おはこんばんちは、あぶさんです。
今回は2022年の末に登場した低価格イヤホン「KBEAR Storm」です。
新型ドライバーを採用したKBEARの最新低価格1DDイヤホンの実力がいか程のものなのかをレビューします。
パッケージは中華ブランドの低価格イヤホンでよくあるタイプの小さい箱です。この価格帯では中の構造も似通っており、Stormも例外ではありません。
KBEAR StormはKBEARのケーブル交換式IEM型イヤホンの中では最安クラスとなるイヤホンです。上位機種のKBEAR 青龍に採用されていたPU+PEEKの複合振動板を低価格イヤホンにも用いた意欲的なモデルです。2024年1月時点ではStormのドライバーを改良しBAとのハイブリッド構成としたFlashが登場しており、PU+PEEK複合振動板ドライバーを採用したシリーズとして展開していくようです。
シェルとフェイスプレートは薄めの半透明プラスチックで作られており、中の配線やドライバーの構造がよく見えます。20ドルを切る価格のためデザイン上の加飾は必要最低限で、フェイスプレートのKBEARとStormのロゴと、デザイン上のアクセントとなる白いラインくらいしかありません。価格なりの安っぽさは拭えませんが、音圧調整用の穴が2箇所に開けられているなど、限られたコストの中で出来る限りのことはやっているようです。
シェルは少し大きめなサイズですが装着感は良好です。薄いプラスチックのシェルは軽量化に貢献していますが、外の音がやや聞こえやすく、音漏れも他のイヤホンと比べると増えてしまいます。
カラーバリエーションはブラック、パープル、そしてブルー(フェイスプレートはパープル)の組み合わせの3種類です。今回はブラックを選択しましたが、ビビットな印象のブルーや、少し薄めのパープルも良いですね。
Stormは1つのダイナミックドライバーのみを使用する1DD機です。複数のドライバーを採用するイヤホンと比べて高音から低音まで一貫した統一感のある音質を得られますが、個々の音の質を向上させる場合は高い技術力が求められます。
Stormのダイナミックドライバーは振動板にPU(ポリウレタン樹脂)とPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)の複合素材を使用しています。PUは柔軟性や伸縮性に優れ、PEEKは強度に優れています。それらの素材を組み合わせることで材料の特性を向上させています。
PUとPEEKの複合振動板を採用したイヤホンは他ブランドでも例がありますが、ある程度以上の価格帯でなければ採用されていませんでした。KBEARブランドでも最初に採用したのは1万円台の青龍でした。
青龍のドライバーに対してStormのドライバーは相応のコストカットが行われており、青龍に採用されていたN52ネオジム磁石や大黒電線のボイスコイルはStormのドライバーには採用されていません。優れた振動板をコストを抑えながら低価格イヤホンにも採用する戦略は中華ブランドの低価格イヤホンではよく見られる手法ですね。
付属ケーブルは黒い被膜で覆われた4芯構成の銀メッキOFC線です。KBEARブランドの低価格イヤホンでよく見られる機械編みで価格なりの安っぽさは否めませんが、4N純度を公表していることなどから意外とコストをかけているのかもしれません。
2pin端子はqdcタイプのカバー付き仕様です。このタイプは全ての2pin端子が使用でき、シェル内部に2pin端子が突出しないため限られたスペースを有効活用して反響特性を向上させることができます。
2pin端子側は耳掛けしやすいように熱収縮チューブによる癖付けがされています。この癖付けは少し強めにつけられているため耳の大きさによっては癖付けに引っ張られることでイヤホンが浮いてしまい良好な装着感を得られないかもしれません。その場合はドライヤーなどで温めながら癖付けを調節することができます。
イヤーピースは軸が少し細めのグレーのものと、軸が太いホワイトの2種類がそれぞれS,M,Lの3サイズ付属します。
どちらも装着感に大きな問題はなく特に交換が必要だとは感じませんでしたが、それぞれ3サイズしか付属しないためより良い装着感を求めるなら中間のサイズが欲しくなるかもしれません。
KBEAR StormはAmazonにて中華系セラーのYinyooから、AliExpressではKBEAR Official StoreやWooeasy Earphones Storeから購入可能です。
2024年1月時点での販売価格はマイク無しモデルですとKBEAR Official Storeで17.90ドル、Wooeasyでは17.98ドルです。Amazonでは2,380円に300円オフのクーポンがあります。為替を考えるとAmazonのほうが安いため、そちらをおすすめします。販売元がYinyoo-jpとなっているかどうかを確認するのを忘れないでください。
KBEAR Official Store(AliExpress):17.90ドル
https://ja.aliexpress.com/item/1005006155221054.html
Wooeasy Earphones Store(AliExpress):17.98ドル
https://ja.aliexpress.com/item/1005005099074931.html
Yinyoo-JP(Amazon):2,380円 + 300円OFFクーポン
https://www.amazon.co.jp/dp/B0BQ67HSRV
音質の評価条件について
100時間ほどの慣らしを終わらせた状態の個体を使用し、ケーブルとイヤーピースはどちらも付属品を使用しています。
再生機器は以下の3つを使用します。音量の設定値はSpotifyにて音量の均一化ON、音量レベルを低音量にした場合の設定値です。
- FiiO M11 Plus LTD(以下M11PL)
- ローゲイン、音量70、Low Dispersion Delay Filter
- HiBy R6 Pro Ⅱ(以下R6P2)
- ローゲイン、音量45、Low Dispersion Delay Filter、ABアンプ
- EarFun UA100(以下UA100)
- スマホとの接続にはDDHiFi TC07Sを使用
- ローゲイン、音量65、Brick wall filter
音質評価の使用する音源は、手持ちのCDから取り込んだFLAC音源と、Spotifyで作成した音質評価用プレイリストです。Spotifyのプレイリストは公開していますので店頭での試聴の際などでも使用できます。
客観的な評価をするように努めていますが、あくまでも私個人の経験を共有するものですので、購入の際には店頭にて実際に試聴されることをおすすめします。
音質
Stormの音質はやや強めのW字傾向で、ハッキリとノリの良いサウンドを鳴らします。低価格イヤホンらしい正しく王道のドンシャリにプラスして中音とボーカルに厚みがあり、わかりやすい音でノリがいいサウンドを鳴らします。
音場が狭いため中音に窮屈さを感じることがありますが、高音に残響を上手く残すことで音の広がりが十分感じられるため見通しは悪くありません。激しい音を鳴らしながら不快な刺激は一切感じられないところにKBEARのエンジニアが持つ技術力の高さをうかがい知ることができますね。
一言でいうと良い意味での「悪さ」を感じるサウンドです。自然でモニターライクなサウンドとは一味も二味も違うノリの良いサウンドで楽しませてくれます。
軸の細いグレーのイヤーピースは低音の広がりを抑えて全体的に音像がハッキリとする方向のサウンドになります。
軸が太いホワイトのイヤーピースはグレーとは逆の方向へと変化します。個々の音像は少しぼやけますが、低音の広がりが増すことでよりドンシャリ感の強いサウンドになります。
私個人の好みだとグレーのほうが良い印象を受けました。ホワイトは音の響きかせ方がわざとらしくなってしまい耳障りに聞こえます。
Master of the Universe by ANGUS McSIX
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行儀の良いバランス重視なイヤホンよりも、元気系ドンシャリタイプのサウンドで聞いたほうが気分が盛り上がる楽曲もあります。特に激しい音を鳴らすメタルはStormのようなW字サウンドにピッタリでしょう。
Stormは音の質は価格相応な部分が多々ありますが、ボーカルも含めてノリの良い濃密なサウンドを楽しめます。
Birdland by Buddy Rich, The Woody Herman Band
songwhip.com Stormは意外とアップテンポなジャズとの相性も良かったりします。アップテンポで明朗なサウンドをモニターライクとはまた違った形で気持ちよく聞くことができます。
Only Time by Enya
songwhip.com アップテンポな楽曲だけでなく、ゆったりとしたバラードも優しく包み込むサウンドで楽しませるのがW字サウンドの魅力です。
高音
高音はやや派手な傾向がありながらも不快な刺激はしっかりと抑えられています。周波数特性グラフを見ても不快な刺激となりやすい6~7kHzを抑え、多くの楽器が集まっている2~4kHzと8~10kHzを強調するような特性となっています。高音は外耳道の長さによって共鳴する周波数が変わるため個人差が大きいのですが、私が聞いた限りではKBEAR公式の周波数特性グラフと相違ない印象です。
Stormはシンバルやハイハットに適度な残響を残すことでドンシャリのシャリを上手く強調して楽しませてくれますが、より自然な高音の強調が好みな場合はわざとらしく感じることで耳障りに聞こえるかもしれません。
Blue Rondo à la Turk by The Dave Brubeck Quartet
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Stormの高音は残響を匠に残すことで不快な刺激を抑えながら高音を強調することに成功しています。
特にドラムのハイハットやシンバルの高音を強く聞きたいならStormの購入を考えるべきです。
中音
高音と低音が強いため聞き始めはV字傾向のドンシャリに感じますが、中音とボーカルに適度な厚みを持たせているため凹みすぎて台無しにはなっておらず意外と前に出ます。
中音のバランスは上流の機器によってやや影響を受けやすくなります。バランスの良い音を出す機器ほど中音が凹む傾向があり、R6P2よりもM11PLやUA100のほうが凹まずに前に出てくる印象があります。
FIRST NOTE by Hiromi, Shun Ishiwaka, 馬場智章, Tomoaki Baba
songwhip.com V字傾向の強いドンシャリサウンドではテナーサックスの音が凹んでしまい遠く感じますが、Stormはピアノの低音やシンバルの高音との確かな分離感を持って前に出てきています。
ボーカル
Stormのボーカルは中音と同様に意外な濃さがあり、滑らかで湿った質感を残した聞かせてくれます。ソプラノやアルトの高域は苦手としていますが、低域から中域にかけて湿っぽくどっしりとしたボーカルを楽しむことができます。王道のドンシャリでボーカルも同時に楽しめるのは素晴らしいことでしょう。
失星 by Layla.
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囁くように近い距離で歌うボーカルが魅力的な楽曲です。
V字傾向のドンシャリではボーカルが凹んでしまい遠く感じることがありますが、Stormは中音とともにボーカルも前に出ながら確かな分離感があるためボーカル曲であっても十二分に楽しむことができます。
Echoes in Rain by Enya
songwhip.com 20ドル以下という価格を考えれば十分に質の良いと言えるボーカルを聞くことができます。艶のある声が滑らかに程よく伸びていきます。
低音
Stormの低音はブーストされていて自然と呼ぶ範囲を超えた量感があります。ミッドベースには明確なキレと締まりがあり、タイトであると同時に全体を盛り上げる楽しさを持っています。
低音のピークは60Hz付近にあり、妙に膨らんだように聞こえたかと思えば40Hz付近で消えていきます。ドーンというよりもドオンと聞こえると言えばわかりやすいでしょうか。このようなアンバランスなサブベースは上流の再生機器や音源との相性が最も出やすく、相性が悪い場合は膨らみすぎることで中音やボーカルに被ることで耳障りに感じる場合があります。
Road of Resistance by BABYMETAL
songwhip.com 出だしから示現流のように力強いドラムで始まりますが、R6P2とStormの組み合わせでは明らかにバスドラムの低音が強すぎることで他の音に被ってしまっています。
Colour by Marshmello
songwhip.com Stormで聞くとベースラインの中で40Hz付近のものだけが明らかに聞き取りにくくなります。残念ながら、Stormの低音はEDMで多用されるような深いサブベースとの相性があまり良くありません。
再生機器との相性
Stormはインピーダンス32Ωに感度108dBのため、スマホ直差しでも音量不足になることはまず無いでしょう。
上流の機器は落ち着いた音よりも個々の音をハッキリと出すタイプだとStormとの相性が良いようです。前回と同様に3つの再生機器を使用してレビューしましたが、最も相性が良いと感じたのはM11PLでした。R6P2ではStormのブーストされた低音が逆効果となってしまい楽曲が持つ雰囲気を壊してしまいます。UA100は中音とボーカルでM11PLに勝りますが、低音が全体的に控えめとなってしまうためせっかくのドンシャリを楽しむには物足りません。M11PLはちょうど良いV字バランス + ボーカルを楽しむことができ、他の2機種よりも比較的バランスの良い低音を聞くことができます。
イヤーピース
Stormのイヤーピースはそのままでも特に問題ありませんが、より良い装着感や音質の最適化を求めるなら交換を考えても良いでしょう。
付属のイヤーピースはS,M,Lの3サイズしか用意されていないため、
JVC スパイラルドット
とりあえず交換してみるという使い方もできる定番イヤーピースです。
太めの軸で減衰を抑えた生の音が特徴で、Stormとの組み合わせでは中音から低音にかけて音の濃さが増すような変化があります。
好みによっては中低音がしつこいと感じるかもしれません。その場合は軸がノズルとほぼ同じサイズのイヤーピースを選ぶと良いでしょう。
Acoustune AET07(KBEAR 07、NICEHCK 07など)
装着感重視で音の変化は少なめな扱いやすい定番イヤーピースです。
Storm付属のグレーのものよりは太く、ホワイトのものよりは細い軸を持っています。音の変化はグレーよりも明瞭に、ホワイトよりも整う印象で大きな変化は無いものの扱いやすいタイプです。
リケーブル
Stormはqdcタイプの2pin端子によるケーブル交換に対応しています。
付属ケーブルはコストを抑えた安価な銀メッキ線ですが、音質は付属品でも完成されているため全く問題ありません。むしろ低価格イヤホンではドライバーの性能限界が低いためリケーブルすることで違ったネガティブな部分が強調されてしまう可能性もあります。
そのため、Stormのリケーブルは自己満足の色が強くなります。リケーブルはイヤホンよりもお金がかかることもあるため強くは推奨しません。あくまでも自己満足であることを忘れないでください。
JSHiFi Shadow (qdc 2pinあり)
最安クラスの銀メッキケーブルですが、しっかりと銀メッキらしい傾向を感じられます。
高音を持ち上げながら分離感も向上する変化が感じられます。ドラムのハイハットやシンバルを高速で叩くようなところがわかりやすいでしょう。
JSHiFi Nocturne (qdc 2pinあり)
本体価格の2倍近い価格ですが、その効果は非常に大きく、全体的に音の質感が滑らかになり荒っぽい部分が整う印象があります。
NICEHCK RedAg (qdc 2pinなし)
NICEHCKの低コスト純銀ケーブルです。
純銀線らしい全体的に明瞭な方向への変化が特徴で、Shadowと同様に高音を持ち上げながら低音の量感を増やす効果もあります。
UA100やスマホ直差しなどで低音の量感が足りない場合に効果的なケーブルです。
NICEHCK C8s-3(qdc 2pinあり)
8芯構成の銀メッキケーブルで、NICEHCKのラインナップの中では定番のモデルです。
音質変化は高音を持ち上げる効果にプラスして個々の音の質を向上させます。高音の持ち上げ方はShadowよりも自然な印象です。
総評「手頃な価格で上手くまとまったノリの良いサウンド」
良い点
- 完成されたW字バランス
- ノリの良い元気系サウンド
- 強調された残響で楽しませる高音
- 厚みのある凹まない中音
- 前に出るボーカル
- スマホ直差しでも楽しめる
良くない点
- 好みによっては高音の強調はわざとらしく聞こえる
- いかにも安物なシェルと付属品
- 低音のバランスは良くない
KBEAR Stormは20ドル以下という価格ながらW字傾向のバランスを持つイヤホンとして非常に完成度が高く、モニターライクなサウンドとは違う個性が際立ったサウンドで楽しませるイヤホンです。
自然でニュートラルで個々の音の細かいところまで行き届いた音でじっくりと楽しむことも良きですが、良い意味で「悪い」音にダイブして音楽を激しく楽しんでみるのもまた良いものです。
Stormはスマホ直差しでも楽しめますので上流の性能を要求することはなく低コストなまま音楽を楽しむことができます。初心者にもおすすめでき、低価格イヤホンを複数所有しているようなマニアとしても一度は聞いておきたいイヤホンでしょう。