おはこんばんちは、あぶさんです。
今回は久しぶりのDAPレビューです。NICEHCK DB2のレビューから登場していますHiByMusic R6 Pro IIをレビューします。
デジアナ分離構成で新世代のDACシステムを実現したAKMの最新DACチップ「AK4499EX + AK4191」を採用したR6 Pro IIの性能をじっくりとレビューします。
HiByMusicとは
HiByMusicは中国で10年以上の歴史があるオーディオ機器メーカーです。同じく中国発のメーカーであるFiiOと比べると日本での知名度や人気は今一つですが、実は企業規模としてはFiiOと双璧を成すほどのメーカーです。
DAPだけでなくポータブルアンプやDACドングル、イヤホン、ケーブル、DAPを接続することで機能を拡張するドックなども手掛けています。日本国内ではミックスウェーブが代理店となり、DAPやDACドングルが正規流通しています。
HiByのDAPにはRシリーズとRSシリーズの2つがあり、AKMやESSのDACチップを採用したものを「R」、R-2Rというディスクリート構成としたものを「RS」としていました。過去形なのは、つい先日にR-2Rを採用した「R8II」が登場したためです。
先代の「R8」と「RS8」までは、命名規則に沿ってAK4497のデュアルとR-2Rが採用されていました。R6P2の登場によりミッドハイクラスでAKMの最上位グレードを採用する形となったため、ハイエンドとなる「R8II」ではR-2Rを採用し、RとRSを1本化する方向へと舵を切ったのかもしれませんね。
ネーミングに関しては少し迷走感があるHiByMusicの製品群ですが、FiiOのように命名規則を整理して再出発する時が近いうちに来るのかもしれません。
外観・特徴
R6 Pro IIはR6の上位モデルだったR6 Proの2世代目(2nd Gen)になります。HiByのDAPシリーズの中でミドル(R6III)とハイエンド(R8II)の中間に相当するミッドハイに位置づけられています。
Proシリーズでは無印との違いをより明確にし、より上位の体験を提供するという意図があるようです。使用しているDACチップのグレードは両者ともにハイエンドクラスですが、R6 Pro IIは5.9インチ1080×2160 FHDという大型のタッチパネルを採用することでスマホと遜色ない操作性や視認性を実現しています。
付属品はUSB Type-C充電ケーブル、レザーケース、予備のプロテクトフィルム、マニュアル類、保証書です。
フィルムは初期状態で貼り付けられており、フィルムを保護するためのフィルムはユーザー側で取り除く仕様です。非光沢のフィルムを使いたい場合はPDA工房さんにて販売されているPerfect Shiledがおすすめです。
カラーバリエーションはブラックとパープルの2色です。ブラックでも良かったのですが派手すぎず地味すぎないな色合いが特徴的なパープルにしてみました。この選択は大正解で、Proならではの特別感があります。
筐体はアルミニウム製のシャーシと強化ガラスです。背面には縦溝や面取りが施されておりデザイン上で大きなアクセントとなっています。縦溝はヒートシンクのような効果を狙っているのかもしれません。5.9インチディスプレイを採用しているため横幅がそれなりに大きいのですが、面取りのおかげで難なく持つことが出来ます。
ボタン類は左右に分けて配置されています。
ディスプレイに向かって右側に電源ボタンとボリュームボタンが、左側に再生/一時停止と曲送り/曲戻しボタンがそれぞれ配置されています。
正面から見て線対称になるような配置です。これは画面を上下反転させた状態でも操作性が変わらないようにという配慮のようです。
また、付属のレザーケースではボタン操作が微妙に難しく感じます。Amazonなどで販売されているTPUケースの購入をおすすめします。
スペック解説
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R6 Pro IIのDACチップ構成はAK4499EXのデュアルにAK4191を組み合わせたデジアナ分離構成を採用しています。同じ型番のDACチップを複数枚採用することは珍しいことではありませんが、本機はAK4499EXに加えてAK4191というチップが追加されています。
DACとしての本丸はD/A変換処理を行うAK4499EXですが、前段となるデジタル関連の処理についてはAK4191が行う形です。詳しい解説は下記のサイトに譲るとしますが、デジタル処理とアナログ処理を分離することでチップサイズの成約やデジタル処理によるノイズがアナログに与える影響を抑えることができます。従来のDACチップが持っていた欠点を克服することができるとまで言われています。
従来のように同じ型番のDACチップを複数枚組み合わせたものとは設計思想や性能が全く違います。これからのミッドハイクラスDAPやDACドングルにおいてはAK4499EX + AK4191のデジアナ分離構成を採用した製品は音質的に大きなアドバンテージを得るでしょう。
R6 Pro IIはアナログ処理を行うAK4499EXをデュアル構成としています。同型番を複数枚採用した場合ではバランス接続時でなければ全てのチップが使用されないなんてこともありますが、R6 Pro IIはバランスとアンバランスの両方で2枚のAK4499EXが動作します。HiByが出している資料では2つのAK4499EXは独立したIV変換回路をとローパスフィルターを通り、アナログスイッチによってバランス・アンバランスのアンプを切り替えているようです。
DACチップの構成以外では5.9インチFHDというDAPとしてはハイスペックなタッチスクリーンディスプレイが目を引きます。motorola edge 30 PROに迫るサイズのディスプレイはストリーミング配信アプリ(SpotifyやApple Musicなど)の操作を快適にします。
SoCにはSnapdragon 665が採用されています。最新世代と比べれば見劣りするSoCですが、DAPとしての仕事を行うには十分な性能です。内蔵ストレージは64GBとDAPとしては標準的ですのでSDカードは必須でしょう。
HiByお得意のA/ABアンプの切り替え機能はもちろんあります。クラスAアンプは2基のOPA1652にNXP製のバイポーラトランジスタを採用。ヘッドホンやマルチドライバイヤホンで効果を発揮するとされています。
周波数帯を個別に調整可能なPEQ、イコライザーとは違った要素で音質を調整できるMSEBなどの機能も豊富に用意されています。
音源のデコード性能はミッドハイクラスとしては非常に優れています。PCMにおいて1536kHz/32bit、DSDではDSD1024をネイティブでデコードすることが可能です。
特に素晴らしいのはAndroid 12を採用したことでしょう。Android DAPではAndroid OSのメジャーバージョンアップはほぼ行われないため長期間の使用ではセキュリティのリスクがスマホよりも格段に高くなります。Android 10をベースとしたカスタムOSを採用するDAPが多い中、HiByはいち早くAndroid 12を採用することでセキュリティリスクを軽減しています。
電源には5000mAhの大容量バッテリーが採用されています。DAC、I/V変換回路、LPF、アンプの4セクションにそれぞれ独立した電源供給を行います。
バッテリー持ちは同クラスのDAPと比べて劣ります。バッテリー消費はバランス/アンバランスとクラスA/ABアンプによって変わります。3.5mmアンバランスにクラスABアンプであれば8時間の連続再生が可能ですが、4.4mmバランスにクラスAアンプでは連続再生時間は5時間となります。
音質の評価条件について
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200時間ほどの慣らしを終わらせた状態の個体を使用します。使用するイヤホン・ヘッドホンは所有している機材から以下のものを使用しました。
- ヘッドホン
- AustrianAudio Hi-X65 (25Ω, 110dB)
- THIEAUDIO Ghost (60Ω, 91dB)
- HIFIMAN SUNDARA (32Ω, 92dB)
- イヤホン
- Acoustune HS1697TI + NICEHCK 龍鱗 (24Ω, 110dB)
- Yanyin Moonlight + NICEHCK SuperBlue (8Ω, 118dB)
- THIEAUDIO Hype 2 (25Ω, 108dB)
- Whizzer Kylin HE10 (36Ω, 109dB)
- Whizzer Kylin HE01B (18Ω, 112dB)
- NICEHCK DB2 (16Ω, 107dB)
- SGOR Adonis (18Ω, 118dB)
音質評価の使用する音源は、手持ちのCDから取り込んだFLAC音源とSpotifyで作成した音質評価用プレイリストです。Spotifyのプレイリストは公開していますので店頭での試聴の際などでも使用できます。
客観的な評価をするように努めていますが、あくまでも私個人の経験を共有するものです。聴覚には個人差があり、音質には好みによる違いがあります。購入の際には店頭にて実際に試聴されることをおすすめします。
音質
聞き始めて最初に気がつくのは超高音から超低音までフラットな優れたバランスです。中華ブランドのミドルクラスDAPはハイ上がりだったり低音が過度に膨らんでいることが多いのですが、特に大きく突出している部分もなく、全体的に癖のない自然な音を鳴らします。
ある種リファレンス的で音源に忠実なサウンドを基礎としつつ、音が団子にならない高い解像度、精細で丁寧な描写力、天井感が無い豊かな空間表現で個性的な特徴を得ています。パワー感や音の厚みには物足りなさを感じることもあり、音源を選びやすい傾向もあります。緻密に音を重ねていくような表現を得意としますが、レスポンスやパワーで力強い音を押し出すような表現は苦手です。
特に空間表現についてはミッドハイクラスの常識を少し超えてきた印象です。ハイエンドDAPや据え置き機と比べれば甘いところはありますが、左右だけでなく上下にもしっかりとした空間があり、奥行きも感じさせる豊かな空間表現です。
一言で表現するのなら「上質」という言葉が似合います。癖がないため音源や下流の機器の違いがわかりやすく、縁の下の力持ち的に音源やイヤホンの性能を引き出します。R6 Pro IIで聴くと、良い意味で印象が大きく変わった機材もありました。
カタログスペックに頼らない高音質
ここ1~2年ほどでポータブルオーディオのスペックは大きく向上し、ミドルレンジであっても一昔前では考えられないような数字が並んでいます。DAPだけでなく安価なDACドングルであってもカタログスペックの数字を高らかに宣伝しています。
以下にR6 Pro IIと、長らく私のメイン機だったM11 Plus LTD、そして手元にあるDACドングル2機種(HiBy FC6、EarFun UA100)のスペックを比較してみましょう。
HiBy R6 Pro II(AB) | HiBy R6 Pro II(A) | FiiO M11Plus LTD | HiBy FC6 | EarFun UA100 | |
---|---|---|---|---|---|
出力(3.5mm) | 125mW | 125mW | 206mW | 100mW | 125mW |
出力(4.4mm) | 383mW | 383mW | 588mW | --- | 125mW |
THD(Minimum) | 0.0015% | 0.0009% | 0.0006% | 0.006% | 0.0008% |
THD(Maximum) | 0.2% | 0.2% | --- | --- | --- |
ノイズフロア(3.5mm) | 2.7μV | 2.7μV | 2μV | 2.6μV | --- |
ノイズフロア(4.4mm) | 3.7μV | 3.7μV | 3μV | --- | --- |
SNR(3.5mm) | 117dB | 117dB | 120dB | 117dB | 121dB |
SNR(4.4mm) | 119dB | 119dB | --- | --- | --- |
※公式サイトに表記されている数値から作成しました。
なんということでしょう。R6 Pro IIは同クラス帯のDAPだけでなく、一部のスペックではエントリークラスのDACドングルよりもカタログスペック上の数値で劣るという結果です。R6 Pro IIは新製品であるにも関わらず、カタログスペック上の数字で見ると優秀ではないように見えます。
大事なのは、カタログスペック上の数字というものは、ある特定の条件で測定した結果に過ぎないということです。10連ガチャでSRが1枚確定するなどの最低保証のようなものですから、イヤホンやヘッドホンの周波数特性グラフで音質が決まらないように、測定値が優秀であっても音質が良いとは限りません。
実際の音質ではR6 Pro IIとM11Plus LTDはスペック上の数値と真逆の印象でした。
M11Plus LTDは「音像のはっきりとしたパワー感と押し出しの強いサウンド」が持ち味ですが、「高音域に偏重したピーキーなバランス」「ヘッドホンやマルチドライバー機における余裕の無さ」「ディティールの甘さ」「空気感の欠如などの音質的な欠点」などの中華オーディオにありがちな欠点が目立ちます。
R6 Pro IIは「フラットで優れたバランス」「ヘッドホンやマルチドライバーであっても余裕を持った鳴らし方」「精細で丁寧な描写力」「音の隙間や空気感の再現度が優れた豊かな空間表現」など、M11Plus LTDとはレベルが違う印象があります。
パワーではM11Plus LTDに劣るものの、60Ω, 91dBのTHIEAUDIO Ghostも難なく鳴らします。低いパワーでありながら、ミッドハイクラスDAPの枠を超えたドライビングを実現しています。
R6 PRO IIの出力と実際の駆動力についての公式解説
HiByはR6 Pro IIの開発において宣伝のためのカタログスペック上の数字を求めるのではなく、良い音質をユーザーに提供するという本質を追求したと公言しています。
パワーと駆動力は別のものであることから、HiByは出力の高さではなく駆動力の制御に重点を置いた設計を選択し、低出力でありながら駆動力の制御を緻密に行うことで音源の忠実な再現を可能としました。
音質の向上と引き換えに、複雑な回路、コンポーネントの正確なマッチング、消費電力の増加、信号経路の増加を代償にする必要はありますが、HiByはセパレートDACの性能を最大限に引き出すための新しい設計思想と考えているようです。
開放感のある高音、奥行きを感じさせる中音、沈み込むように広がる低音
高音は天井を感じさせない開放感があり、中音にはステージやホールを再現するかのような奥行きがあります。低音は深く沈み込むように広がるサブベースまで再現され、過度に膨らむことはありません。
他のミドルクラスDAPと比べてボーカルがやや遠く感じるかもしれませんが、これは音源による差異が強く出ています。近いと感じる音源もあれば遠いと感じる音源もあり、音源に忠実な距離感の表現をしていると言ったほうが適切でしょう。
A/ABアンプの違いは音の隙間に出る
R6 Pro IIはクラスA/ABアンプの切り替え機能があります。これはR6 Pro IIだけでなくHiByのDAPで幅広く実装されている機能です。2つのアンプの音質的な違いは音の隙間に出ます。
クラスAアンプでは音と音の間にある小さなトーンの再現度が向上します。ホールトーンをたっぷりと含んだハイレゾ音源など、空気感や臨場感を重視する音源やジャンルにおすすめです。
クラスABアンプでは個々の音像がはっきりとした印象に変わります。細かなところの描写力はクラスAアンプに劣りますが、様々なジャンルにおいてバッテリー消費と音質を両立します。
ポータブルとの相性は良くない
自然で癖のないサウンドはR6 Pro IIの大きな魅力の一つですが、裏を返せばポータブルオーディオの利点である扱いやすさを音質面からスポイルしています。
DAPの魅力は、電源からアンプまでを持ち運びやすい小さなサイズと重量でパッケージングし、場所を問わずにオーディオを楽しむことを可能にしたオールインワンであることでしょう。
R6 Pro IIは丁寧で細かいところまで行き届いた「上質」なサウンドを有していますが、このような音質は周囲の環境音に対して脆弱であるという弱点も持っています。騒音の中では再生音がかき消されてしまい、音楽全体の半分以下しか聞き取ることができません。私の体感では静かなカフェや職場であれば御の字、乗客の少ない静かな電車の車内でも少し音量を上げ気味にする必要がありました。
自宅や静かな場所で使用することが大半なのであればR6 Pro IIはおすすめできますが、街中などの騒音が大きい場所でも使用するのであればiBasso Audio DX260やAstell&Kern A&norma SR35を候補としたほうが良いでしょう。
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R6 Pro IIはジャズやクラシックとの相性がとても良いと感じました。
細かな演奏のニュアンスや、ホールいっぱいに広がるトーンが上手く再現されています。ディスクリートを採用したRS8やR8IIと比べると見劣りする部分はありますが、ICによるDACを採用したDAPではかなり高いレベルを実現しています。
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R6 Pro IIは丁寧で細かなところまで行き届いた音質が魅力ですが、パワー感やレスポンスを求めるようなジャンルでは物足りなさを感じるかもしれません。
音数が多く、強い音圧を要求するようなジャンルでは、赤点ではないものの優れているとも言えません。
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個々の音の音像と分離感がはっきりと出ている楽曲です。
M11Plus LTDではピアノの音像がはっきりと出ますが、R6 Pro IIでは音像の確かさよりも音の余韻や滑らかさがやや強めに出ています。
どちらが優れているかは好みの問題かなと思いますが、相性の良さで言えばFiiOが採用するTHX-AAAアンプに軍配が上がるでしょう。
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パイプオルガンの空気録音ならではのダイナミックレンジや空間表現を感じさせます。特に20Hz付近までカバーする低音が十分な広がりを持っています。
特にアンプをAクラスアンプに切り替えて聞いてほしいですね。パイプオルガンの荘厳な空気感が再現されます。
総評「DAPの枠を超えた上質なサウンド」
良い点
- バランスの良い周波数特性
- 精細で丁寧な描写
- 左右だけでなく上下や奥行きもある豊かな空間表現
- 余裕のある駆動力
- 音源に忠実ながら個性もある「上質」なサウンド
良くない点
- 環境音に対して脆弱
- バッテリー持ちの悪さ
- 音源を選ぶ傾向が強い
R6 Pro IIはミッドハイクラスのDAPとして初めてデジアナ分離構成を採用しました。DAPの枠を超えたような上質なサウンドはデジアナ分離構成の恩恵もありますが、HiByの優れた音響チューニングの技術力によるところも大きいと感じました。
出力ではなく駆動力を重視した設計、奥行きも感じさせる豊かな空間表現、精細で丁寧な描写力など、様々な点で価格を超える音質を持っています。音質面だけで見た場合では、ミッドハイクラスでは個人的に最もおすすめしたいDAPです。
しかし、DAPとしての様々な要素を見た時、バッテリー持ちの悪さや環境音に対して脆弱な音質はネガティブな要素となります。使用環境や音源を選ぶ傾向が強く、音質だけで飛びつくと早々に手放すことになるかもしれません。