おはこんばんちは、あぶさんです。
今回は友人からの借り物レビューです。前回はMoondropのStellarisでしたが、今回は別の友人からUmbrella CompanyのHP-ADAPTERというバッファーアンプをお借りしました。
Umbrella Companyはプロ向けオーディオ機材の代理店をしながらオリジナルのエフェクターやアンプ、ケーブルなどを販売しています。ほとんどの製品がプロ向けということで一般的には広く知られてはいませんが、幅広い取り扱いブランドやオリジナル製品のクオリティの良さ・技術力の高さには定評があります。
HP-ADAPTERはバッファーアンプと呼ばれる機材です。アンプとは信号の増幅を行う機器のことを指し、オーディオにおいては音質を決定するものとして様々なアンプが存在します。バッファーアンプはその名の通りにバッファとしての役割を担います。
Umbrella Companyの公式サイトによると「バッファーは入力されたシグナルを変化させないように電圧情報を正確に読みとり、次の機器へ正確にかつ飛び込みノイズやケーブルの影響で変化しないシグナル、伝送に適した強いシグナルで伝えるアンプ回路です。」という説明がされています。
先に書いたようにアンプは音質を決定するものです。しかし、バッファーアンプもといHP-ADATERは音質を変えず、入力された信号を正確に出力するためのアンプです。
HP-ADAPTERの役割は、接続したスピーカー・ヘッドホン・イヤホンとアンプの間に挟まることで安定した動作を実現することです。アンプは接続された機器のインピーダンスによって性能が変化します。バッファーアンプを挟むことで性能の変化を考慮する必要が無くなり、機器の組み合わせなどに起因する音の変化を排除することができるため、モニタリングやDTMなどの正確な音を要求する環境を構築することが容易になります。
HP-ADAPTERは音質を変える目的で使用する製品ではありません。より大きな音量を必要とする場合に使用する+10dBスイッチがありますが、音量が足りない環境での使用を目的としたものであり、信号の増幅そのものを目的とした製品ではありません。
外観・特徴
製品本体は非常にシンプルです。前面には出力側となる6.3mm端子と+10dBとミュートの切り替えスイッチ、動作を示すLEDランプがあります。背面は入力側となる6.3mm端子と電源端子のみです。ボリュームダイヤルはありません。
サイズ比較をしてみました。比較対象は交通系ICカードとEarFun UA100です。DACドングルと比べるとそれなりの大きさがありますが、机の上に置いた状態ではそれほど場所を取らないコンパクトなサイズ感です。
付属品は秋月電子製のACアダプターとTRS-TRSのAUXケーブルです。ACアダプターは24V/0.5Aのセンタープラスで、メーカーからは付属品以外のACアダプターの使用は推奨されていません。AUXケーブルの長さは2mで、3.5mmと6.3mmの変換アダプターが両端に付属します。
音質の評価条件について
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使用する機材は以下のものを使用しました。
- DAP
- HiByMusic R6 Pro Ⅱ
- FiiO M11 Plus LTD
- DACドングル
- HiByMusic FC6
- EarFun UA100
- DACアンプ
- SteelSeries GameDAC Gen2
- ヘッドホン
- AustrianAudio Hi-X65 (25Ω, 110dB)
- THIEAUDIO Ghost (60Ω, 91dB)
- イヤホン
- Acoustune HS1697TI + NICEHCK 龍鱗 (24Ω, 110dB)
- Yanyin Moonlight + NICEHCK SuperBlue (8Ω, 118dB)
- THIEAUDIO Hype 2 (25Ω, 108dB)
- Whizzer Kylin HE10 (36Ω, 109dB)
- Whizzer Kylin HE01B (18Ω, 112dB)
- NICEHCK DB2 (16Ω, 107dB)
- SGOR Adonis (18Ω, 118dB)
使用する音源は、手持ちのCDから取り込んだFLAC音源とSpotifyで作成した音質評価用プレイリストです。Spotifyのプレイリストは公開していますので店頭での試聴の際などでも使用できます。
客観的な評価をするように努めていますが、あくまでも私個人の経験を共有するものです。聴覚には個人差や好みによる違いがありますので、購入の際には店頭にて実際に試聴されることをおすすめします。
音質
音質と言っても上流の音質を変えるようなものではありません。アンプを追加または変更した場合、同じヘッドホン・イヤホンを使用した際の音量が変わる、特定の周波数帯域が強化される、音色が感触・暖色に変化する、パワー感のあるどっしりとした音になるなど、アンプの性能や特性に合わせた変化があります。HP-ADAPTERではそのような音質を大きく向上・変化させるような効果はありません。音質を上げることも下げることもなく上流側の機器が出す音がそのまま出力されます。
強いて言えば「個々の音を聞き取りやすくなり音が見えやすくなる」という効果が最も感じやすいと思います。HP-ADAPTERがバッファーとしての役割を担うことで安定感が向上すると言ったほうが適切でしょうか。特にドライバーの数が多いイヤホンでは効果を感じやすくなります。所有している機材ではYanyin Moonlightですね。HP-ADAPTERによって正確かつ安定した信号出力を得られるため、特に低音を担当するダイナミックドライバーがしっかりと仕事をしている印象を受けました。
アンプというものは接続したヘッドホン・イヤホンのインピーダンスによって性能が変化します。出力する信号の大きさの違い、コールドやGNDの性能など、様々な要因によって同じカタログスペックでもインピーダンスによる性能の変化は違います。
インピーダンスは出力するアンプにもあり、基本的に出力側が低く受け側が高い「ロー出し/ハイ受け」が基本です。機材によっては「32Ω以上のインピーダンスのみ対応」など、接続するヘッドホン・イヤホンのインピーダンスに制限があるものもあります。
HP-ADAPTERのインピーダンスは0Ωです。メーカーはHP-ADAPTERの回路を「アクティブZEROインピーダンス出力回路」と呼び、ヘッドホンをフラットで正しく駆動できるとしています。「0Ωという限りなく低い出力インピーダンス」と「秋月電子製ACアダプターによる余裕を持った電源からの電流供給能力」により、入力された信号を接続されたヘッドホンの性能に影響されること無く正確に出力することが出来ます。それはリファレンスサウンドを実現するという目的のためです。
モニター = 自然な音というのは少し違います。モニターとは上流側が出している音を正確に聞き取ることを目的としています。ナチュラルなサウンドではなくリファレンスなサウンドであることが重要なのです。リファレンスなサウンドというのは、上流側の音を限りなく正確に再現することです。例えば低音がブーストされたリスニングヘッドホンをリファレンスとして音を調整すると低音を抑えすぎてしまいます。逆もまた然りです。モニター環境というのは、リファレンスという基準を明確にするためのものなのです。
HP-ADAPTERはアンプとヘッドホンの間に発生する影響を排除し、理想的なリファレンスサウンドを実現するための手助けをするアンプです。10dBを持ち上げるスイッチもありますが、あくまでも音量を取りづらい場合に使用するものであり音質を向上させるものではありません。HP-ADAPTERの有無によって音量が変わることはありません。
HP-ADAPTERはプロ向けの機材ですが、リファレンスサウンドを実現するという特性はオーディオファイルの方にもおすすめできます。HP-ADAPTERを使用することで様々なヘッドホン・イヤホンのパフォーマンスを向上させ、より違いがわかりやすくなるでしょう。DACやアンプが持つサウンドの特徴をより深く楽しむという意味でもHP-ADAPTERを使用する意味はあると思います。最近流行りのバランス駆動が必要であれば、XLR 4ピンによる出力に対応したBTL-ADAPTERを検討しても良いと思います。
青春コンプレックス ‑ by 結束バンド (HiBy Music R6 Pro Ⅱ + THIEAUDIO Hype 2) open.spotify.com R6 Pro Ⅱは細かな表現を得意とするミッドハイクラスのDAPです。Hype 2はリスニングイヤホンでありながら上流側のサウンドをそのままに再現するリファレンス系のサウンドを持ったイヤホンです。
HP-ADAPTERを使用するとシンバル系の音の消え際を追いやすくなります。HP-ADAPTERによる安定した信号出力により音数が多い中音域と被りがちだった高音域がはっきりと聞こえるようになったと考えられます。Aura ‑ by Kalki (EarFun UA100 + Yanyin Moonlight) open.spotify.com EarFun UA100は1万円以下の安価なDACドングルです。MoonlightはEST + BA + DDのトライブリッドイヤホンです。アンプの性能が低い安価なDACドングルにドライバー数の多いイヤホンの組み合わせは、いわゆる「鳴らせていない」という印象を受けやすくなります。
性能の低いDACドングル + 多ドライヤホンはHP-ADAPTERの効果が非常にわかりやすい例です。HP-ADAPTERの効果により高音から低音まで一貫して安定した信号出力が得られるため、UA100という安価なDACドングルであってもドライバー数の多いイヤホンを鳴らせるようになります。音色自体に変化はないものの、それぞれのドライバーから出る音にしっかりとしたパワー感と安定感が生まれ、空間表現にまで効果が現れます。モーメンツ・ノーティス ‑ by M. Sasaji, L.A. Allstars (SteelSeries GameDAC Gen2 + Austrian Audio Hi-X65) open.spotify.com GameDAC Gen2はその名の通りゲーミングDACと呼ばれるもので、FPSなどの競技系ゲームにおいてのサウンドを強化するDACアンプです。Hi-X65はチェック系と呼ばれるモニターヘッドホンで、全体を俯瞰してみるリファレンス系ではなく、個々の音の質や定位感を把握するためのモニターヘッドホンです。解像度を強調し、個々の音像をはっきりと描写するサウンドを持っています。
GameDACとHi-X65の組み合わせは解像度と定位において非常に相性の良い組み合わせですが、HP-ADAPTERを組み合わせることで特徴をよりはっきりと感じられるようになります。一つ一つの音を追いやすくなり、特にジャズとの相性が良くなります。FPSで物音から他プレイヤーの方向・位置関係を把握するといったゲーミングDACの本来の性能をより強くします。
総評「リファレンスサウンドを実現するバッファーアンプ」
良い点
- 様々な環境で安定したリファレンスサウンドを実現できる
良くない点
- オーディオファイルが購入するには費用対効果が悪い
HP-ADAPTERは音質を向上させません。安定した電源供給と優れたアンプ回路によってリファレンスサウンドを実現し、ミュージシャンやエンジニアが動きやすくなる環境を作るための機材です。オーディオファイルが音質を向上させたいという用途であればHP-ADAPTERは候補に挙がらない製品でしょう。
しかし、HP-ADAPTERはプロだけにメリットをもたらす製品ではありません。オーディオシステムの最終段に加えることでお気に入りのヘッドホン・イヤホンの性能を引き出し、オーディオの楽しみが増えることは間違いないでしょう。個人的にはリケーブルを色々試すなら、まずHP-ADAPTERを買ったほうが良いのではないかと思えました。リファレンスをどっしりと決めることでリケーブルの効果がわかりやすくなり、方向性を定めやすくなります。