おはこんばんちは、あぶさんです。
今回もオーディオ系のレビューとなりますが、イヤホンやヘッドホンではなく上流の再生機器となるDACドングル「EarFun UA100」をレビューします。
DACドングルは巷ではスティックDACやポータブルDAC・アンプなどなど様々な呼び方がある製品ですが、PC業界ではUSBで接続する小さな機器のことをドングルと呼びまして、海外のオーディオ業界でもDACドングルまたはドングルDACと呼ぶことが一般的です。そのため私のレビューでもドングルDACという呼び方に統一したいと思います。
外観・特徴
EarFunは安価ながら品質の良いワイヤレスイヤホンを多数開発しているメーカーです。AnkerやSOUNDPEATSと並んで低価格ワイヤレスイヤホンの一翼を担っています。今回レビューするUA100はEarFunの5周年記念モデルとして発売されたもので、中華オーディオメーカーShanlingとのコラボレーションモデルです。
UA100のモデル名やロゴはEarFunですが、見た目や中身はShanling UA2 Plusと同じもので、Shanlingの公式プレイヤーアプリであるEddict PlayerからDAC内の設定を変更することが可能です。
側面には小さなMODEボタンがあり、押しながら接続することでUSB Audio Class 1.0(UAC1.0)での接続が可能です。接続後は再生/一時停止ボタンとしても動作します。
本体側ではボリュームの操作はできません。Androidのみの確認ですが、スマホとUA100でボリューム設定が独立しています。UA100のボリューム設定はEddict Playerから行います。
UA100は親指くらいでコンパクトなサイズのため外箱も非常に小さく、IEMタイプのイヤホンすら入らないサイズです。
見た目は本当にShanling UA2 Plusにそっくりで、明確な違いはロゴがEarFunかShanlingかの部分しかありません。使用されているDACチップやアンプの性能も全く同じですのでEarFunだけの特別バージョンというわけではなさそうです。
DACチップはESS社製のES9038Q2Mを採用しています。9038という番号は同世代のDACチップでは最上位となるフラッグシップモデルを表す番号ですが、Q2Mとあるように強力な電源を使用できない環境向けとなるSABRE 2M DACシリーズ内でのフラッグシップという位置づけです。
PROシリーズには及ばないものの、高音質と低消費電力を両立でき、そして安価なため低価格なDACドングルでも採用例が多いチップです。DACチップの型番は宣伝にも用いられますが、音質の変化要因はDACチップよりもアナログ回路の設計が支配的であることがわかっています。
DACチップの音質差と他の音質変化要因 – Innocent Key
http://innocent-key.com/wordpress/?page_id=2563
非httpsのためエラーが出る場合があります。「この接続ではプライバシーが保護されません」という画面が表示されましたら、詳細設定から「innocent-key.com にアクセスする(安全ではありません)」をクリックすることでページを開くことができます。
アナログ部分の設計によってはDACチップが本来持っている音質を台無しにしてしまうこともあります。特にDACドングルはそのコンパクトさゆえにアナログ回路の設計に大きな制限がかかるため、フラッグシップDACチップを採用していたとしても音質が良いとは限りません。
付属品はType-C to Type-CのUSBケーブルとType-C to Type-Aの変換アダプタ、予備のHi-Res Audioロゴシール、取扱説明書です。
UA100はUSBケーブルの取り外し・交換が可能な構造を採用しており、USBケーブルが断線しても容易に対処が可能です。音質の優れたUSBケーブルへの交換や、iPhone用のType-C to Lightningケーブルへの交換も容易です。1万円を切る価格でケーブル交換に対応しているDACドングルは珍しく、3万円近い製品でも交換できない仕様のものがあったりします。
USBケーブルの材質は公表されていませんが、色からすると高純度の銅線でしょう。イヤホンやヘッドホンのケーブルと同様に4芯構造が採用されていますが、オーディオ用途のUSBケーブルとしては最悪な構造です。USB 2.0は動作周波数として480MHzという高周波が使用されているためオーディオ信号へ多大なノイズが発生します。このノイズはデジタルではなくアナログな領域のものになるため非常に厄介です。イヤホンやヘッドホンの高音質ケーブルと同様の構造や線材ではノイズ対策になりません。
DACドングルに使用するUSBケーブルにはDDHiFiのTCシリーズがおすすめです。信号線と電源線を完全に分離したうえで個別にシールドを行うことでUSB 2.0の高周波によるノイズを大幅にカットできます。
下位のTC07Sと上位のTC09Sがあり、線材の太さが違いますがシールド構造は同一です。購入は国内正規代理店となるミミソラオーディオの公式ストアやeイヤホンがおすすめです。
DD HiFi MFi07S /TC07S - ミミソラ
mimisola.com
DD HiFi MFi09S /TC09S - ミミソラ
mimisola.com
EarFun UA100を使用する前の注意点
UA100は使用する前に注意すべき点があります。デフォルトでは内部のゲイン設定が「High」、ボリューム設定は「90%」という非常に大きな値となっているため、スマホ側の音量設定によってはイヤホンを接続した瞬間に非常に大きな音が流れることで接続したイヤホンが故障してしまったり、最悪の場合は聴力に障害が残る可能性があります。
再生アプリによってはイヤホンを接続すると再生を開始してしまう設定がデフォルトになっていることもあり、咄嗟にイヤホンを耳から外すことも間に合わないこともあります。UA100に限らずイヤホンで音楽を聴く際は以下の手順を守ることで最悪の事態を避けられます。
- スマホにイヤホンを接続していないDACドングルを接続する
- 1の状態でスマホのボリュームボタンで音量を0にする
- イヤホンをDACドングルに接続する
- 再生アプリで音楽を再生する
- スマホのボリュームボタンを徐々に上げていく
先述した通りUA100の初期設定はゲイン「High」のボリューム「90%」です。初期設定のままTKZK Ouranous(32Ω, 110dB)を接続した場合、スマホ側の音量設定は下から3段目で私が普段聞いている音量になりました。
スマホ側のボリューム設定によっては接続しているイヤホンを壊すだけでなく聴覚に障害が残ってしまう可能性が高く、UA100の初期設定は非常に危険であると言わざるを得ません。
Eddict Playerを利用したゲイン・ボリューム設定
UA100はShanling UA2 Plusがベースですので、Shanlingの公式プレイヤーアプリであるEddict Playerから各種設定を変更することができます。
下記の設定方法はAndroidスマホでのみ確認しています。iOSではEddict Playerから設定変更ができないという情報があり、iPhoneしか持っていない場合はUA100の購入を見送ることをおすすめします。
- PlayストアからEddict Playerをインストールする
- UA100をスマホに接続する
- Eddict Playerを起動する
- 左上のUIからハンバーガーメニューをタップ
- 「USBデバイスコントロール」をタップ
- リストからEarFun UA100をタップ
- 「アクセスを許可しますか?」というダイアログが表示されるため「OK」をタップ
- 音量(ボリューム)、ゲインの設定を行う
ハイエンドのヘッドホンなど、高い出力をアンプに要求する機器を使用しないのであればゲインは「Low」に、ボリュームは「60~70」程度にしておくとよいでしょう。不意にスマホ側の音量が上がったとしても大事には至らないような設定にしておくと安心です。
UA100の初期設定やEddict Playerについての説明は付属する取扱説明書やEarFunの公式サイト、国内での正規代理店となるナイコムの公式サイトなどには記載されていません。何度も言いますが、UA100のゲインとボリュームは非常に危険な設定がデフォルトになっています。UA100は上記の設定を行ってから使用することを強く推奨します。
音質の評価条件について
100時間ほどの慣らしを終わらせた状態の個体を使用し、付属のUSBケーブルを使用します。
接続する機器は以下の3つを使用します。Dolby Atomosなどのサラウンド機能は無効化した状態です。
- motorola moto g52j 5G
- motorola edge 30 PRO
- LG V60 ThinQ
他にもASUS ROG Phone 5やNubia RedMagic 9 Proを持っているのですが、以下の理由から音質評価用として不適切だと判断しました。
- ASUS ROG Phone 5
- Diracのサラウンド機能を無効化できない
- Nubia RedMagic 9 Pro
- USB端子のシールドが不十分なため解消できないクリップノイズが入る
レビューには以下のイヤホン・ヘッドホンは下記を使用しました。
- イヤホン
- Acoustune HS1697TI
- Yanyin Moonlight
- THIEAUDIO Hype2
- TKZK Ouranous
- NICEHCK DB2
- Austrian Audio Hi-X65
音質評価の使用する音源はイヤホンやヘッドホンのレビューで使用しているものと同様に、手持ちのCDから取り込んだFLAC音源とSpotifyで作成した音質評価用プレイリストです。Spotifyのプレイリストは公開していますので店頭での試聴の際などでも使用できます。
客観的な評価をするように努めていますが、あくまでも私個人の経験を共有するものです。聴覚には個人差や好みによる違いがありますので、購入の際には店頭にて実際に試聴されることをおすすめします。
音質
UA100はフラットに近い僅かなカマボコ型のバランスを持ち、やや中音に厚みがあり高音と低音は僅かに控えめな印象があります。
ESS製のDACチップを採用した製品は寒色系でスッキリとした音を鳴らすイメージがあるのですが、UA100は高音から低音まで一貫して暖かみのある自然な音を鳴らします。
ダイナミックレンジは狭く、これは音場の狭さと立体感の乏しさに繋がっています。とは言え、十分な立体感のある空間表現を求めるならミドルレンジ以上のDAPでなければ難しく、1万円以下の小型DACドングルでそのレベルを求めるのは場違いというものです。解像度はそれなりと言ったところで、バスドラムを高速で叩いたり、シンバルの音が連続して強く出る音源は少し苦手です。
アンプの要求性能が高くなるハイブリッド・トライブリッド系イヤホンや感度の低いヘッドホンではネガティブな部分を顕著に感じます。カタログスペックでは300Ωという非常に高いインピーダンスにも対応するとなっていますが、実際に音質も含めて十分に使用できるのは32Ωクラスが限界でしょう。それも余裕のある1DD機であればの話であり、ハイブリッドやトライブリッドなら20Ω後半が限界だと思われます。押し出しの強い音を鳴らすため意外とパワーがあるように感じますが実際のところは価格相応です。
USBポートの出力に余裕がありそうなPCに接続してみても同様の結果でした。UA100はオペアンプにRT6863を2枚採用するなどして小さなサイズや価格を考えれば十分に良い音質を持っていると言えます。ただ、DAPとスマホの中間というよりは少しスマホに近い音質ですので過度な期待は禁物です。
バランス接続も試してみましたが音量が少し上がること以外には音質的な変化は感じられませんでした。出力が上がることで改善される部分もあるかなと思ったのですが無意味のようです。そもそもバランス接続自体がアンプの出力を稼ぐこと以外のメリットは少ないものですが、UA100のバランス出力はとりあえず端子を付けただけと言っても良いレベルです。デザイン的にも4.4mm端子の部分が不格好な印象がありますし3.5mmだけにして価格を下げても良かったのではと思います。
10万円クラスのDAPと比べれば相応の差はもちろんのこと、価格なりにネガティブな部分を感じることもありますが、親指ほどのサイズしか無い1万円を切るDACアンプということを考えるとコストパフォーマンスに優れた製品と言えます。3~5万円クラスのイヤホンなら特に問題なく鳴らせますし、低価格帯のイヤホンを楽しむという用途でもおすすめできます。
DDHiFi TCシリーズで音質を改善する
小型DACドングルのような1本のUSBケーブルを介して電源と信号の伝送を行うオーディオ機器では、USB 2.0の高周波による影響は無視できません。
デジタル部分への影響であれば問題ないのですが、この高周波ノイズはアナログ部分に影響する厄介なノイズです。DACドングルではUSBケーブルの構造やシールドで対策する他なく、特に電源線と信号線を完全に分離したタイプが最も効果的です。様々なオーディオ用USBケーブルがありますが、DDHiFiのTCシリーズが価格、入手性、効果において最も優秀なケーブルだと思われます。
10cmのTC07Sを使用しました。eイヤホンWEB本店にて購入し、価格は6,300円(税込)です。
www.e-earphone.jp
TC07Sを使用したところ音のディティールと低音で変化を感じられました。
音のディティールはスネアドラムの音に立体感が出ることで皮の張りが聞こえます。バスドラムの輪郭がはっきりすることで躍動感が出ます。
低音は大きな変化が感じられる部分です。付属ケーブルではサブベースが思ったようにミッドベースに付いてこない印象があったのですが、TC07Sではサブベースの沈み込みや広がりが改善します。低音の分離が改善することでベースラインを追いやすくなり音程の変化によるリズムの変化を聞き取りやすくなります。
UA100の購入を考えるならTC07Sも同時に購入しましょう。プラスで約6,000円を払ったとしてもお釣りが来ます。
接続先の機器による音質変化
USBポートを介して接続するDACドングルでは、相手側の機器との通信はデジタル信号ですので上流側のDACチップやアンプの性能は関係ありません。ただ、USBポート周りのシールド構造などで音質に変化が起きることがあります。
シールド不足によるノイズの発生
先にも書きましたがNubia RedMagic 9 ProのUSB3.0ポートやASUS ROG Phone 5の底面USB2.0ポートはプチプチというノイズが入ります。これはUSBポート周りのシールドが不十分なのか、USBポートに使用している部品に起因するものでしょう。motorolaのedge 30 PROやmoto g52j 5Gではそのような問題は発生しませんでした。
RedMagic 9 ProはTC07Sでノイズの影響を軽減することができますが、完全にカットすることはできませんでした。
ROG Phone 5はUSB3.0のサイドポートはノイズ対策が行われているのか問題なく使用できました。底面のUSB2.0ポートに接続する場合でもTC07Sを使用する、または省電力モードに切り替えることで耳に聞こえるレベルのノイズをカットすることができます。
音質そのものへの変化
先に書いたように上流側のDACチップやアンプの性能は影響しません。ノイズの有無による音質変化が支配的であり、音質そのものが変化することはほとんど起きないはずです。
所有しているスマホとDAPの計7台を使用して音質の変化があるかどうかを試してみたところ、DTSやDolby Atomosなどのサラウンドによる変化を除くと、HiBy R6 Pro Ⅱのみ明らかな音質の変化が感じられました。R6P2に接続すると音の前後感と低音の分離が明らかに向上します。R6P2はUSBポート周辺に金メッキが施されているためかもしれません。
総評「価格相応に上手くまとまったDACドングル」
良い点
- ES9038Q2M採用で1万円を切る価格
- 良い意味でESSらしくない音
- 中音に厚みがあり聞きやすいサウンド
- 1万円以下でUSBケーブルの交換に対応
良くない点
- 付属ケーブルは交換推奨
- バランス接続は不要
- 本体では音量調節不可
- デフォルトの設定が不適切
EarFun UA100は1万円以下クラスのDACドングルとして価格なりに上手くまとまった良い製品と言えます。ロゴとパッケージ以外はShanling UA2 Plusと全く同じ製品ですので、EarFunがすごいと言うよりはShanlingの技術力によるものでしょう。
音質は価格相応ではありますが、何かしらのエントリークラスIEMを購入した後のステップアップとしてはとても良い選択肢だと思いました。この価格帯以上の製品を求めていくとなると、それなりの出費や試行錯誤が必要になることもありますし、DAPや据え置きDACアンプという選択肢も見えてしまいます。1万円前後で十分な音質を持っているUA100は、エントリークラスで十分に満足できる素晴らしい製品だと思います。