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Whizzer Kylin HE01 レビュー「才色兼備なモニターサウンドイヤホン」

おはこんばんちは。今回はWhizzerのKylin HE01という有線イヤホンをレビューします。

Whizzer Kylin HE01

Whizzerは2013年に誕生した中国のオーディオメーカーです。同時にJUNCTION IDEA(J.IDEA)というデザインスタジオも立ち上げられ、Whizzer製品の意匠デザインを全て担っています。カジュアル向けイヤホンブランドだったOpera FactoryはWhizzerの低価格イヤホンブランドです。
インダストリアルデザイナーが中心となって立ち上がったWhizzerは、単にオーディオ製品を作るだけで良しとせず、高品質で独自性のあるオーディオ製品を美しいデザインで作ることでブランドの価値を高めています。
ただ単にイヤホンを作って売るだけではなく、技術を磨き上げてWhizzer流のオリジナルデザイン、サウンド、テクノロジーを追求するという技術集団的な色が濃いメーカーです。
2016年に初のオリジナルイヤホン「A15」を発売。ベリリウムコート振動板を採用して1万円を切る価格を実現しました。2017年にはアップデート版の「A15 Pro」を発売し、2018年には新シリーズとなるKylinシリーズを誕生させます。
最初のKylinシリーズとなったHE03は1DD+1BAのハイブリッドイヤホンとして高い評価を受けました。そして2020年にKylinシリーズ第二弾として1万円を切る低価格で誕生したのが今回レビューするKylin HE01です。

外観・特徴

Whizzer Kylin HE01のパッケージはイヤホンとは思えないサイズです。
写真撮影には一辺が30cmの撮影ボックスを使用していますが、HE01のパッケージを入れるとかなりギリギリのサイズです。ミッドハイクラスのDAPくらいのパッケージで使用されるようなサイズです。

HE01のハウジングは基本的に樹脂を採用していますが、ノズルとフェイスプレート周辺のリング、2pin端子周りのリングには金属が採用されています。
J.IDEAによってデザインされたHE01は女性向けのアクセサリーのような輝きがあり、随所に設けられた金属パーツが良いアクセントとなっています。金属パーツの色はローズゴールドが採用され、附属の5N OFCケーブルと統一感が出ています。

ケーブルには独自のカバー付き2pin端子が採用されています。TFZ 2pinと同様にカバーから露出しているピンの長さは通常の2pinタイプ端子と同じ長さですので、他のフラットな2pin端子を採用するイヤホンにも使用することができます。

HE01に使用されているダイナミックドライバーは10.2mmの第四世代BRIGHTドライバーというWhizzerが独自開発したものが使用されています。
ハウジング内部にはTBI Audio Systems社の特許技術である「HDSS」のモジュールが見えています。これは同社が考える良い音 = 「歪のない正確で自然なサウンドの再生」「3Dサウンドによる自然な臨場感の実現」「ストレスの緩和」を達成するための技術です。様々なイヤホンで採用されていますが、HE01のようにモジュールが外から見えるようになっているイヤホンは非常に珍しいと思います。

パッケージのサイズとは裏腹にイヤホン本体のサイズは小さめです。
試しにKBEAR Robin、NICEHCK Youthと比べてみましたが、同価格帯では小さめなサイズ感のYouthよりも小さくなっています。

付属品も豪華な仕様です。2種類3サイズのイヤーピースに余裕のある大きさの金属製ケースが付属します。
イヤーピースはリファレンスとなるバランスタイプと、細めの軸を採用することでボーカルに特化したバランスへと変化させるボーカルタイプの2種類が付属します。装着感も申し分なく、そのまま使用できるクオリティです。

音質

HE01は高音から低音まで聴覚上フラットで良好なバランスを持ち、上流の再生機器や音源の音を脚色や歪み無くそのまま鳴らします。
個々の音の輪郭がくっきりと浮かび上がるほどにディティールの表現力が優れていて、音の分離感や解像度も1万円以下クラスとしてはトップクラスです。音数が多い楽曲であっても個々の音を用意に聞き分けることが出来ます。
音場はやや広めで定位も良好。解像度も高く見通しの良いスッキリとしたサウンドを楽しめます。インピーダンスは低めで出力は高めなのでスマートフォンでも鳴らしやすく環境を選ばずに使えます。

Distortion (10 BABYMETAL BUDOKAN LIVE) by BABYMETAL, Alissa White-Gluz songwhip.com 音数が多いメタルというジャンルに加え、ライブ音源ということで高い空間表現力を要求されます。
HE01の高い解像度と広い音場を体感できる音源でもあります。

To the Hellfire by Lorna Shore songwhip.com ゴリゴリの海苔波形で作られた音源ですが、音圧アゲアゲで音数がマシマシになっているにもかかわらず全ての音が潰れずにしっかりと聞こえてくる最強の海苔波形音源です。
HE01はアゲアゲでマシマシな音をバスドラムの超低域までガッツリと鳴らしきってくれます。

Eye of Algol by Therion songwhip.com こちらは海苔波形ではないものの、音数と音圧は凄まじいものがあります。
こういった音圧強めの音源は樹脂筐体で潰れやすいのですが、HE03はHDSS技術のおかげなのか全く潰れること無く鳴らし切ります。特にドラムのアタック感が全く損なわれておらずダイレクトに響かせます。

1万円以下の価格帯でモニターライクなディティール重視サウンドにしてしまうと音の細かい部分で粗が目立ちやすいのですが、HE01では全く気になりませんでした。
特筆すべきは何の変哲もない5N OFCケーブルでこの音を出せるというところでしょう。銀メッキ線が当たり前となったこの価格帯に5N OFCを採用するのはカタログスペックで劣ると判断されがちですが、Whizzerからしてみればケーブルでイヤホンの特性を変化させずとも良い音を鳴らせるという自信の現れなのかもしれません。

この価格帯でよくある弱点として音量によって音質に変化が生じるというものがあります。よくあるのが特定の音量より下は音が引っ込んでしまうというものですが、HE01は音量を下げても音質の変化が抑えられているため音量設定にかかわらず歪みのない優れた音質を実現しています。
試聴時に使用しているのはFiiO M11 Plus LTDのミドルゲイン設定です。私の場合、HE01で普段よく聞く音量は約50くらいになりますが、試しに音量を半分の25まで下げてみました。
映画「WHIPLASH」のサウンドトラックからCaravanを聞いてみたところ、音量が25であっても50に設定した場合と同様に細かいところまでしっかりと聞き取ることができました。さらに音量を20、15と下げても同様です。さすがに音量10ともなると聞き取りづらい部分が出ますが、小さい音であっても輪郭のはっきりとした歪みのない音は健在です。

Caravan by John Wasson songwhip.com 音量を下げて聞いてもそれぞれの楽器が出す音にしっかりとした輪郭が残ります。
特にドラムのソロパートで細かくシンバルを叩く場面は音量15でもはっきりと聞き取れます。

高音

HE01の高音は非常に抜けが良く、見通しの良いスッキリとしています。
まるでお手本のように高音質な高音です。硬質で刺激のある高音も、響きや余韻が心地よい滑らかな高音も、どちらも歪み無く鳴らします。
もちろん数万円クラスのイヤホンと比べれば差はあるのですが、かなり細かいところまで聴き込んでも粗が見えません。

瞳の中のシリウス by Takane Shijou (CV: Yumi Hara), Umi Kousaka (CV: Reina Ueda), 徳川まつり (CV.諏訪彩花), Miya Miyao (CV: Choucho Kiritani) songwhip.com 透き通ったクリアな高音が特徴的が楽曲です。
硬質で煌めくように響く高音を、しっかりと刺激感を残しながら鳴らします。

中音

最近は低価格イヤホンでも音のクオリティが格段に向上しているため、昔と比べると聞くに堪えないような中音を鳴らすイヤホンはほぼ見られなくなりました。
普段のレビューで癖のない自然な音を鳴らすと書くことが多いのですが、今となってはそれが当たり前で自然な音を鳴らしながらどこまで洗練された原音に忠実な音を鳴らせるかというところが重要となってきています。
HE01の中音は癖のない自然な音であることはもちろんのこと、高い解像度でしっかりと分離し、広い音場による空間表現がとても魅力的です。
ただし、HE01は音源の音をそのまま鳴らすことを忘れてはいけません。HE01は高い解像度と広い音場を持っていますが、同時に音源の持つ音をそのまま鳴らします。空間表現が非常に良い音源をしっかりと鳴らすことはできますが、もとから音場や分離感の悪い音源を良い音で鳴らすことはできません。そういう意味も含めて癖のない自然な音を鳴らします。

Silence In The Storm by 馮羿 songwhip.com 台湾の天才ウクレレ奏者「Feng.E」の代表的な楽曲です。
HE01で聞くとウクレレの一音一音にしっかりとした実在感があり、弦の位置による定位も感じ取れます。

ボーカル

男性ボーカルのどっしりとした低音から女性ボーカルの空へ羽ばたくようなどこまでも伸びる高音までオールマイティに鳴らします。
低音重視であれば男性ボーカル、高音重視なら女性ボーカル側へ得意な領域が寄ってしまうのですが、HE01はどちらも楽しむことができるように優れたバランスを持っています。

愛は静かな場所へ降りてくる(2011リマスター・バージョン) by ZABADAK songwhip.com 私が女性ボーカルのリファレンスとして使用している楽曲。どこまでも空高く伸びながら優しく余韻を残す美しい歌声が魅力です。
HE01はしっかりと伸ばしながら歯擦音や上ずったような印象は皆無です。

Infinite Octave! by Altessimo songwhip.com 男性ボーカルらしい低音から始まり、サビでは男性としてはやや高い声域まで伸びる楽曲です。
女性ボーカルに特化したようなイヤホンでは上ずったような音になってしまいがちですが、HE01では全く違和感なく聞くことができます。

低音

HE01の低音は他の音域と比べると少し控えめなバランスですがミッドベースからサブベースまで均一に鳴らします。
高音や中音と同様に質の良さを感じる低音で、タイトさ、キレの良さ、滑らかな質感、ミッドベースからサブベースのバランスなど、どれを取っても高音質な低音を楽しめます。
控えめなバランスは量感不足を感じることがあり、楽曲によってはもう少し量感があるほうが良いとも思います。

Doin' it Right by Daft Punk, Panda Bear songwhip.com ミッドベースからサブベースにかけて深く沈み込む低音が入っています。
キックとなるやや低めなミッドベースではタイトに鳴らし、そこから繋がるサブベースへ深く広がる低音は滑らかに鳴らします。

総評「才色兼備」

良い点

  • モニターライクでバランスの良いサウンド
  • クリアで見通しが良く、ディティールの再現性に優れている

良くない・気になる点

  • 解像度重視なためか個々の音の線が細く厚みのある音は苦手
  • 低音の量感不足

HE01を一言で表すなら「才色兼備」でしょう。J.IDEAによる美しいデザインとWhizzerの技術者による素晴らしい音質チューニングが見事に融合した名機です。
どんなジャンルであっても楽しく聴けますが、音源の音質を試すような音質のため、特に分離感や定位についてしっかりと作られた音源でなければ真価を発揮することができないでしょう。
一部で「音場が狭い」という評価がありましたが、HE01の音場は十分に広く取られています。音場が狭いと感じた場合はライブ音源などを聞いてみると評価が変わると思います。
HE01は2020年に発売されたイヤホンですが、3年経った今でも1万円以下の価格帯でトップクラスの音質です。音場の広さや高音の表現力ではTKZK Ouranosに軍配が上がりますが、ディティールの表現力ではHE01のほうが優秀だと思いました。

HE01の価格について

HE01の価格は79ドル、日本国内での正規価格は9,980円でした。
その後、2022年8月に代理店の伊藤屋国際が価格改定を行ってからは12,600円で販売されています。
www.itohya.jp

ところが、どのタイミングなのかはわかりませんがWhizzerが価格を55ドルに値下げしたようです。これによりAliExpressやWhizzer公式ストアでは約8,000円で販売されていますが、日本国内での正規価格のみならずHiFiGOでの価格も据え置きされており、AliExpressの公式ストアと3割以上の価格差が発生している状況です。
HE01のみならず、Whizzerの製品を購入する際はAliExpressのWhizzer公式ストアを利用したほうが良いでしょう。

Whizzer Kylin HE01 - Whizzer Official Store
https://ja.aliexpress.com/item/1005001731358565.html