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TRN MT4 Pro レビュー「痒い所に手が届かない」

おはこんばんちは、あぶさんです。
今回もKBEAR Flashに続いて低価格イヤホンのレビューです。特徴的なサウンドでらしさを追求するTRNブランドから2DDという独創的な構成を持つMT4 Proをレビューします。

外観・特徴

パッケージング

TRN MT4 Proは2023年の初めに出たMT4のアップグレード版になります。
アップグレード版と言っても20ドルを下回るマニア向けな価格ですのでパッケージは非常に質素な作りとなっています。この質素なパッケージはTRNらしさを感じる部分で、やっぱ低価格中華イヤホンはこうでなくっちゃと思うところでもありますね。

本体

最近流行りのノイズ周りを絞った筐体とはひと目見て違うとわかる形をしています。フェイスプレートにはベントが設けられており、デザイン上のアクセントだけでなく音質のチューニングにも役立っているようです。
フェイスプレートは光沢のある塗装のため金属製のように見えますがバリバリの樹脂です。塗装の品質は価格を考えれば良好な出来ですが、なんと言いますか全体的に垢抜けない印象が拭えず、どうにもこうにもTRNらしい安っぽさと怪しさも感じます。
フェイスプレートのベント部分には右側に「Dual Dynamic」、右側に「TRN × HBB」という文字が印字されています。HBBとはBad Guy Good Audio ReviewsというYouTubeチャンネルを運営しているHBB氏のことでしょう。HBB氏はTRIPOWINやKZ、QKZ、Yanyinなどのメーカーと積極的に協力してコラボレーションモデルを出しています。それらはコラボレーションモデルであることを製品名やパッケージで明示していましたが、何故かTRN MT4 Proは製品名やパッケージにコラボレーションモデルであることの記載はありません。

小さなサイズのため良好な装着感を得られそうですが、ノズル周りがやや太めになっているため小さなサイズとは裏腹に圧迫感を感じるため長時間使用するには厳しいものがあります。

スペック

MT4 Proはダイナミックドライバーを2つ搭載する2DD構成を採用しています。低音用は非Pro版とは違うドライバーを採用しています。
低音用はDLC振動板を採用した10mm径のダイナミックドライバーです。DLCはDiamond Like Carbonの略称で、低音の歪みや周波数特性を向上させるために古くから振動板に採用されています。
中音から高音用はチタンコーティングされた振動板を採用する6mm径のダイナミックドライバーです。
ダイナミックドライバーを2つも搭載しているからかインピーダンスは40Ωと下手なヘッドホンより高くなっていますが、感度は113dBとかなり高い設定としています。流石に40Ωでは音量が取りづらいと思ったのかもしれません。

付属品

ケーブルは4芯構成の銀メッキ線です。TRNにありがちな間に合わせのケーブルですので特に見るべきところはありません。

イヤーピースはAET07のような形状のシリコン製汎用品がS,M,Lの3サイズと、TRN TipsというオリジナルのイヤーピースがMサイズのみ付属します。製品画像や説明文では汎用品が3サイズ、TRN Tipsが3サイズ、フォームタイプが1サイズの計7ペアが入っていることになっていますが実際に入っているのは4ペアです。他のメーカーなら返品するところですが、TRNとはこういうことを平気でやってくるメーカーですので驚いてはいけません。

価格

MT4 ProはAmazonにてLINSOUL-JPより2,950円(税込)で販売されています。2024年2月10日時点では10%OFFクーポンが配られています。
中国からの輸入ではAliExpressのTRN Official StoreやHiFiGO Storeを利用することになります。本国での正規価格は17.99ドルかと思われます。

LINSOUL-JP(Amazon):2,950円 + 10%OFFクーポン
https://www.amazon.co.jp/dp/B0CLV1NLYJ

TRN Official Store(AliExpress):16.19ドル(セール価格) https://ja.aliexpress.com/item/1005006124557373.html

HiFiGO Store(AliExpress):17.99ドル https://ja.aliexpress.com/item/1005006174325664.html

音質の評価条件について

100時間ほどの慣らしを終わらせた状態の個体を使用し、ケーブルとイヤーピースはどちらも付属品を使用しています。

再生機器は以下の3つを使用します。音量の設定値はSpotifyにて音量の均一化ON、音量レベルを低音量にした状態で、私が普段の音楽鑑賞で使用する音量に合わせた場合の値です。
UA100の音量はmotorola g52j 5Gに接続しスマホ側の音量設定を7段階目(約50%)にした状態において、上記の条件と同等となるようにEddict Playerで設定した値です。

  • FiiO M11 Plus LTD(以下M11PL)
    • ローゲイン、音量 72、Low Dispersion Delay Filter
  • HiBy R6 Pro Ⅱ(以下R6P2)
    • ローゲイン、音量 55、Low Dispersion Delay Filter、ABアンプ
  • EarFun UA100(以下UA100)
    • スマホとの接続にはDDHiFi TC07Sを使用
    • ゲイン「High」、音量 68、Brick wall filter

音質評価の使用する音源は、手持ちのCDから取り込んだFLAC音源と、Spotifyで作成した音質評価用プレイリストです。Spotifyのプレイリストは公開していますので店頭での試聴の際などでも使用できます。

客観的な評価をするように努めていますが、あくまでも私個人の経験を共有するものです。聴覚には個人差や好みによる違いがありますので、購入の際には店頭にて実際に試聴されることをおすすめします。

音質

MT4 Proはハーマンターゲットカーブを意識した低音寄りなV字の周波数特性を持っています。低価格イヤホンでありがちだった元気よく鳴らす刺激たっぷりのサウンドではなく、落ち着いた雰囲気を感じさせる自然なバランスの良さを持っています。
ダイナミックドライバーならではのしっかりと厚みのある濃い音でありながら、ハーマンターゲットカーブに寄せることで不快な刺激をしっかりと抑えることで滑らかで優しい音に仕上がっています。ただし、ハーマンターゲットカーブも良いところばかりではありません。音自体には厚みがあるものの押し出しが弱いため音像がはっきりとしない、高音の伸びが今ひとつ物足りない、低音のバランスや分離感が悪いため必要以上に膨らむ、または沈み込みが足りないなど、ネガティブな部分も多く感じました。20ドル以下という価格を考えれば仕方のないことかもしれませんが、この1~2年で低価格イヤホンのレベルも向上しているため他社との競争から遅れていることは確実でしょう。
フェイスプレートのベントは高音で効果的に機能しているため開放的で見通しの良い高音を鳴らします。音場は僅かに狭く、左右方向の定位は良いものの、平面的で立体感に乏しく価格相応の空間表現です。アンプの性能が不足する環境(小型のDACドングルなど)では低音用の10mmダイナミックドライバーが動かしづらくなるためか中音から低音にかけてやや絞られるような印象が強くなり、音場が正方形や長方形ではなく台形を上下逆にしたような形と感じました。20ドル以下という価格にしてはアンプの性能が要求されます。

高音

高音は見通しの良いスッキリとした印象があり、フェイスプレートに設けられたベントの効果を最も感じられる部分です。
ハーマンターゲットカーブを採用すると高音が過剰に抑えられてしまうことが多いのですが、MT4 Proも同様の傾向が見られます。刺激が無いわけではないのですが、低音と比べると少し主張が控えめです。特に高音を担当する弦楽器や管楽器の倍音で顕著に感じられ、開放的でスッキリとした音を鳴らしているにも関わらず思ったように伸びないため物足りなさを感じます。

中音

MT4 Proの中音は高音や低音と比べるとやや凹みます。特にアンプ性能の低い環境では無視できないレベルとなり中音を主体とした楽曲では音量を少し上げる必要があります。
音自体には十分に厚みがあるのですが、凹んでいるからなのか、それとも刺激を抑えすぎてしまったのか、押し出しの足りない平面的で立体感に乏しい音を鳴らします。音の質自体は滑らかで良好ですが、もう少し存在感を出して欲しいところです。

ボーカル

ボーカルは中音ほどではありませんが僅かに凹みます。女性ボーカルの歯擦音が僅かに残り、ボーカル全体の音質もそれほど良いものではありません。価格相応で普通と言ったところです。

低音

低音はタイトでキレの良い音を鳴らしますが、減衰が速すぎるため響かせることが苦手です。60Hz未満のサブベースも満足ではないため、キックがやや膨らみすぎてしまいバランスの良い低音ではありません。
ミッドベースはレスポンスが良く、タイトで素早く立ち上がる音を鳴らします。ドラムのアタック感が心地よく、ベースの弦の弾みも感じられます。
サブベースは60Hz付近まで十分な量感がありますが、60Hz未満は耳に届かなくなり40Hz付近がかろうじて聞き取れるというレベルです。

おすすめイヤーピース

まず商品画像や説明文にあるイヤーピースが全て付属していない時点で要返品ではありますが、TRNというメーカーの品質はそのレベルのものなので驚いてはいけません。
MT4 Proはイヤーピース交換で音質が大きく変化することは無く、装着感の改善が主な目的になります。
ノズルが太いためfinal Eタイプなどの軸が細いタイプは非推奨です。定番のJVC スパイラルドットやKBEAR 07などがおすすめです。

おすすめリケーブル

付属ケーブルは4芯の銀メッキ線ですが、正直なところ銀メッキ線らしい特徴はほとんど感じられない低品質なケーブルです。
採用されているqdc 2pinは、どのタイプの2pinでもリケーブルが可能ですが破損を防ぐためにも出来る限りqdc 2pinが採用されたケーブルを選びたいところではあるのですが、実はちょっとだけピンの長さが違います。qdc 2pinに準拠したケーブルではピンが奥まで刺さらなくなり低音が大きく減少してしまいます。逆にCIEMやTFZ、フラットなタイプの2pin端子ではピンが長すぎるため僅かに隙間ができます。最近はピンの長さに問題のあるqdc互換2pin端子が増えているため注意が必要です。
いくつかのケーブルを試しましたが、中音や高音の明瞭度や解像度を変化させることはできますが、低音のバランスがどうにもしっくりこないものばかりでした。ミッドベースだけを重視するなら問題ありませんが、洋楽や電子音楽で重要なサブベースを重視するのであればMT4 Pro自体をおすすめできません。

JSHiFi Shadow:1,850円

中高音がやや持ち上がり全体的に明瞭なサウンドへと変化します。
低音は全体的に控えめとなりサブベースが更に弱くなりますが、ベースラインはしっかり追うことができます。

NICEHCK LitzPS:3,350円

高音に確かな明瞭度の向上がある他、純銀線らしく低音の量感が増します。低音の変化が不要であればRedAgがおすすめです。

JSHiFi Nocturne:4,580円 + 500円OFFクーポン

イヤホン本体の価格を超えてしまいますが、MT4 Proとの相性は素晴らしく控えめだった高音に確かな主張がプラスされ、凹みがちだったボーカルが少し前に出ます。

総評「バランス"だけは"良いイヤホン」

良い点

  • 厚みのある自然なサウンド
  • ハーマンターゲットカーブに準拠した周波数特性
  • サブベースを除いたバランスの良さ
  • 不快な刺激のない高音
  • 価格相応のボーカル
  • タイトでキレの良いミッドベース

良くない点

  • 付属しないイヤーピース
  • 倍音が伸びない高音
  • 主張が少ない中音
  • バランスの悪い低音
  • 付属ケーブルの品質
  • 価格以上に要求されるアンプ性能
  • 同価格帯のライバルよりも明らかに劣った音質

TRNのイヤホンは音の質ではなく個性で勝負するところがありました。良いか悪いかは別として、特徴的なサウンドはTRNを選ぶ最大の理由であり唯一の理由だったかもしれません。
ハーマンターゲットカーブに沿った周波数特性や厚みがありながら滑らかで優しいサウンドなど評価できるポイントはいくつかありますが、悪いところが目立ちすぎているため優れたところも活かせていません。総合的に見た場合は同価格帯のライバルに対して劣っています。
リケーブルによって音質の改善も見られますが、2024年現在は1万円以下どころか5000円以下でもリケーブルを必要とせずに優れたサウンドを提供するイヤホンが増えています。もはやリケーブルを前提とした製品づくりは過去のものと言っても過言ではありません。
MT4 Proは商品画像にあるイヤーピースが付属しないなどメーカーとしての信頼にも疑問が大いに残るイヤホンです。こんなイヤホンは買ってはいけません。フェイスプレートに名前を残したHBB氏もTRNに愛想が尽きたため明確にコラボモデルだと言わなかったのかもしれませんね。