Abusan’s Journey

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Acoustune HS1697TI レビュー「シングルダイナミックを採用したイヤホンの傑作」

おはこんばんちは。今回はAcoustuneの旧フラッグシップモデルとなるHS1697TIをレビューします。

Acoustune HS1697TIはフラッグシップを担っていたHS16シリーズの最上級モデルです。
2020年にフラッグシップモデルとして発売され、2021年に2倍の価格を引っ提げて登場したSHO-笙- ACO-HS2000MXにフラッグシップの座を明け渡しましたが販売は継続。2022年に後継のHS17シリーズ発売と同時に生産終了となりました。
Acoustuneのイヤホンはコネクタを格納するハウジング部とドライバーを格納するチャンバー部が分離されていることが最大の特徴です。通常のイヤホンではレジンやプラスチック、金属で成形されたシェルにドライバーやコネクタなどの一式が格納されています。AcoustuneのHSシリーズではそれらを分離することによってドライバーから出る音の反響特性を最適化しているとされています。
HS16シリーズはチャンバーの素材によってHS1655CU、HS1677SS、HS1697TIの3モデルが用意され、それぞれ真鍮、ステンレス、チタンが採用されています。今回レビューするのはチタンを採用した最上級モデルのHS1697TIです。

HS1697TIは既に生産完了していますので店頭在庫などで残っているものか、中古品を購入することになります。新品では98.980円が定価です。中古品は美品なら5万円台後半が相場かと思われます。
今回はeイヤホンの中古セールでお安くなっていた中古品を購入しました。購入価格は45,000円ですが新品価格を基準としたレビューとします。

外観・特徴

他のイヤホンではまず見ないメカメカしいデザインをしています。ガンメタに塗装されている部分がコネクタが入ったアルミ合金製のハウジング部です。銀色に輝くチタン製チャンバーがちらっと見えています。
メカメカしいデザインをかっこいいと見るか子供っぽいと見るかで評価が変わるデザインです。個人的にはかっこいいほうかな。

以前にレビューしたHS1300SSではハウジング部を固定するためのネジ止め部分が大きな突起となってしまっていたため装着感に大きな影響を及ぼしていました。
HS1697TIはHS1300SSとは違いネジ止め部分が丸められています。それでも通常のIEMタイプとは違って独特の形状をしているため耳を選ぶイヤホンであることは間違いありません。
HS1697TIの装着感を向上させるアプローチとしては2種類あります。
1つはイヤーピースのサイズや形状で改善する方法です。筐体自体を耳に納めることに抵抗がない場合は非常に効果があります。例えばSednaEarfitのスタンダードタイプを使用するとノズルを延長したような効果を得られます。これにより耳に筐体を触れる部分を少なくして装着時の不快感を抑えることができます。SednaEarfit XELASTECでも同様の効果がありました。
もう1つはAcoustune ST1000という製品を使用することでカスタム化してしまう方法があります。耳型の採取やST1000の購入費用がかかりますが装着感を大幅に向上させることができます。

www.acoustune.jp

ドライバー構成は漢のダイナミック1発です。オーソドックスなダイナミックドライバー1機で構成された1DDはマルチドライバーやバランスド・アーマチュアドライバーの技術の発展とともに数を減らしていますが、1DDならではの統一された音質はやっぱり魅力です。
HS16シリーズにはAcoustune独自の第4世代ミリンクスドライバーが採用されていますが、このHS1697TIのみ薄膜チタンドームをドライバーに採用することで音質を向上させています。

ケーブルは8芯構造の銀メッキOFC線と極細OFC線をミックスしたARC51が付属します。リケーブルに対応していますが、端子にPentaconn Earを採用しているため選択肢は2pinやMMCXと比べて非常に狭くなります。

イヤーピースはAET07、AET08がそれぞれS, M, Lの3サイズ、ダブルフランジタイプのAET06がS+, M+の2サイズ、フォームタイプのAET02が1サイズ入っています。

その他の付属品はアルミ製大型ケース、合皮イヤホンケース、ケーブルタイ、保証書、説明書です。高額なイヤホンですので付属品もかなり充実しています。

音質

ぱっと聞いただけだとよくあるV字傾向バランスが目を引きますが、聞き込んでいくと奥深く濃いサウンドを聞かせます。
個々の音の輪郭がはっきりとしたタイトな鳴らし方でありながら自然で滑らかな質感があり、硬い音だけど硬くなりすぎないという絶妙なバランスで聞けるサウンドです。高音から低音まで全ての帯域でほとんど粗が見えず、透明感が非常に高いと感じました。
解像度は高く、音の数が多めな楽曲でも分離してくれます。音場は広めで楽曲によってはイヤホンであることを忘れるくらいに抜けの良さを感じます。
ある種モニターライクでディティールを正確に表現するかのような音ではありますが、楽しく聞けるような刺激のあるサウンドに仕上げられています。特に音場の広さと刺激のある音を両立しているのはすごいことです。

インピーダンスは24Ω、入力感度は110dB@ 1mWです。
スペック上の数値で想像する通りに音量は取りやすいのですが再生機器側のアンプ性能に大きく左右されます。特にスマホなどの環境ではサブベース域が不足しますので、せめてポタアンなどを用意したいところです。

songwhip.com オーケストラの演奏ならではの広い音場感がありながら、個々の音にはっきりとした主張を感じさせる鳴らし方をします。

songwhip.com 音圧が非常に強く、刺激感と分離感が求められる楽曲です。分離の悪いイヤホンではボーカルが埋もれてしまいます。刺激感を抑え過ぎると物足りなく感じますが、刺激を出しすぎると個々の音の粗が見えてしまって音が潰れてしまったり聞き疲れしやすくなります。
HS1697TIの優れた解像度と音場の広さ、タイトで刺激感を残しながら不快にならないサウンドがわかりやすい楽曲でしょう。

高音

硬質で鋭い鳴らし方ながら響きの良さがあります。個々の音をタイトに鳴らしていくと減衰が速すぎて響きが失われやすいのですが、HS1697TIは音の減衰を自然なレベルに抑えてあるため残響感が失われていません。
楽しめる高音でありながら非常に聞きやすい自然な鳴らし方をします。非常に高いレベルで仕上げられた高音で、不快な刺激は徹底的に排除されシャリ付きや刺さりなどは一切感じられません。

songwhip.com 打ち込み系ですが高音が特徴的な楽曲です。音の鋭さだけでなく、響きの良さがないといけません。
HS1697TIは硬質で鋭く鳴らしながら残響感が失われていません。

songwhip.com こちらの楽曲は鉄琴の音が入っています。1分20秒あたりから響きを揺らすギミックも正確に鳴らしてくれます。

中音

全体の帯域バランスはややV字傾向ですが、中音が凹みすぎることなく自然な距離感を保って聞くことができるような印象です。
他の帯域と同じく個々の音の質感は非常に高く、輪郭のはっきりとした音を分離良く鳴らすため見通しの良さがあります。
言ってしまえばとにかく良い音です。分析的に聞き込んでも粗が見えません。

songwhip.com 出だしのスネアドラムの音、特にやや強めに叩く特徴的な音に注目してください。
ドラムの皮を叩いた瞬間から、その響きまで正確に鳴らします。ドラムを叩く映像が目の前にあるような印象を受けます。
その後に入ってくるピアノの音は一音一音に定位があり横に広がります。HS1697TIのやや広い音場と優れた解像度でしっかりと聞き分けることができます。

ボーカル

高音や低音と比べると中音ほどではありませんが少し控えめに感じます。埋もれることはなく、ボーカルの分離感は非常に高いと感じました。
不快な刺さりを抑えながら非常に良く伸ばします。演出感は控えめで純粋な音の表現力で勝負するタイプです。

songwhip.com songwhip.com ボーカル曲のリファレンスとして使用している楽曲です。
音の質感はFiiO FD7と比べると僅かにザラつきを感じます。ボーカルの濃さはYanyin Moonlightに軍配が上がります。
それらと比べてHS1697TIのボーカルが持っている魅力は自然なバランスでしょう。主張しすぎることはありませんが良く伸びます。ボーカルとインストを同時に堪能するという

低音

高音と比べると僅かに控えめですがミッドベースからサブベースまでタイトに鳴らします。分離も非常に良く、他の周波数帯域に被ることはありません。
量感は必要十分といったところで過度に膨らみすぎることはありません。低音好きの方からすると物足りなく感じるかもしれませんが、全体のバランスを考えるとちょうどいいと感じました。
再生環境に最も左右されやすく、アンプの性能が不足すると低音が痩せて聞こえます。せめてミドルクラスからミッドハイクラスのDAPを使用したいところですね。

songwhip.com ミッドベースをキックとしてサブベースへ深く沈み込むように広がる低音が入っています。
ミッドベースからサブベースまでしっかりと鳴らすようにチューニングされていないとキックだけが目立つのですが、HS1697TIではそのようなことはありません。
過度に主張しすぎることはなく、かと言って不足しているようなバランスでもなく、本当にちょうどいいバランスで鳴らします。

総評「1DD構成を採用した名機の1つ」

良い点

  • シングルダイナミックならではの高音から低音まで統一された自然な音
  • 輪郭がはっきりとした主張のある音
  • 硬質で鋭く響きの良い高音
  • 自然でちょうどよい距離感を保つ中音
  • タイトで分離の良い低音

悪い点

  • 評価の分かれるデザイン
  • 耳を選ぶ装着感
  • 低音好きの方からすると低音が量感不足かも
  • Pentaconn Ear端子採用のためリケーブルの選択肢は少なめ(アダプターである程度解消はされる)

HS1697TIの最も良い点はシングルダイナミックならではの統一された自然な音でしょう。マルチドライバーでも自然な音を目指した製品はありますが、やはり完成されたシングルダイナミックには敵わないと思いました。
新品の価格は約10万円でしたが、現在では後継のHS17シリーズが出たこともあって5~6万円ほどで中古品が流通しています。その価格でこの音が手に入るのは破格過ぎると感じるくらいに良い音です。
中古品であってもeイヤホンなどの店頭では試聴できますのでぜひ一度聞いて欲しいイヤホンです。