おはこんばんちは。今回はMoondrop Starfieldをレビューします。
Moondrop Starfieldは2020年1月に発売されたイヤホンです。
最近は少し減速傾向があるMoondropの人気ですが(個人の感想です)、Starfieldが発売された頃は中華イヤホンブームと合わせてMoondropの人気も非常に高く、特にミドルローからミッドハイあたりを担っていたAria、Starfield、KATOが大人気でした。Starfieldは1万円台半ばの価格が設定され、AriaとKATOの中間に位置します。
後継機とされたMoondrop Stellarisが発売したこともあり一時期は生産完了とも言われていましたが、eイヤホンやヨドバシカメラでは取り寄せ対応となっていたりしているので販売が継続されるかもしれません。
外観・特徴
パッケージはMoondrop SpaceShipと似たようなサイズ感の縦長です。
30cmサイズの撮影ボックスではギリギリです……
付属品は本体、ケーブル、イヤーピース、Ariaと同じケース、説明書です。
StarfieldはAriaとKATOと同じくシングルダイナミック構成で金属製の筐体を持っています。
製品名の通り星をイメージしたデザインは素直に綺麗でかっこいいと思えます。1万円半ばという価格を考えてもお値段以上のビルドクオリティを感じられ、十分に所有欲を満たせるでしょう。
筐体は5軸CNCで切削され細部まで丁寧に作られています。塗装にはUVカット層が追加されているため短い期間で色褪せてしまうこともないでしょう。
ケーブルはAriaとKATOは銀メッキですが、Starfieldのみ4N OFCのリッツ線です。
ケーブルはイヤホンと合わせるように蒼い被膜で覆われています。全体としての統一感が出ていて好印象です。
端子はCIEMタイプの埋込式2pinが採用されているためリケーブルの選択肢は豊富です。
イヤーピースはグレーの汎用品です。イヤホン本体と比べると安っぽさが目立ち、統一感もありません。
イヤホン自体の装着感は良好のためどんなイヤーピースでも合わせていけるでしょう。おすすめはWhizzer ET100の水色です。イヤホン本体やケーブルの色と統一感を出せます。
音質
Starfieldはやや厚みのある濃い音を鳴らします。全体のバランスは僅かなV字傾向ですので、元気系ドンシャリのような音ではありません。
個々の音の輪郭はある程度はっきりしていて音像は掴みやすく感じます。音の厚みは十二分にあるため線の細さを感じることは全くなく、ムーディで雰囲気の良さがあるサウンドを楽しめます。
ややタイトな鳴らし方とやや狭い音場のため音の広がりや余韻は不足しがちです。ウォーム系の濃密なサウンドは自然な音とは違う作られた音だなとは思いますが、Moondropらしい楽しませるサウンドとして完成されています。
インピーダンスは32Ωで感度は122dBです。KATOほどではありませんが、カタログスペックの数値とは裏腹に音量の取りづらさや鳴らしにくさがあります。
高音
金属筐体ならではの綺麗な美音系の高音を鳴らしながら刺さりは抑えられており、2020年発売ということを考えると非常に良い音質を持っています。
4kHz付近から上の周波数帯域を抑え過ぎている印象があり、高音を綺麗に鳴らしていながら物足りなさが残ってしまいます。
中音
癖のない音を鳴らしますが少し凹みがちです。
タイトで輪郭がはっきりとした確かな音像を感じられ、厚みのある濃い音というStarfieldのキャラクターを決定づける部分だと思います。少し硬すぎる印象はありますが、レスポンスは十分に良いためスネアドラムのアタック感が良い感じに出ています。スピード感のある楽曲でも楽しむことができるでしょう。
ボーカル
ボーカルはしっかりと中央に定位し、中音よりもやや前に出してくる印象です。複数ボーカルの楽曲では分離感よりもまとまりや雰囲気を重視したような鳴らし方で楽しませてくれます。
音域問わず滑らかで艶と湿っぽさのある音を鳴らします。不快な刺さりや尖りも適度に抑えられていますが抑えすぎてしまっている印象も拭えず、特に女性ボーカルで物足りなさがあります。
愛は静かな場所へ降りてくる(2011リマスター・バージョン) by ZABADAK
songwhip.com
当ブログではお馴染みの女性ボーカルリファレンス楽曲です。
刺さりはしっかりと抑えられているのですが、女性ボーカルの伸びで重要となる4kHz付近が伸び悩んでいるためか物足りなさを感じます。
不快じゃない、刺さらないという意味では良い音なのですが、そこからもう一歩踏み込んでほしかったところです。
低音
タイトで引き締まった低音を鳴らし、滑らかな質感を持っています。ミッドベースからサブベースまでのバランスも良好ですが、20~10Hz付近の深い低音は鳴らしきれていません。
かなり低音を前に出してくるようなバランスのため、低音不足な楽曲でも低音を楽しむことができます。
総評「濃密で厚みのあるウォームサウンド」
良い点
- 厚みのある濃い音で雰囲気の良い音を鳴らす
- 金属筐体ならではの綺麗な高音
- 艶と湿っぽさがあるボーカル
- タイトで引き締まったバランスの良い低音
良くない、気になる点
- 全体的に硬さが目立つため響きや余韻の再現性は低い
- 高音から超高音にかけて抑えるようなバランスのため伸びは物足りない
- ジャンルを選ぶ音質
Moondrop Starfieldは厚みのある音を音場いっぱいにしっかりと鳴らすことで濃密なサウンドを実現しています。
星空いっぱいに広がり瞬く幾千幾億の星たちのように、音楽の海を体感することができるでしょう。
個々の音にはある程度の明瞭度があり音数が多い楽曲でも問題ありません。中音の凹みは少し気になりますが、モニターライクとは違った方向性のサウンドを楽しめます。
Starfieldの弱点
Starfieldは厚みのある濃密なサウンドを楽しむことが出来ますが、そのサウンドには大きな弱点があります。
楽曲を制作する際、様々な特性を持った音を集合させて楽曲という形にするためにミックスやマスタリングという作業が行われます。例えばバンド構成であればドラム、ギター、ベース、ボーカルが素材として用意され、それらのバランスを取りながら楽曲を制作します。その際、各パートの音は上の図のような配置を行うことで十分な分離感を確保することできます。
十分な分離感と正確な定位によって作られた音源は豊かな空間表現を持っており、音楽を楽しみながら聞き疲れしづらいとされています。
しかし、日本のJ-POPやアニソンなどのジャンルではクラッシュやハイハット、スネア、キックがボーカルに被るように配置されていることが多く、ボーカルがやや遠く感じられたり、音を中央に集めてしまい音どうしが被ることでごちゃごちゃとした印象を受けることがあります。
また、他の楽曲と比べたときに良い音に聞こえやすいようにできる限り音量を上げるということも行われています。もちろん0dBFSを超えてしまってはいけないため、マキシマイザーやコンプレッサー、リミッターをかけて音を潰すことで全ての音が大きく聞こえるようにします。
一説にはラジカセで聞くことを前提としたミックス・マスタリングだとも言われています。令和の時代だとスマホのスピーカー向けとも言われます。
Agapē by メロキュア, MELOCURE
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中盤からのドラムパートに注目して聞いてください。ドラムパートがボーカルに被るようなミックスがされているため、ボーカルが鳴っている間はドラムパートは醜く潰されてしまいごちゃごちゃとした汚い音を出しています。サビ前などのドラムの音数が少ない場面ではまだましで、サビのドラムは同じ演奏なのかと疑うほどに音が違います。終盤にかけてドラムのソロパートと比べてもクラッシュの残響感などに大きな違いがあります。おそらくドラムパートの定位がボーカルに被っていることを隠すためなのに音を潰しているのではないか私は思っています。
楽曲としてはとても好きなのですが、音質という視点から見ると本当に酷いと感じます。
Moondrop Starfieldはそういった間違ったミックス・マスタリングがされた楽曲向けのチューニングがされています。標準的なミックスで作られた音源では定位やバランスに違和感を覚えたり、音源が持つ豊かな空間表現が再現されないため聞きたい音を聞くことが出来ない事態が起こります。
Starfieldと相性が良いのはいわゆるアニソンやJ-POPです。これらのジャンルを聞く限りでは高音質だと感じます。私の好きなアイドルマスターも含まれますが、残念ながらアイマスの楽曲は他のアニソンやJ-POPと同様にそれほど良い音質を持っているとは言い難いと感じています。
Starfieldと相性が悪いジャンルはEDMやトランス、洋楽ロックだと思います。中音が凹みながらボーカルと低音が必要以上に強調され、音場や定位感に違和感があります。地に足をつけるようにボーカルや中音よりも下で鳴っている低音が、ボーカル・中音に被るような位置で鳴ってしまいます。
もちろん音質の良いアニソン・J-POPもありますし、音質の悪いEDMやトランスもあります。
Silence In The Storm by 馮羿
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こういった生演奏を録音したものをStarfieldで聞くと不自然さが目立ちます。
序盤はやや遠目に鳴らしたかと思えば、中盤からは個々の音との距離感に不自然さが目立ち始めます。
低音は埋もれてしまって聞き取れません。Whizzer Kylin HE01やTKZK Ouranosなら他の音を邪魔せずにはっきりと聞き取れます。
Doin' it Right by Daft Punk, Panda Bear
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ミッドベースからサブベースへ広がるような低音が入っています。
本来なら音場の下方向へ広がるように深く沈み込むのですが、Starfieldの低音はやや高い位置から鳴っているため中音やボーカルに被るように聞こえてしまいます。
また、低音の位置が高いために全体的に地に足のついていない浮ついた印象を受けます。
To the Hellfire by Lorna Shore
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海苔波形で音数が非常に多いにも関わらず豊かな空間表現が感じられミックス・マスタリング技術の素晴らしさを感じる楽曲なのですが、Starfieldでは音圧の強い海苔波形音源にありがちな音を鳴らしてしまいます。
ある種オーディオ機器の試金石ともなるような楽曲のため、店頭で視聴する機会があれば是非いろんなイヤホン・ヘッドホンで聞いてみて欲しいです。
長くなってしまいましたが、簡潔に表すと Starfieldはどんな楽曲を聞いてもマキシマイザーやコンプ、リミッターをかけたようなダイナミックレンジの狭い音を鳴らし、ダイナミックレンジが狭いラウドな楽曲以外では違和感を覚えます。
特にJ-POPやアニソンでそういった音の傾向が顕著に見られます。Starfieldのサウンドはそういった音源に合わせてチューニングされたのではないかと思うくらい相性が良くなるように作られています。
最近は自然な音作りをベースとして個性を味付けしているようなイヤホンが主流となりつつあります。しかし、自然とは違う作られた音 = 悪い音ではありません。
以前レビューしたYanyin Moonlightもハイブリッドであることを活用した作られた音を高いレベルで実現したイヤホンでした。作られた音であっても個々の音の質を見れば高音質です。
StarfieldはKZやTRNのような元気の良いドンシャリではないし、SeeAudioのようなアコースティックでナチュラルなサウンドでもありません。しかし、Starfieldの厚みのある濃密なサウンドは、ジャンルこそ選びますが個々の音の質は十分に高く、楽しく音楽を聞くことができます。特定のジャンルに特化したという点に留意すればStarfieldの音は決して悪いものではないと思います。