Abusan’s Journey

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THIEAUDIO Elixir レビュー「優しく包み込むチルサウンド」

おはこんばんちは、あぶさんです。
今回は2年前に発売されたイヤホン「THIEAUDIO Elixir」をレビューします。
Elixirは既に生産が終了したイヤホンですが、高音質なヘッドホン・イヤホンを次々と送り出すTHIEAUDIOの高い技術力を伺い知れるイヤホンです。

外観・特徴

THIEAUDIOは中華オーディオのセラーであるLinsoulオーディオが展開しているブランドです。2019年に発足した非常に若いブランドですが、優れた音質を持つイヤホン・ヘッドホンを数多く開発し、世界中のオーディオファイルから高い評価を受けています。
当ブログでも最新のHypeシリーズの中からHype 2をレビューさせていただきました。Hype 2の音質はとても素晴らしく私のメイン機材となっています。

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Elixirは2022年に発売されたイヤホンです。Elixirの開発はElixirプロジェクトと名付けられ、THIEAUDIOはプロジェクトの目標として「録音に忠実な自然な音質を維持しながら、サウンドの精神と感情を捉えるという 1 つの主要な目標を達成することを目指しています」を設定しています。

Elixirのデザインはブラックを基調として淡いゴールドやブラウンがアクセントとなっています。落ち着いた印象と高級感があり、価格以上のビルドクオリティを感じさせます。 フェイスプレートは無垢の本バーブ材が採用されています。このフェイスプレートは生産数に限りがあるとアナウンスされており、Elixirよりも半年以上前に発売されたLegacyシリーズよりも早く生産終了となったのはフェイスプレートの生産数が予定した数に達したためと思われます。

ハウジングはアルミニウムをCNC加工することで製造され、アルマイト処理を施すことで美しい見た目と滑らかな手触りを実現しています。2万円台半ばの金属筐体イヤホンとしては極上とも言えるビルドクオリティです。
そこに収められるドライバーは「3次元ベロシティ・トランスデューサー」という名前が与えられています。振動板はベリリウムコーティングを施したCNT(カーボンナノチューブ)を織り交ぜたシートを重ね合わせることで構成され、THIEAUDIOはこの振動板によって従来のダイナミックドライバーとは違う革新的な性能を持ったドライバーを開発したとしています。
このドライバーは組み立て前にマッチングテストを、組み立て後ではパッキング前に音響測定とハードウェア検査を行うことで品質を保証しています。

単結晶銅と銀メッキOCCのミックス線を2芯構成としたケーブルが付属します。単結晶銅は92本の0.06mm、銀メッキOCCは24本の0.06mmをリッツ線構造としています。

イヤーピースはAET07に似たシリコン製イヤーピースが3サイズと、フォームタイプのものが3サイズ付属します。このイヤーピースはHype 2と同じものです。イヤーピース自体の品質は問題ありませんが、サイズについては3サイズではなく5サイズとしてほしかったところです。
その他の付属品は合成皮革のレザーケースと小さなクリーニングクロスが付属します。

THIEAUDIO Elixirの公式価格は209ドルです。日本国内ではナイコムが正規代理店となり希望小売価格は27,170円に設定されています。
生産終了となっている店舗もありますが一部ではまだ在庫があるようです。ヨドバシ.comやAmazonのLinsoul、中国ではTHIEAUDIOの公式ストアにて注文可能となっています。

音質の評価条件について

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エージング(慣らし)について

100時間ほどのエージングを終わらせた状態の個体に付属品のケーブルとイヤーピース(軸の太いタイプ)を組み合わせています。
エージングには手持ちのFLAC音源とSpotifyで作成した音質評価用プレイリストを使用しています。

評価に使用する音源について

音質評価に使用する音源は、手持ちのCDから取り込んだFLAC音源とSpotifyで作成した音質評価用プレイリストです。Spotifyのプレイリストは公開していますので店頭での試聴の際などでも使用できます。

音質評価用プレイリスト内の楽曲については以下の記事で解説しています。
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評価に使用する再生機器について

THIAUDIO Elixirのレビューにおいて以下の再生機器と設定値の組み合わせで使用しました。

機種名(※1) ゲイン 音量(※2) フィルター 備考
FiiO M11 Plus LTD(M11PL) Low 65 Low Dispersion Delay Filter
HiBy R6 Pro Ⅱ(R6P2) Low 40 Low Dispersion Delay Filter ABアンプ
HiBy FC6(FC6) --- 10(※3) Darwin Ultra NOSモード
HDRオフ
EarFun UA100(UA100) Low 30(※4) Brick wall filter

※1. 括弧内は記事中で使用する略称です。
※2. 音量の設定値はSpotifyにて音量の均一化を有効化し、音量レベルを低音量にした状態で、私が普段の音楽鑑賞で使用する音量設定に合わせた場合の値です。
※3. FC6の音量はmotorola g52j 5GにDDHiFi TC09Sを用いて接続し、スマホ側の音量設定を100%に設定した状態において、上記の条件と同等となるように本体で設定した値です。
※4. UA100の音量はmotorola g52j 5GにDDHiFi TC09Sを用いて接続し、スマホ側の音量設定を100%に設定した状態において、上記の条件と同等となるようにEddict Playerで設定した値です。

DACドングルを使用する際のスマホ側での音量設定条件を変更しました。以前はスマホ側のデジタルボリュームを50%としていましたが、今回のレビューから100%に設定した場合の値を記載しています。DACドングル側でのボリューム設定が高すぎるとインピーダンスの低いイヤホンなどでノイズが出ることがあるためです。過去のレビュー記事でも音量の記載を随時変更していきます。

客観的な評価をするように努めていますが、あくまでも私個人の経験を共有するものです。聴覚には個人差や好みによる違いがありますので、購入の際には可能な限り実際に試聴されることをおすすめします。

音質

Elixirの音質はやや低音が控えめで中音との距離感に強い特徴があるためか中音を強く感じやすい傾向があります。この中音が突出して聞こえる特徴は、音場に左右の広がりが強く奥行きがないため中音との距離感が他のイヤホンと比べて近いからでしょう。確かに低音がやや控えめであることは間違いありませんが、高音は抑え気味ではあるものの刺激自体は残してあり、中高音寄りでバランスの良さが感じられます。
音色は僅かに暖かみがあり全体的に優しい音を鳴らします。音像そのものは確かにありながら、耳に刺さらない柔らかい音で優しく包み込むような印象を受けます。音楽に没頭して積極的に聴くという楽しみ方には物足りなさが否めませんが、読書や考え事などをしながら音楽をサブとして聞くという楽しみ方にはピッタリなサウンドです。
角を取った丸みのある優しい音ではありますが、決して音が弱いという意味ではありません。先に書いたように確かな音像が感じられますし、楽曲の雰囲気を適度に残しながらちょっと離れた距離感で聞ける耳触りが良くまろやかなチルサウンドを奏でます。

暖かみのある優しいサウンドと聞くと全体的に分離感が損なわれているんじゃないのと思われるかもしれません。Elixirの優秀なところは分離感や解像度を犠牲にすることなく、個々の音にしっかりとした音像をもたせたうえで優しいサウンドを実現しているところにあります。ビッグバンドのジャズなどでブラスが一斉に吹くところなど、音が団子になりやすいところでも厚みを持った音を鳴らします。

おすすめのジャンルはジャズやクラシック、ゆったりとしたバラード、それほどテンポが早くないロックやポップスなどでしょうか。中音の音質が良いため中音を担当する管弦楽器を主体とした生演奏との相性が特に良いと感じました。ただ、音場に奥行きがないため豊かな空間表現を要求するような楽曲では表現力の面で物足りなさを感じることがあります。

高音

高音は刺激とは無縁ながら硬質さや響きなどの大事なポイントをしっかりと抑えた質の良い音を鳴らします。
刺激を抑えた優しい音を作ろうとすると、どうしても不快な刺激となりやすい高音を絞らざるを得ず、結果的に聞きどころのない退屈な音になりがちです。Elixirは13kHz付近の超高音にピークを作りながら高音の音質を磨き上げることで高音であることを維持しながら優しいサウンドを実現しています。

  • Planet Dada ‑ by Yello open.spotify.com 冒頭のシンセが高音であることを保ちながら、次に入る低音がしっかりと弾まなければいけません。しっかりと鳴らすのは意外と難しく、高音の音質が悪いとすぐにわかります。
    Elixirの高音は角の取れた優しい音ですが、シンセの高音が持つ直線的な鋭さは確かに感じられます。

中音

Elixirの中音は非常にレベルが高く、目立った粗は一切感じられず、実在感のある音を鳴らします。
平面的な音場によって高音や低音と比べてやや強く感じやすいのですが、実際のところは他の周波数帯域と比べて大きく突出しているわけではありません。中音としてしっかりとした存在感がありながら、高音や低音の邪魔をせず、適度な距離感を保ったまま優しいサウンドで包みこんでくれます。

  • I'M A FOOL TO WANT YOU ‑ by MALTA open.spotify.com 中音に粗があるというのはどういう状態でしょうか。音の形が不自然に感じられたり、音がゴチャ付いて混ざり合ってしまっていたり、高音や低音が混ざることで音色が変わってしまっている状態を言います。
    生演奏を録音した遅めのテンポを持つこの曲は中音の粗が見えやすく、MALTAの情緒に溢れた名演奏を実在感を持って鳴らすのは高いレベルが要求されます。

ボーカル

ボーカルも中音と同様に実在感があり適度な距離感があることも同様ですが、ボーカルの口元がしっかりと再現されるほどにディティールの描写力が素晴らしく、優秀な録音とマスタリングの手による楽曲であればボーカルの存在というものを生々しく感じることができます。
平面的な奥行きのない音場を持つイヤホンではボーカルと中音が混ざってしまうことがあるのですが、Elixirの優れた解像度は混ざることを許さずボーカルを楽しむことができます。

  • Just A Little Lovin' ‑ by Shelby Lynne open.spotify.com 喉の奥をとらえた素晴らしい女性ボーカルが広い空間に広がります。グラミー賞を受賞していることもあり、とにかく聞かせる歌声がとても美しい楽曲です。
    Elixirで聞くと口元の動きやマイクとの距離感をリアルに感じられ、何度でもリピートしたくなるような心地よいサウンドで包まれます。

低音

Elixirの低音は高音や中音と比べると控えめなバランスとなっています。
低音の質自体は1DDらしい良さがあり、キレがあり引き締まっていながら表面には滑らかな質感を感じさせますが量感不足が目立ちます。バスドラムの弾む低音との相性は抜群ですが、サブベー スの減衰が早いためEDMやトランスなどの電子音楽を十分に楽しめるとは言い難い印象です。特にキックからサブベースへと繋がるような低音が痩せて聞こえます。

  • Monochrome ‑ by BABYMETAL open.spotify.com ミッドベースとサブベースのバランスが崩れてしまうと、サブベースが弱いことでミッドベースが強調されるためキレの良さがあるように聞こえることがあります。
    Elixirの低音はサブベースよりもミッドベースが強いためキレの良さが強調されますが、EDMやトランスなどのサブベースを多用するジャンルでは低音が痩せてしまいます。
    かと言って低音の質が悪いというわけではなく、ミッドベースだけで見た場合は高い表現力を持った低音です。

おすすめイヤーピース

付属品は3サイズしか無いためイヤーピースのサイズが合わないことで圧迫感を感じやすくなります。私もMサイズでは小さく、Lサイズでは大きすぎました。
音の傾向を変えたくないのなら形状が似ているAcoustune AET07やKBEAR 07を使用すると良いでしょう。
定番のJVC スパイラルドットや、ボーカルにフォーカスしやすくなるfinal Eタイプ、価格がやや高いもののスッキリとした音へ変化するSednaEarfit Crystalなどもおすすめできます。

おすすめリケーブル

Elixirは2pin端子によるリケーブルに対応していますが、イヤホン側の端子がやや小さいのかサードパーティのケーブルを差し込むには難がある硬さです。ケーブル側端子との相性によってはイヤホン側の端子が緩くなってしまいます。
実際にいくつかのケーブルを試したところ、イヤホン側の端子が広がってしまい付属ケーブルとの組み合わせでは緩くなってしまいました。基本的にはリケーブルは考えず、リケーブルを行う場合はTHIEAUDIOが販売しているESTケーブルなどを中心に試していくと良いでしょう。
上記の欠点を理解したうえでリケーブルをするのなら、銀メッキ線よりも高純度の銅線、特にリッツ線構造になったものをおすすめしたいです。中音や高音はそのままに低音をそっと少しだけ持ち上げるような変化を狙うと良いでしょう。

総評「優しく包み込むチルサウンド」

良い点

  • 暖かみのある優しいサウンド
  • 全体的に質の高さを感じる
  • 長時間の使用でも聞き疲れしない

良くない点

  • 不足している低音
  • 人を選ぶサウンド
  • リケーブルに難がある

Elixirの音質を一言で表現するなら「チルサウンド」と言えます。Elixirという名前は「不老不死」や「万能の霊薬」という伝説から来ており、ゲームなどでも回復役の名前などで使用されることが多く、同名の薬草酒も存在します。Elixirの音質は音の世界に浸ることで心身を癒すようなサウンドですので「チルサウンド」とも言えるでしょう。
2019年に設立されたTHIEAUDIOは最初の製品となったMonarch MK1から今に至るまで、一貫して妥協のない音質と技術によって最高のインイヤーモニターを作り出すことを目標としています。THIEAUDIOのイヤホンラインナップはTribridシリーズ、Hypeシリーズ、Legacyシリーズ、Voyagerシリーズの4つがありますが、Elixirはどのシリーズにも属していません。これはElixirがインイヤーモニターを目指したものではなく、どのシリーズからも外れた特徴的なサウンドを強みとしたイヤホンだからでしょう。
THIEAUDIOが作るサウンドはいたずらに流行を追いかけるようなものではありません。Elixirにもその精神が感じられ、隅々まで行き届いた質の高さがあり、そして他のTHIEAUDIOのイヤホンとは違う特徴的なサウンドを実現しています。万人受けするような面白いサウンドではありませんが、日々の疲れを癒やすにはもってこいのイヤホンです。