1ヵ月ほど前にレビューしたワイヤレスイヤホン ANIMA ANW01は想像以上の音で私をオーディオ沼への扉まで案内してくれました。
ANW01は私の耳にぴったりな音を聞かせてくれまして、リモートワークで通勤を一切しなくなり外へ出なくなっても家の中でずっとANW01を使うくらい気に入りました。しかし、やっぱりワイヤレスイヤホンですので単純に音質というものを比較した場合は有線イヤホンには敵いませんから、有線イヤホンもアップグレードしようかという物欲が出てきました。
私がメインで使用していた有線イヤホンはPioneerのSE-CH9T MLというアイドルマスター ミリオンライブのコラボモデルです。実売価格9000円弱のところを15000円で買いましたが、オーディオについて何も知らない私はその音にとても満足していました。しかしANW01のレビューでも書きましたように作り手の魂を感じられるような丁寧にチューニングされた音と比べるとSE-CH9Tの音に満足できないようになりました。湾岸ミッドナイトのセリフにもあるように「一つ上を知ってしまったらもう元には戻れない」というやつですね。それからANW01と同じ方向性のイヤホンを探しまして、e-イヤホンに出向いて様々なイヤホンを試聴した結果、Acoustuneというブランドに辿り着きました。
Acoustuneのイヤホンで最も安価なのはHS1300SSというモデルで入門機という位置づけです。e-イヤホンにあったAcoustuneのイヤホンを全て試聴しまして、予算と音を考慮してHS1300SSを選びました。色は千早の色ということでAzul(青)にしました。
開封
さすが3万円ともなると箱にも高級感が出てきます。
中身も丁寧に梱包されていました。本体とケーブルが分かれて入っています。
イヤーピースです。いっぱい付属しているのでどれか一つは合うだろうということなんですけど残念ながら私にはどれも合いませんでした。
付属のケースにも高級感が漂います。余裕のある大きさでイヤホンを入れやすくなっています。
ケーブルをまとめるためのバンドも付属しています。
ケーブルを装着しました。純正イヤーピースが耳のサイズに合わなかったためfinalのEタイプを装着しています。少し音が好みじゃない方向になったため、最終的にはSednaEarfit Crystalになりました。
レビュー
さてここからが本題です。
試聴にはLG V60 ThinQ 5G、Pioneer XDP-20、そして最近入手したFiiO M11 Plus LTD AAを使用して合計約150時間ほど使用しています。 。ケーブルは純正のARC61とバランス接続&シルバーコートのARC53を試していますが、レビュー自体はARC61で行っています。
純正イヤーピースのサイズが合わなかったためSednaEarfit CrystalのMサイズに変更していますが純正のAET07と音自体はほぼ変わりありません。
音質
HS1300SSの音質ははっきりとしたクリアな弱いV字傾向で、高い解像度と一つ一つの音の明瞭度の高さを感じます。
30Hz付近のサブベースから17kHz付近の高音までクリアで解像度は高いまましっかり鳴らしてくれます。低音から高音、小さい音から大きな音までしっかりと鳴っていて簡単に聞き分けられます。広がりや響きも良く、これが本当にイヤホンの音なのかと驚きました。
他のイヤホンでは個々の音が被ってしまい聞きづらいなと思った音源でも、HS1300SSで聞くと音が増えたのかと思うくらい音が広がります。周波数特性としてはV字で低音と高音が少し強めなのですが、かと言って原音に対して何かしら強調が入っているような鳴り方やボーカルが埋もれているような鳴り方ではありません。ボーカルはしっかりと前に出てきているにもかかわらず高音や低音もはっきりと聞こえます。しっかりとチューニングされた高い解像度とクリア感によって高音から低音まで破綻なく鳴らしてくれて、このイヤホンだから音楽を聴きたくなると思わせる音です。元の音源から定位や解像度を重視したものであれば、その音源の性能を十二分に発揮できるでしょう。
平沢進 世界タービン
いろんな音がこれでもかと鳴っている曲ですが、しっかりと聞き分けられます。それでも何が何だかわからない曲なのはそういうものだと思いましょう。
平沢進 金星
囁かれるようなボーカルとアコギの音が広い空間に広がります。ボーカルが2つに分かれているところもそれぞれをはっきりと聞き分けられます。
Krewella - Alive(Acoustic)
YoutubeにしかないAliveのアコースティックver
何故か左右が反転していますが定位がはっきりしているので解像度や定位の確認によく使います。HS1300SSで聞くと2人のボーカルの位置が手に取るようにわかるくらいはっきりと聞こえます。
高山紗代子 vivid color
特にすごいと感じたのはアイドルマスター ミリオンライブの高山紗代子が歌うvivid colorの序盤。とても小さい音ですがボーカルにエコーが掛かっています。HS1300SSで聞くと小さくて遠い音のままはっきり聞き取れるんですよ。
弦楽器とも非常に相性がいいですね。弦の響きまで再現するような音で弦楽器の良さを十分楽しめます。
キンと響く強い高音もブレることなくしっかり鳴らしてくれます。瞳の中のシリウス序盤の繊細な高音、Movie girlの序盤に入っている鉄琴の音、どれもしっかりと鳴らし切ってくれます。伸びも響きも良く、どんなジャンルの曲でも破綻することはほぼありません。
ボーカルは前に出てくる印象です。強調されているような感じではないのですが、解像度が高いことや音場が広く感じることで聞き分けやすくなるからでしょうか。HS1300SSでボーカルが埋もれていると感じることはほとんどありません。ボーカルの細かい息遣いや口の動きまでわかる音とでも言いましょうか。その小さな音まではっきりと聞こえます。
女性ボーカルの高い声も良く鳴らしながら、サ行の刺さりはあまり気にならないため
いわゆる重低音ではないのでそういったチューニングがされているイヤホンを好む人からすると低音が弱すぎると思うかもしれませんが、60Hz以下のサブベース域も含めキレと締まりのある鳴らし方で、それでいて他の音を邪魔せず圧迫感もありません。せっかくの解像度の良さが雑な低音の強調によって潰れてしまっているようなことはなく、全域でクリア感がしっかり確保されています。よくある重低音系の安いイヤホンや解像度が低いイヤホンだと強調された低音によって他の音が埋もれてしまったり若干こもって聞こえることがありますが、HS1300SSは低音が多めの曲であっても個々の音をはっきりと聞き分けられます。特にEDMなどのダンスミュージック系と相性が良いと感じました。
ベース域だけが強調されていたりサブベース域が鳴っていなかったりすると響き方が歪んでいるように感じるのですが、HS1300SSは自然で心地よい響き方です。
序盤の「戻れない」のところに入っているベース域からサブベース域へ響く低音を綺麗に響かせてくれます。
arcadiaは初っ端に60Hzから下の低音がズドンと入っているのでわかりやすいですね。
下支えの低音から煌びやかな高音までしっかりとチューニングされていて、いろんな楽曲を聞いてみましたが破綻していると感じるジャンルはありませんでした。周波数特性としてはV字寄りで高音と低音が強くなっているのですが、音の解像度とクリア感に振り切ったようなチューニングのおかげでボーカルが埋もれることなく、それでいて高音と低音がしっかりと鳴っているという非常にバランスの取れた鳴らし方です。
各音域のバランス、音場、解像度、定位、クリア感など、どんな音源でどれを見ても破綻していることがほとんどありません。それでいてモニター系とはまた違った鳴らし方ですので、音を楽しみたいという欲求へダイレクトに響きます。3万円弱という価格でこんな音を手に入れられるのは破格だと思います。
装着感
HS1300SSは他のイヤホンと比べて奇抜なデザインをしており装着性に難があります。付属しているイヤーピースではどれも合わなかったためSednaEarfit Crystalを使用してやっと耳に収めることができましたが、耳のサイズに対して筐体の出っ張りがギリギリでしたので注意が必要です。
ケーブルは癖付けがされていないため少し耳にかけづらく、2重ツイスト8芯構成ということもあり重く取り回しは悪く感じます。ケーブルの重さが装着感を余計に悪く感じさせているとも思います。
イヤーピース
付属のものも含めていくつかのイヤーピースを試しました。
AET07
付属しているイヤーピースです。AET07はバランスよく音を伝える印象です。S、M、Lの3サイズが付属しています。
Lサイズは大きすぎSサイズは小さすぎる、Mサイズでも圧迫感が残るため使用していません。音の傾向はHS1300SS本来の音、音源を忠実に再現している印象で好みなのですが装着感が惜しいですね。
高音の減衰を抑えるよう軸を太くして強化しています。それが妙な圧迫感の原因かもしれません。
AET08
付属しているイヤーピースです。AET08はノズルを補足することで高音を減衰させ低音がよく出るようになったと思わせるイヤーピースです。こちらもS、M、Lの3サイズが付属しています。
AET07と比べて同じサイズでも細くなっています。私の場合はMは小さすぎ、LはAET07のMサイズ同様の圧迫感がありました。AET07のMが08のMと同じサイズなら良かったなと思います。
AET06
付属しているイヤーピースでダブルフランジタイプです。どのサイズも耳に合いませんでしたので評価できません。
AET02
付属しているイヤーピースでフォームタイプです。遮音性が向上し低音が増した印象になります。
final Eタイプ
試したイヤーピースの中で最も快適な装着感を得られました。
ノズル系が本体よりも小さいため中高音の減衰が強く音がこもって聞こえます。
SednaEarfit ハードタイプ
音の傾向はAET07と同様にバランスよく鳴らす印象です。
SednaEarfit Crystal
AET07と似た印象ですが、僅かに解像度が増し音場が広くなるような印象です。HS1300SS本来の音を少し強化するといった音でしょう。
圧迫感もAET07と比べて少なく程よい装着考えられます。欲を言えばfinal Eタイプのような装着感が欲しい。
ARC53へリケーブル
FiiO M11 Plust LTDの購入をきっかけにバランス接続も試したいと考えARC53というケーブルを購入しました。
純正のARC61と比べると耳掛けしやすいように癖付けがされていて装着感が良くなります。
ARC53は4.4mmのバランスケーブルで、ARC53はシルバーコートOFC線と極細OFC線ハイブリッドケーブルの8芯です。HS1300SSの純正ケーブルはARC61という型番で極細OFC線の8芯ケーブルです。本来なら素材は同じで接続方法だけ変えたかったのですが、新品でARC6シリーズのバランス接続はもう販売されていないようだったのでARC53を選びました。
ARC61からARC53のリケーブル後、何度もARC61とARC53を聞き比べましたが違いについてはよくわからなかったというのが正直な感想です。聞き始めのころはアンバランスとバランスの違いとしてよく言われている解像度が高くなり音場が広がったような印象がありましたが、M11の仕様なのかシルバーコートの恩恵なのか同じ音量でもARC53のほうが大きい音が出力されるという現象があったため、実際に聞こえる音の大きさが近くなるように調整し再度聞き比べていくと両者の違いがあまりわからなくなりました。違いがあるような気がするけれど大きな変化ではないんじゃないかと思います。HS1300SSは元々解像度が高いイヤホンなので違いが出にくいのかもしれません。
もう一つの問題点として、今回のリケーブルは接続方式以外の条件(ケーブルの材質)が変わってしまっているため感じた違いが接続方式の違いによるものなのかケーブルの材質による違いなのかは判断できません。他にも出力レベルの違いによって音が良くなったと感じているのかもしれませんし、そもそもケーブルを変えたという心理的要素が影響しているのかもしれません。言ってしまえば実際に聞いてみて良いと思うほうを選べばいいというのが結論です。私の感想としてはARC61とARC53はどちらも良い音なので予算と好みで選んでいいのではないでしょうか。
総評
店頭でいろんなイヤホンを試聴しましたが、Acoustune以外は考えられないと思うほど解像度が高く音が溢れるような鳴らし方に惚れました。他にも高音がクリアだと言われているイヤホンを試聴しましたがAcoustune以外のイヤホンはどれも曇っているように感じるほどクリアな音を楽しめます。
試聴した中で一番好みだったのはHS1697TIでした。HS1300SSよりもさらにクリア感が上がった印象でしたが、約10万円という価格は完全に予算オーバーでしたのでHS1300SSになりました。約3万円という価格は沼の入り口感がありますが価格以上のものは確実に得られるでしょうし数年使い続けられる音がそこにあります。
リケーブルについて
リケーブルに関しては先に書いたように実際に聞いてみて良いと思ったほうを選べばいいという結論になります。私としては2万円弱という価格は少し厳しいかなと感じました。
HS1697TIの純正ケーブルはシルバーコート+OFCのアンバランス接続となるARC51ということで店頭ではそちらも試聴しましたが、その時に最初に感じた違いの方向性はARC61からARC53にリケーブルして感じた違いと似ている部分もあり、やはりシルバーコートの恩恵が強く感じられたのかもしれません。
ブランドテストを行えればいいんですけど、M11の仕様なのか同じ音量でも出力されるレベルが変わってしまうという問題があるため困難です。ARC53と同じ材質でアンバランス接続となるARC51を購入するなど、何らかの形で接続方式による音の違いをテストしてみたいと思います。
と、書いていたらSE-CH9T用の2.5mmバランスケーブルが安くなっていたので購入してしまいました。この記事が公開されている頃には手元に届いているはずですので近日中にバランス接続による違いはどうなのかをテストしたいと思います。ちょうど手元には2.5mmのバランス接続が可能な機器が2つありますので(Pioneer XDP-20、FiiO M11 Plus LTD AA)、より詳細な比較ができそうです。