Abusan’s Journey

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Whizzer Kylin HE03Al レビュー「初代Kylinシリーズを最新技術でブラッシュアップした明瞭で見通しの良いサウンド」

おはこんばんちは、あぶさんです。
今回はWhizzer KylinシリーズのHE03Alをレビューします。

Whizzerは中国のオーディオブランドです。Kylinシリーズを展開するWhizzerの他に低価格帯を担うOpera Factoryブランドを持っています。Whizzer系列ブランドの製品はグループのデザインスタジオであるJ.IDEA+によってデザインされ、独自の技術やデザインを重視し開発から製造までを手掛けています。
ブランドの詳細や生い立ちはHE01のレビューで解説していますのでそちらをご覧ください。

HE03AlはKylinシリーズの中では3番目に新しいイヤホンで2020年に発売されました。元々、Whizzer初のマルチドライバーイヤホン & Kylinシリーズ第一弾としてA-HE03(生産終了)というモデルがあり、HE03Alはドライバーや筐体を一新したマイナーチェンジモデルという位置づけです。
HE03と2BA + 1DDというドライバー構成と金属製筐体を持つという点では同様で、中高域を担当するBAドライバーはKnowlesのTWFK-30017-000が引き続き採用されています。変更点は低域用のダイナミックドライバーと金属製筐体の形状、HE01のHDSSに変わる独自技術の音響調整システムの採用です。
HE03Alの低域用ダイナミックドライバーはオリジナルでアルミニウム製ハウジングを持つ第5世代10.2mmダイナミックドライバーが採用されています。金属製の筐体はアルミニウムマグネシウム合金を引き続き採用しながら装着感と音響特性を最適化しています。
独自の音響調整システムは Multiple Damping Balance System「M.D.B.S」と名付けられ特許出願中です。筐体に開けられた2つのベント穴と筐体内に設けられた圧力減衰構造により、多重ダンピング構造を有することで聞き疲れを防ぎ最低な音響特性を実現します。

外観・特徴

パッケージはHE01と同様にイヤホンとは思えないほどに巨大です。HE01と比べて厚みが増し、周辺の長さは短くなっています。

蓋を開けるとアルミニウムマグネシウム合金の本体が登場します。
フェイスプレート部分には輸送中の破損防止を目的とした保護シールが貼られています。

アルミニウムマグネシウム合金製の筐体は装着感や音響特性の最適化を目的として再設計されました。
金属製筐体を持つイヤホンの中ではかなり複雑な形状をしています。さすがにHS1697TIよりはシンプルですが、2pin端子周りや耳に当たる部分などは複雑かつ美しい曲面を描いています。
左側のフェイスプレート部にはアルミニウムを採用していることを示すように「Al13 26.982」とプリントされています。「Al」「13」「26.982」はそれぞれアルミニウムの元素記号、元素番号、原子量を表します。

ケーブルは銀メッキの5N OFCを2芯構造としたもので、取り回しの良い細さと柔らかさがある透明な被膜が使用されています。

イヤーピースは白と黒の2種類がそれぞれ3サイズ用意され、白はバランスタイプ、黒は低音を強調するタイプとされています。
同社のEASYTIPSブランドで用意されていたものと同じものだと思われます。装着感は上々ですのでそのままでも十二分に使えます。

その他の付属品は十分なサイズと剛性感のあるレザーケースと説明書などです。

音質

レビュー環境はFiiO M11 Plus LTDを再生機器として使用し、ケーブルは付属のもの、イヤーピースは白いバランスタイプを使用しました。
音源にはSpotifyで作成したチェック用プレイリストがメインですが、CDから取り込んだ音源を使用することもあります。

HE03Alは明瞭度が高く見通しの良いスッキリとしたサウンド。ハイブリッドらしい解像度と分離感の高さが感じられ、中音から高音にかけては金属筐体ならではの響きや伸びの良さがあります。
HE01と比べると見通しの良さやディティールの細かさはそのままに、やや厚みのある濃い音を鳴らすようになっています。ハイブリッドらしい音ではあるものの、それぞれのドライバー間のつなぎは自然でほとんど目立ちません。
音場はやや広めで正方形の形状です。定位も正確で空間表現が豊かな音源であっても問題ありません。ダイナミックレンジが広い楽曲であっても
周波数帯域バランスは僅かに低音が控えめですがHE01と同様に良好なバランスです。アルミ製ダイナミックドライバーは中高音用のBAドライバーよりも鳴らしにくさがあり、アンプの性能が低い環境では低音の量感不足が目立ちます。ミドルレンジ以上のDAPなら特に問題ありませんが、エージングには低音成分がミッドベースからサブベースまで含まれている音源を使用したほうが良いでしょう。

HE03Alには2種類のイヤーピースが付属します。白いイヤーピースはバランスタイプ、黒いイヤーピースはボーカル重視タイプとされています。
両方を試してみましたが、バランスタイプとされている白いイヤーピースでは低音の量感不足が顕著に感じられた一方、ボーカル重視とされている黒いイヤーピースのほうが低音の量感が相対的に増すことでトータルバランスに優れている印象を受けました。
黒いイヤーピースのほうが軸の内径が大きく、イヤホン側のステムとほぼ同じ大きさとなっているためダイレクトに音が届くのでしょう。イヤーピースを付属品以外の物に交換するなら黒いイヤーピースと同様に内径が太いタイプを選んだほうが良さそうです。

To the Hellfire by Lorna Shore 波形だけを見ればいわゆる海苔波形音源ですが、実際に聞いてみると海苔波形にありがちな潰れた音やアタック感の弱さは微塵も感じられず、ミックス・マスタリング技術の高さが光ります。
空間表現に乏しいイヤホンでは詰まったような音になってしまうのですが、HE03Alは広い音場と確かな分離感が音源が持つ空間表現をしっかりと鳴らしてくれます。

Love Music by Shaun Baker, Carlprit EDMやトランスなどの電子音楽ジャンルには広いダイナミックレンジを持つ楽曲が多く、再生環境にもそれなりの性能を要求します。
いわゆるラウドな楽曲に合わせてチューニングされてしまうと個々の音との距離感が近くなりすぎてしまうため刺激が強すぎることで聞き疲れしやすくなります。HE03Alは広い音場と良好な分離感を持っているため、ダイナミックレンジの広い音源でも豊かな空間表現を楽しむことが出来ます。

Symphony No.9 In E Minor, Op.95, B. 178 "From The New World": 4. Allegro con fuoco by Herbert von Karajan, Antonín Dvořák, Wiener Philharmoniker, Berliner Philharmoniker クラシックの生演奏を空気録音した音源は、ダイナミックレンジが非常に広いため再生環境にも高い性能が要求されます。小さな音から大きい音まで適切なバランスで鳴らし、それぞれに確かな音像を要求されます。
HE03Alのダイナミックレンジは広く、小さい音であっても確かな音像とディティールを楽しめます。

Somewhere by Michael Ball, Leonard Bernstein, Alfie Boe, Nick Ingman, Czech National Symphony Orchestra, Prague, Royal Philharmonic Orchestra 映画「West Side Story」で歌われた "Somewhere" は、日本語で「どこかに」というタイトルの通り、逃避行しか選択肢がなくなった2人の寂しい歌です。
序盤はゆったりと始まりますが、歌詞のストーリーが進むに連れて朗々と変化し、終盤は声を張り上げて力強さを感じます。終盤にかけての盛り上がりに合わせた全体の抑揚がとても魅力的です。
ダイナミックレンジの狭いイヤホンでは序盤のゆったりとした声の小さいパートで音量を上げたくなりますが、そうすると終盤で音量の辻褄が合わなくなってしまうというジレンマがあります。HE03Alなどのダイナミックレンジが広く小さな音でも表現力を感じられるイヤホンであれば音量を変える必要はありません。

高音

金属筐体らしい響きや伸び、余韻がとても心地よく感じられ、クラッシュやハイハットなどの鳴り物を綺麗に鳴らします。
高音の刺激を残そうと強めにしてしまうと響きすぎて不快感が出るのですが、不快な刺激を適度に抑えながら楽しめるような刺激だけを上手く残しています。

Marble Machine by Wintergatan 鉄球を使用した自動演奏マシンを使った楽曲です。出だしを飾る鉄琴はタイミングを制御された落とされた鉄球によって演奏され、一つ一つの音階に定位があります。
HE03Alでは高域バランスの良さを感じられます。鉄球が鉄琴にヒットした瞬間は音がはっきりと前に出て気持ちよく響き、その後に心地よさのある余韻へとスムーズに移行します。
1:20あたりからは鉄琴の音をギミックによって揺らしています。このあたりの余韻も程よく響かせて心地よく聞かせてくれます。

Just A Little Lovin' by Shelby Lynne ドラムのシンバルに注目してください。高音のバランスやディティールが重要で、抑えすぎるとボーカルとのバランスが崩れてしまい、強すぎると曲全体の雰囲気が損なわれます。
HE03Alでは金属筐体とKnowles製デュアルBAドライバーによって小さな余韻一つまでしっかりと描写します。それでいてしつこくならないように適度なバランスを保ちます。独自技術であるM.D.P.Sによる効果が出ているのではないかと思います。2:30あたりからの間奏ではシンバルを軽く叩く小さい音まで見事に鳴らします。

中音

中音は適度な厚みのある音を鳴らし、確かな分離感があるため音数がそこそこ多いシーンでも音がごちゃつくことはありません。
総じて癖のない自然な音を鳴らし、特に中音から高音にかけてのバイオリンの倍音などは素晴らしいと感じます。中低音がやや控えめでハイ上がりな印象もあるためコントラバスやチェロの音ではもう少し量感をプラスしたくなります。

ヴァイオリン・ミューズ(バッハ:シャコンヌより) by Ikuko Kawai songwhip.com バイオリンなどの倍音が重要となるパートでは中音から高音にかけての響きの良さがプラスに働いています。

Come Together by Musica Nuda, Ferruccio Spinetti コントラバス奏者と女性ボーカルの二人組で、様々な音が入っていますが伴奏はコントラバスのみという異色のユニットです。
序盤から弦を弾く音のディティールがとても精細で力強さが感じられますが、もう少し量感があればなと思う場面でもあります。

ボーカル

HE01ではやや乾いた印象がありましたが、HE03Alではハイブリッド構成となったことで余裕が生まれたのか艶と湿っぽさが出たことでしっとりとした滑らかな質感を感じられるようになりました。
6kHz付近を適度に抑えることで歯擦音などの不快な刺激を排除していますが、女性ボーカルの伸びや倍音で重要となる2~4kHz付近にはピークがあります。そのおかげか、女性ボーカルは非常に心地よく天井知らずで伸びていきます。

Monochrome by BABYMETAL 「私から歌を取ると何も残らない。そう言い切れる」とインタビューで答えたメタル界の歌姫 "SU-METAL" こと中元すず香の強さと美しさがある歌声が非常に魅力的です。
HE03Alでは抜けが良くスッキリとしたサウンドと、女性ボーカルの伸びを活かす周波数特性で心地よく楽しめるサウンドとなっています。

低音

アルミ製ダイナミックドライバーが担当する低音はやや控えめなバランスで楽曲によっては量感不足が感じられます。やや控えめなバランスながら低音の質自体は良好ですが、質の良い低音をもっと鳴らして欲しいとも思うため量感不足が目立ちます。

Doin' it Right by Daft Punk, Panda Bear Doin' it Right by Daft Punk, Panda Bear やや控えめでもう少し量感が欲しくなるバランスではありますが、ミッドベースからサブベースまでのバランスは良好で定位も問題ありません。

低音の量感不足は低音を多く含んだEDMなどの音源でじっくりとエージング、イヤーピースを付属の黒いタイプに交換する、Whizzer純正のGSC5Nにリケーブルするなどで改善させることが出来ます。特に大きな変化が望めるのはリケーブルですが、イヤーピースの交換やエージングを試してみてからでもいいでしょう。

総評「明瞭で美しいサウンドを奏でる名機」

良い点

  • 十分に広い音場と高い解像度による豊かな空間表現
  • スッキリとした見通しの良さを感じさせながら湿っぽさも残る質の良いサウンド
  • 金属筐体ならではの響きと余韻の良さが感じられる高音

良くない・悪い点

  • 量感不足が目立つ低音
  • リケーブルの選択肢は狭い

Whizzer Kylin HE03Alはハイブリッドらしい明瞭で見通しの良さと、艶のある湿っぽさを残した質の良いサウンドを楽しめます。
Whizzer純正のGSC5Nにリケーブルすれば、中音から低音にかけての量感が大きく改善され、全体的にさらに濃い音を楽しめるようになります。セット販売ではケーブルが割引されているためおすすめです。

HE03Alの価格とおすすめ購入先

HE03Alは日本国内で正規代理店がありますのでeイヤホンやヨドバシカメラなどでの店頭で試聴や購入が可能です。
国内での正規価格はeイヤホンで34,800円、ヨドバシ・ドット・コムでは33,870円です。これはHE03Alが発売された2020年のWhizzer正規価格である229ドルを基準としていると思われます。
しかし2023年5月末現在、Whizzer公式オンラインストアでは120ドル、AliExpressのWhizzer公式ストアでは100ドルで販売され、日本円ではそれぞれ16,200円と14,630円で購入可能です。日本国内の正規価格と比べると半額以下という衝撃プライスとなっています。
どうやらWhizzerは販売開始から2年以上経った古い製品について2023年に値下げを行ったようです。公式ストアの価格には反映されていますが、日本国内の正規価格にはまだ反映されていません。
Whizzer製品を購入する場合はAliExpressのWhizzer公式ストアを利用することをおすすめします。

AliExpressのWhizzer公式ストアは発送が早く梱包も丁寧です。HE01もAliExpressで購入していますが、特にトラブル無く1週間以内には手元に届きます。