おはこんばんちは。今回のイヤホンレビューはWhizzerのKylinシリーズからHE10です。
発売から1年が経とうとしていますが、Whizzerが誇るKylinシリーズ最新モデルの実力をレビューしたいと思います。
Whizzer Kylin HE10は2023年9月時点でKylinシリーズの最新モデルです。
Whizzerのイヤホンは当ブログでもHE01とHE03Alの2つをレビューしています。Whizzerは技術を根ざしたコンセプトを掲げており、バランスの取れた特性と優れた音質により評価の高いイヤホンを世に送りだしています。
HE10にはWhizzer独自の音質向上技術が詰め込まれています。最もホットな技術は周波数曲線「KAI Target」でしょう。KAI Target はハーマンターゲットカーブをベースにKylinシリーズの開発において積み上げられた技術と経験、ユーザーの趣味嗜好、ハイレゾ技術なども考慮してWhizzerのエンジニアがチューニングしたものです。これからのWhizzerブランドのイヤホンにおいて根幹をなす部分となり、HE10はそれを採用した初めてのプロダクトとなります。
KAI Target以外にもJ.IDEA+による5軸CNCが用いられたデザイン、HE03Dで採用されていた独自の第5世代ダイナミックドライバーをベースに改良を重ねた10.2mmダイナミックドライバー「CARBON」、音圧を適正に保つ「M.D.B.S」など、様々な独自技術が採用されています。
外観・付属品
パッケージはかなり大きめのものが使用されています。実はこのパッケージ、HE01と同じものが使用されています。
背面には周波数特性グラフとカタログスペックが記載されています。
付属品は5N OFCの銀メッキケーブル、イヤーピース3種、HE01と同じケースです。
イヤーピースは従来のSS20やVC20の他に、Whizzerの新作イヤーピースET100も付属します。
イヤホン本体は5軸CNCで加工された金属シェルを持ち、滑らかで美しい曲面を描いています。
シェルのカラーリングは付属する5N銀メッキケーブルと合わせたもので、統一感が出ていて非常におしゃれです。Kylin HE01と同様のリングもシェルのグレーに合わせて変更され、見た目の満足感は非常に高いと思います。
大きさはHE03Alより小さくHE01とほぼ同等。耳に当たる背面の形状はHE03Alと同様の耳にフィットしやすいような形状となっています。
装着感は非常に良好で、特に新作イヤーピースのET100を組み合わせると圧迫感が非常に少ない快適な環境を得ることができます。
Whizzer Kylin HE10はAliExpressのWhizzer Official Storeにて70USD、日本円では約1万円で販売されています。
どういうわけか日本国内の正規価格は26,500円という高額な設定となっており、ブランド公式価格と非常に大きな差が出てしまっています。購入される場合はAliExpressを使用するほうが良いでしょう。
当ブログでは公式価格である70USDを基準としてレビューを行います。
音質
レビューに使用するメイン機器はいつもと同じFiiO M11 Plus LTDですが、今回から据え置き環境の代わりとしてONKYO GX-D90のDAC アンプからの3.5mm出力を使用しています。
音源はSpotifyの試聴用プレイリストの他、いくつかのハイレゾ音源を使用します。イヤーピースは付属品のET100を使用しています。
HE10は高音から低音までバランス良く鳴らします。HE01やHE03Alは明らかに高音寄りな傾向があったのですが、HE10は全体的にバランス良く聞こえるように僅かなV字傾向を持っています。
バランス傾向としてはGSC5NCにリケーブルしたHE03Alと同様の印象もあり、従来のKylinシリーズよりも太い純正ケーブルが非常に良い仕事をしているのでしょう。
高音から低音まで確かな音像と厚みのある音を鳴らしながら、独自の特許技術である「M.D.B.S」による恩恵もあるのか適度な抜けの良さがあるため音圧が強すぎて疲れやすいということはありません。解像度は70ドルの1DDイヤホンということを考えると非常に良好です。1DDなので当たり前ですが、帯域による解像度の変化も無いため不自然さも全くありません。
広めの音場とモニターイヤホンのように正確な定位を持っていますが、全体のサウンドとしてはしっかりとしたリスニングサウンドです。高音から低音まで整った聞きやすいバランスに、確かな音像と厚みのある音が見事にマッチしていて、音楽の世界を楽しみながら疲れないサウンドを実現しています。
ドンシャリでもモニターライクでもないリスニングサウンドというものは言い換えれば中途半端な立ち位置になりがちですが、HE10は楽しみながら疲れないというちょうどよいバランスにチューニングされています。
To the Hellfire by Lorna Shore
songwhip.com
どこを向いても音圧マシマシの迫力のある音が鳴り響く楽曲です。
しっかりとした剛性のある金属筐体に高性能なダイナミックドライバーの組み合わせにより、圧の強さに負けずしっかりと鳴らしてくれます。
注意する点が2つあります。
1つ目はWhizzerらしい音源の音に忠実な傾向も健在なところ。元から音場が狭かったり分離感の悪い音源はやや苦手としています。
2つ目はアンプの性能を要求するため鳴らしづらく音量を上げ気味にする必要があるところ。インピーダンスはHE03Dを超える36Ωで、HE01の2倍です。M11 Plus LTDのハイゲインモードでも45くらいまで音量を上げる必要がありました。GX-D90の3.5mm出力でもボリュームダイヤルを10時の位置まで上げる必要があり、これはAustrian Audio HI-X65に匹敵します。スティックDACクラスではなくミッドハイクラスのDAPは用意したいところです。
70ドルという価格を考えるとカジュアルに使いたいところですが、上流の性能を要求されるのはややミスマッチ感があります。音質だけでなく使いづらさも価格を超えている印象です。HE10を使用したあとにHE01などの軽いイヤホンを使用する場合は音量設定に注意してください。
高音
HE10の高音は十分に硬質で自然な響きを持っています。過度に強調したような高音ではありませんが、金属筐体らしいくっきりはっきりしたタイプの高音で、厚みのある音を鳴らす中低音の中でしっかりと存在感があります。
The Kiss by PHILDEL
songwhip.com
音像と音の余韻がとても良い楽曲です。
HE10で聞くとピアノの確かな音像と柔らかい響きが忠実に再現されていることがわかるでしょう。ET100なら音像を、SS20なら音の余韻を楽しむことが出来ます。
中音
中音に目立った粗はなく、総じて高音質なサウンドを鳴らします。HE10は従来のWhizzerブランドイヤホンと違って鳴らしにくい特性がありますが、レスポンスは十分に良くスネアドラムの鋭い立ち上がりなどで不満が出ることはないでしょう。
Birdland by Buddy Rich, The Woody Herman Band
songwhip.com
言わずとしれたジャズドラマーの名演奏。こういった音源はヘッドホンやスピーカーで聞きたいところではありますが、是非一度はHE10で聞いてみてほしいと思います。
低価格イヤホンのレベルも年々上がってきてはいますが、やはりお値段の差を最も感じるのは中音でしょう。HE10の中音は分離の良さだけでなく、どの音も癖や粗を感じさせません。ジャズという複数の楽器が複数の定位で配置される音源であっても、それぞれの音のバランスは良好に保たれています。
ボーカル
HE03Alのような女性ボーカルの伸びはありませんが、凹みすぎて完全に埋もれてしまうこともありません。やや低音寄りで男性ボーカルのほうが映える傾向があります。
先にも書きましたが、音場や分離感が原音に左右される傾向があり、音の数が多く分離感が良くない楽曲では解像度の高さを活かせずボーカルが埋もれがちになってしまう印象を受けることもあります。
ボーカルをメインで楽しみたい場合は付属イヤーピースのVC20を使用すると良いでしょう。僅かに音像が柔らかくなりますが、ボーカル域にフォーカスしやすくなります。
Arkadia by BABYMETAL songwhip.com 音数が多い楽曲でありながら高い解像度でボーカルが埋もれることはありませんが、SU-METALのどこまでも伸びるようなボーカルはHE10だと少し物足りなく感じてしまい、あと一歩なのになと思ってしまいます。
愛は静かな場所へ降りてくる(2011リマスター・バージョン) by ZABADAK songwhip.com 不快な刺激は無く刺さることは一切ないといったバランスで鳴らします。ただ、Arkadiaと同様にあと一歩が惜しいと感じてしまいます。HE10が決して悪いというわけではなく、ボーカルを主体として聞かせるタイプのイヤホンと比べると物足りないということです。
低音
従来のKylinシリーズを聞いたことがある人なら、HE10の低音は驚くべき音質であることがすぐにわかるかと思います。
単純に周波数特性のバランスとして強くなっただけでなく、大地に根を張る大木のようにしっかりと全体を支えてくれる低音です。相応の厚みがある低音をタイトに鳴らし、ミッドベースからサブベースまでのバランスも良好です。
Doors and Distance by Antonio Sánchez
songwhip.com
バスドラムの力強く引き締まった低音をしっかりと響かせます。
1分辺りから音場が広くなりますが、無駄にブワつくことがないため安定して楽しむことが出来ます。
Monochrome by BABYMETAL songwhip.com HE10は今まで所有・試聴含めてMonochromeの冒頭にある爆速ツーバスのアタック感が最も優れています。HE10はしっかりとしたアタック感と引き締まったキレの良さを併せ持ち、脳を揺さぶるような響きを楽しむことが出来ます。
イヤーピースによる変化
HE10には3種類のイヤーピースがそれぞれ3サイズ付属しています。単なる数合わせや水増しではなく、それぞれしっかりと音の変化を感じられる作りになっており、好みに合わせて選ぶと良いでしょう。
ET100
Whizzerの最新オリジナルイヤーピースで、柔らかい感触ながら十分な厚みがあり装着感は非常に良好です。
音質は個々の音像がはっきりするようになり、音がダイレクトに届く印象です。
VC20
名前から予想できる通りボーカルを主体としたバランスに変化します。高音と低音は少し控えめになり音像も柔らかくなります。
ET100やSS20ではボーカルに物足りなさを感じるならおすすめのイヤーピースです。同様の効果を得られるものにfinalのEタイプがあります。
SS20
3種の中で開口部が最も大きく、音質も音の広がりや響きを重視した傾向に変化します。
ET100よりもリスニング傾向が強くなり、ややドンシャリ風味が増したような印象です。
総評「発売から1年が経とうとしているが100ドル以下で敵無しかもしれない」
良い点
- バランスの良い周波数特性
- 確かな音像が感じられる厚みのある音
- 適度に広い音場
- リケーブルの必要がない
良くない点
- 音源の音質に左右される
- 鳴らしにくく音量が取りづらい
- アンプの性能が低い環境では性能が出しにくい
Whizzer Kylin HE10は100ドル以下でトップクラスの音質を持っているイヤホンです。発売から1年が経とうとしていますが、他に70ドルで同じレベルの音を出すイヤホンはちょっと思いつかないですね。
言ってしまうとバランスの良い周波数特性と厚みのある音の組み合わせなだけとも言えるんですが、それだけでは終わらない個々の音の良さや絶妙なチューニングが光る名機です。
Whizzerは新製品を出すごとに技術力を向上させているメーカーですが、HE10の音質は今までのWhizzer製品から大きく飛躍したような印象があります。音質だけでなくデザインや装着感も非常に素晴らしく、100ドル以下のイヤホンの中で一つだけおすすめするならHE10で間違いないでしょう。
難しいことではありますが良くない点を挙げるとすれば音源の音質に左右される傾向と鳴らしにくくアンプの性能を要求するところでしょう。
前者はジャンルを選ぶことになりますし、後者は低価格なのだからカジュアルに楽しみたいという要求に応えられません。また、音量も上げ気味にする必要があるためHE10のあとに軽く鳴らせるイヤホンを使用する場合は音量設定を意識して下げる必要があります。
2022年の年末に発売されたHE10ですが、2023年11月までに出た同価格帯のイヤホンでは敵無しと言ってもいいんじゃないかなと。正に100ドル以下のゲームチェンジャーです。
先にも書いたのですが国内の正規価格とメーカー・ブランドの公式価格は大きく乖離しています。届くものは一緒ですし、AliExpressのWhizzer公式ストアは梱包もしっかりしているのでAliExpressでの購入に抵抗がなければそちらを強く推奨します。最近は円が安いので70ドルと言えど11,000円くらいになってしまいますが、AliExpressならWhizzerの金銀ミックス線ケーブルと合わせても20,000円は超えません。