが、CD音源のポップスの中でトップクラスの音質を持っています。
様々な低音が入っており、量感だけでなくキレや弾みなどの総合的な要素を試されます。
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ズドンと入るサブベースがどこまで沈み込むかを試されます。
NX7 MK4はベリリウムコーティングのデュアルダイナミックドライバーによってサブベースの表現力が高いため、このような性能を試すような音源でも違和感がありません。
イヤーピース、リケーブル
NX7 MK4の付属イヤーピースやケーブルは特に品質的な問題はなく、音質、装着感ともに良好です。
追加で何かを購入する必要はありませんが、音質を追求するというマニア的な楽しみ方は可能です。
イヤーピース
定番のJVCスパイラルドットに変更することで音の減衰を抑えられます。中低音の量感を僅かに改善するため男性ボーカルの深みが増します。
高音の刺激が強すぎると感じるならフォームタイプのイヤーピースを選ぶとよいでしょう。final Eタイプで強く減衰させるのも一つの手です。
他にもWhizzer ET100、TRI Clarionなども装着感を向上させます。
リケーブル
NX7 MK4のりケーブルは中音と低音を重視し、線材の質が良いものを選ぶべきです。安価な銀メッキ線はピエゾツィーターの音質を低下させるため非推奨です。
NICEHCK FourMix
NICEHCKがNX7 MK4との組み合わせでおすすめしているケーブルです。
周波数帯域バランスは中高音寄りに変化し、少し音場が広く感じるようになります。空間表現を改善したいなら候補に上がるでしょう。
ピエゾツィーターの癖が出やすくなるため派手な音になりやすく、好みが分かれる組み合わせです。
NICEHCK 龍鱗
こちらもNICEHCKがおすすめしています。
FourMixとは逆に中低音寄りへと変化します。奥行きと高さの空間が大きく変化し、空間表現に関するネガティブな部分をほとんど打ち消します。
ドライバーの限界を試すかのような質の良さがあり、確かに高音質ではありますがNX7 MK4の性能に対して過剰すぎる印象も拭えません。確かに良い音にはなりますが、龍鱗の価格を考えると選択肢としては考えにくいです。
Yongse Galaxy
5Nを謳う8芯純銀ケーブルです。5Nかどうかはわかりませんが、純銀線らしいクリアで全体的に音を持ち上げます。
NX7 MK4との組み合わせでは全体的に音が派手目に出る印象です。中音の厚みが増すことでオールラウンダーな傾向が強くなります。FourMixほどではありませんが空間表現にも一定の改善が見られます。
NICEHCK LitzPS
NICEHCKの4芯4N純銀線です。安価ながら質の良い純銀線ということで人気があります。
Yongse Galaxyと同様にオールラウンダーなバランスへと変化しますが、全体的に音が細くなる印象があります。NX7 MK4はドライバーの数が多いため線材の太さや芯の数は音質に大きな影響を与えます。
THIEAUDIO EST
THIEAUDIO Hype 2の付属ケーブルですが単体での購入も可能です。線材は26AWG 5N OCCを採用し、高純度の銀メッキ層を設けています。
音質傾向はGalaxyと似ていますが、空間表現についてはFourMixのように奥行きと高さが広がる印象です。
NICEHCK SuperBlue
既に生産終了しているケーブルですが、純銅線へのリケーブルのリファレンスとして使用しています。
高純度銅線らしく中音から低音にかけて厚みのある音を鳴らすようになります。FourMixや龍鱗と比べると空間表現や音の質では見劣りしますが、入手性を考えなければコスパに優れたケーブルです。
ピエゾツィーターによる高音の癖を程よく抑えてくれるため非常にバランスの良いサウンドへと変化します。
現状ではMMCX 3.5mmのみ在庫があるようです。eイヤホンのConXカスタマイズサービスを利用してみるのも良いかと思います。okcscのMMCX -> 2pin変換アダプタを使用しても良いでしょう。
総評「コスパと音質に優れたNICEHCKの看板イヤホン」
良い点
- 多ドラらしい楽しく聞けるサウンド
- ダイナミックレンジの広さ
- 狭い音場ながら窮屈には感じさせない空間表現
- ピエゾツィーターの癖を活かして表現力をアップした高音
- 控えめながら粗のない中音
- 伸びと艶のある女性ボーカル
- キレと締まりのある質の良い低音
- 個人差を埋めやすいフィルター交換機能
- そのまま使える付属品
- 良好な装着感
良くない点
- ピエゾツィーターの癖が出やすく、上流の機器を選びやすい
- リケーブルの必要性を感じる中音
- 男性ボーカルが物足りない
NX7はNICEHCKのブランドを背負う看板商品としてアップグレードを重ねてきました。
最近のNICEHCKは世界的にも通用するような優れたバランスと広いダイナミックレンジを持つサウンドが特徴的ですが、NX7 MK4もその流れを踏襲してレベルの高いサウンドを実現しています。
ネガティブな部分が無いわけではありません。私個人の好みもありますが、空間表現についてはもう少し頑張ってほしかったなと思うところです。
それでも1万円クラスでは優れた音質を持ったイヤホンであることには間違いありません。NICEHCKが持つサウンドチューニング技術はHIMALAYAでさらに評価を上げていますし、NX7 MK5がどうなるのかも楽しみですね。個人的にはMK5で空間表現がアップデートされると嬉しいですね。