Abusan’s Journey

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Yanyin Moonlight レビュー「ボーカル域の厚みと滑らかなサウンドの合わせ技、2EST+4BA+1DDのトライブリッドイヤホン」

おはこんばんちは。今回はYanyinという中国のブランドのミッドハイからハイエンドを担う「Moonlight」というイヤホンをレビューします。

Yanyinは中国の福州研音科技有限公司が展開しているブランドで、200ドル~700ドルあたりをターゲットとした高価格帯のイヤホンを複数展開しています。
Yanyinというブランド名もMoonlightという製品名も聞いたことがないという方が多いと思います。
それもそのはずで、Yanyinのイヤホンは国内の代理店が存在しないため正規流通していないためeイヤホンなどの実店舗では一切販売されていません。AmazonではLINSOUL-JPなどのセラーから一部のモデルが販売されていますが、今回紹介するMoonlightは取り扱われていません(MoonlightをベースとしたHBB氏コラボのYanyin HBB MahinaはAmazonで購入可能です)
Moonlightを入手するにはAliExpressやHiFiGOなどの中華系ショッピングサイトを利用する以外に方法はなく、日本国内から購入するにはそのお値段も含めてかなりハードルが高いイヤホンです。
Moonlightは649ドルで販売されていますが、今回はPenon Audioのセール価格499ドルで入手しました(649ドルのイヤホンとしてレビューします)
Moonlightは購入時に3.5mm、2.5mm、4.4mmを選択することができますが、今回は3.5mmを選択しました。

外観・特徴

Moonlightは大きめのケースに本体や付属品が収納された状態でダンボールの箱に入れられて届きます。
ケースはUnique Melodyを思い起こさせる見た目をしています。右上には「Moonlight 月光」とエンボス加工された金属製のプレートが貼り付けられていて特別感があります。
かなり大きめのケースですが、内部にはイヤホンが中で暴れて傷がつかないように起毛仕上げの仕切りが入っています。この仕切は上方向に引っ張ると容易に外すことができ、説明書などを底に入れることができます。
このケース以外に、大きさに余裕がある布製巾着袋も付属しています。こちらも高級感のある仕上げです。外出するときなどはこちらを使用するのもいいでしょうし、交換用のイヤーピースや手入れ用のクロスなどを収納してもいいですね。
仕切りの上、または仕切りを外してイヤホンを巾着袋に入れればDAPやポタアンを収納することも可能です。649ドルのイヤホンに相応しいケースです。

本体はよくあるユニバーサルIEM仕様の形状をしており、ドイツ製の医療用レジンで整形されています。一見黒に見えますが、完全な黒ではなく少し青みがかった黒です。光を当てると中に入ったラメが月夜のように光ります。
ドライバー構成は2EST + 4BA + 1DDという3種類のドライバーを組み合わせたハイブリッドならぬトライブリッドです。3種類合計7基のドライバーを4つの独立した音導管と4段階のクロスオーバーで制御されています。
中に入っているドライバーの数とは裏腹にサイズはそれほど大きくないため装着感の向上に貢献しています。音漏れ防止や遮音性も高く、長時間の使用でも疲れません。ノズルは4本の音導管を納めるために太めで少し長くなっています。圧迫感を感じるなら小さめのイヤーピースを選びましょう。
最近流行りの平面駆動ではありませんが、高中低の各周波数帯域で別種のドライバーを組み合わせていることによって音質の最適化を狙っていると思われます。
ケーブルはグラフェンコートの4芯銀メッキ線をリッツ構造としたものです。リッツ構造は表面積を増やすことで表皮効果を向上させ高音域を減衰させにくくすることができますが、導体の振動特性が悪化することで音が荒れやすくなります。その対策として硬い素材であるグラフェンでコーティングすることによって振動特性の改善を図ったケーブルだと思われます。

付属品は本体、ケーブル(本体に装着済み)、イヤーピース(S,M,Lの3サイズ)、ケース、巾着袋、6.3mmアダプター、航空機用アダプター、説明書、保証書、謎のカード2種、VIPカード、品質保証やったよと言いたいカードと、価格を反映してかかなり多くなっています。
唯一価格を反映していないのは付属のイヤーピースです。3000円クラスの格安中華イヤホンに付属しているようなグレーの汎用品が付属します。せめてKBEAR 07あたりを付属させてほしかったところです。

Moonlightは日本へ発送してくれる中国のショッピングサイトから購入することになります。
AliExpressではちょっと怪しいセラーからしか出ておらず、私が購入したPenon Audioは在庫が無くなったのか商品ページが消えていました。現状ではHiFiGOもしくはLINSOULから購入することになります。

Yanyin Moonlight 2EST + 4BA + 1DD Dynamic Driver Hybrid HiFi Music In-ear Monitorhifigo.com Yanyin Moonlightwww.linsoul.com

個人的にはダイナミックドライバー1基による統一された音の方が好みです。無闇にドライバーの数を増やすのはあまり好きではありません。クロスオーバーのチューニングや個々のドライバーのバランスをしっかりと取っていけばダイナミックドライバー1基をチューニングするよりもコストが掛かるのではという懸念があるためです。
そんな中で499ドルという大金を払って3種類合計7ドライバーのイヤホンを試聴せずに買うという暴挙に出ました。もちろん理由はあるのですが、それについてはまた後ほど。

音質

聞き始めたときは最近流行りのW字バランスかと思ったのですが、聞き込んでいくとW字とも違う音作りがされていることがわかりました。
基本的にはやや高音寄りのV字ドンシャリですが中音とボーカルの分離が非常に良く、自然な鳴らし方の中音と比べて厚みのある濃いボーカルを楽しめるようになっています。中音の距離感を保ちながらボーカルだけが前に出てくるようにチューニングされています。
個々の音の分離感は高く、分析的に聞き込んでも粗はほとんど見えず細かな小さい音も確実に鳴らしてくれます。多ドライヤホンで重要となるドライバー間のクロスオーバーは正確にチューニングされていて、音源の持つ雰囲気や空気感を壊さず不自然さを感じさせないようになっています。
定位は正確に反映されていて音場も自然な広さです。個々の音の質感は高く、音源とはかけ離れた不自然すぎる音にはならないようなバランスに仕上げられています。丁寧な音ばかり聞きたいわけじゃないけれど元気すぎるドンシャリは疲れるから嫌という難儀な要求に応えてくれるイヤホンです。
どの音がどのドライバーから出ているのかわかるようなハイブリッドの音だなーとは感じますが、オーケストラの生演奏からボーカル曲まで幅広く楽しむことができます。

高音

Moonlightの高音は2つのESTドライバーから出ています。
不快な刺激になりやすいところは控えめにしている印象ですが、硬質でしっかりとした輪郭を持っていてESTらしい綺麗で煌めくような音を鳴らします。
ESTドライバーは高音域の音質向上が期待できるドライバーですが、しっかりとチューニングしないとシャリついた質感が乗ってしまい不自然さや不快な刺激が残ってしまう、再生環境に依存しやすいという短所があります。
MoonlightのESTドライバーはシャリシャリとした質感が抑えられていますが、再生環境に依存する傾向は強く残っています。スマートフォンなどのアンプの性能が低い機器では高音がやや荒れてしまい、シャリついた質感が強調されます。音量自体は取りやすいのですが、ある程度アンプの性能に余裕のある機器で使用したほうが良いでしょう。

中音

中音はよくある癖のない自然なタイプで、ボーカルとははっきりと分離されていて聞きやすい音です。
全体のバランスとしては高音寄りV字傾向なのでそれほど主張はありませんが、凹みすぎたり細くなりすぎることはありません。
4段階のクロスオーバー制御が最も効いていると思われ、凹むことはなく定位や個々の音の繋がりも自然なのですが、それでいてボーカルと混ざらないように仕上げられています。

songwhip.com ボーカルのない生演奏を録音した音源ですが、不自然さは見られず実在感のある中音を響かせます。
溝口肇さんが演奏するチェロの音色が、しっかりとした厚みと滑らかさを持って耳に届きます。

THE IDOLM@STER ORCHESTRA CONCERT ~SYMPHONY OF STARS!!!!!~ のCDがちょうど届きましたのでMoonlightで聞いてみました。
東京フィルハーモニー交響楽団の素晴らしい演奏を自然な中音で楽しむことができました。

ボーカル

ボーカルはMoonlightで最も特徴的な部分です。クリアではっきりとした輪郭があり、非常に良く伸びながら十分な厚みを持っています。
ボーカル域の中でも確かな分離感があり、メインボーカルの裏に別のボーカルがいる場合などの複数ボーカルがミックスされているような楽曲でも容易に聞き分けることができます。
Moonlightは中音用にBAドライバーを4つ積んでいますが、クロスオーバー制御と音導管はそれぞれ4つですので中音用とボーカル用で別々にドライバーを使っているのでしょう。
女性ボーカルはよく伸びながら刺さりは抑えられていますが、音源によっては僅かに歯擦音の尖りを感じることがあります。女性ボーカルだけでなく男性ボーカルでも低域の厚みと艶のある音を楽しむことができます。
非常に特徴的なボーカルですが、あくまでも作られた音という印象です。僕はかなり好きな音ですが人によって評価が分かれるポイントだと思います。

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こちらにあるように、基本的な定位はボーカルと中心として各周波数帯域を担当する楽器を周囲に配置することが良いとされています。
Moonlightは周波数帯域と定位の両方からボーカル帯域を判定しているようです。その正確なクロスオーバーコントロールによってボーカルに厚みをもたせながら中音は自然に鳴らすというサウンドを実現しています。

songwhip.com 音源自体の分離は良く作られていて決してボーカルと他の音が混ざるような定位を持っているわけではないのですが、音圧がかなり強いためボーカルが埋もれがちになってしまう楽曲です。
Moonlightで聞いてみると楽曲全体の音圧を保ちながらボーカルがしっかりと分離されているため、それぞれの音が聞き取りやすくなっています。

音の分離、配置がとても素晴らしい音源(映像に対して左右が逆転していますが……)
バックグラウンドに配置されたアコギやピアノのアコースティックなサウンドはそのままに、ボーカルには厚みと濃さがあり、一つ一つの音を詳細に鳴らします。

低音

低音は僅かに控えめなバランスで過度に主張することはなく、適度な量感を持ったキレと締まりのある質の良い低音をタイトに鳴らしてくれます。
ダイナミックドライバーらしいしっかりとした量感があり、ミッドベースからサブベースまでのバランスも良く、特定の帯域が過度に膨らみすぎたりはしません。
サブベース域へ沈み込むように響く音はやや苦手です。沈み込みが浅くなってしまうことで少し浮ついたようになってしまいます。

リケーブル

Moonlightは2pinによるリケーブルに対応しています。
付属ケーブルは4芯リッツ構造の銀メッキ線にグラフェンコートです。かなりコストのかかっているケーブルですしイヤホン本体の性能もかなりのものですので、リケーブルする際はそれなりのスペックを持ったものを選びたいところです。

NICEHCK SuperBlue(台湾製7N単結晶銅OCC)

名前の通り濃い青色が特徴的なケーブルです。高純度の単結晶銅を使用して導電性を高めています。
高音の刺激感が僅かに減衰し、高音寄りだったバランスが少し低音側へ移動することでフラットに感じやすい印象です。シャリ付きが抑えられ全体的に分離の良い音へと変化します。
ボーカルは前に出てくる印象はそのままに、尖りが少し抑えられた質の良い方向への変化を感じます。低音はサブベースの沈み込みが少し改善されます。
付属ケーブルからは最も遠いスペックですが意外とバランスの良い方向へ音が変化しました。

NICEHCK BlackCat(オイルコーティング亜鉛銅合金)

線材に亜鉛銅合金を使用し、絶縁のためにオイルでコーティングされたケーブルです。
オイルコーティングによる絶縁の効果なのか、SuperBlueと比べると全体のバランスを維持したまま分離感を向上させるような効果があります。
欠点はボーカル域がハイ上がりになってしまいます。ほとんどの楽曲では問題ないのですが、女性ボーカルの伸びを重視したような音源だと上ずったように聞こえます。高音は特に荒れた印象はないのですが、
はっきりと鳴らす印象が強まってしまうため好みが分かれるとも思いました。

NICEHCK SilverLoong(7N銀メッキ単結晶銅OCC + 銅銀合金)

分離感については付属ケーブルに近い音質ですが、ややドンシャリ傾向が強くなります。
高音の質感の向上、ボーカルのハイ上がりが抑えられるなどの良い点がありますが、ボーカル域が少し遠く感じるようになり、低音が強くなる傾向があります。
このケーブルを組み合わせることでV字傾向へ近づけることができますので、ボーカル域の厚みをくどいと感じるなら選択肢に入るケーブルでしょう。

NICEHCK FourMix(銀銅合金 + 7N高導電性OCC + 純銀+ 6N銀メッキOCC)

SuperBlueやBlackCatと同様に分離感を向上させますがBlackCatのようなはっきりとした強い分離にはなりません。
全体的に音の質感を向上させる効果のほうが目立ち、特に高音とボーカルで顕著に感じられます。
ESTドライバーによる高音のシャリ付きが気になったりボーカルの質感を向上させたいといった場合に候補に上がるケーブルです。

いくつかのケーブルを試しましたが、音質としては付属のケーブルでも十分だと感じました。
ここに書いたもの以外でもいくつかのケーブルを試しましたが、ESTドライバーをどう鳴らすかによって違いが出やすいと感じました。高音の荒れが出やすい安価な銀メッキケーブルではESTからの出る音がブレやすく、何らかのコーティングなどで絶縁や制振をしっかりしているケーブルのほうが良い結果を得られやすいと思いました。
はっきりとした鳴らし方が好みであればSuperBlueやBlackCat、自然なバランスにしたい場合はSilverLoong、全体の質感を向上させたいならFourMixへリケーブルすると良いでしょう。私はSuperBlueにリケーブルしました。

Moonlightを購入した経緯

もうそろそろそれなりのお値段のイヤホンが欲しいなと思い立ち、eイヤホンやヨドバシカメラで試聴していたのですが様々な理由(見た目が気に入らない、音が気に入らない、耳に入らない)で決められないでいました。
今までは1万円台よりも下の価格帯を攻めていたのですが、格安イヤホンがどれだけコスパに優れていたとしても約3万円から上の領域はやはり別格だなと思いますし、最低1本は持っておきたいなと。

私はBloodBorneというゲームが大好きなのですが、そこに登場する武器に月光の聖剣という大剣があります。扱いづらい武器なのですが、そのエフェクトが非常にかっこよくて好きなんですよね。
そんな時にAliExpressを徘徊したり海外のレビューサイトを徘徊していると見つけたのがYanyin Moonlightでした。私が愛した剣と同じ名前のイヤホンがあれば買うしか無いでしょう。
月光の聖剣を手に入れるためにはルドウイークというボスを倒す必要があります。ルドウイークはかつて聖剣のルドウイークと呼ばれ英雄として名を馳せた人物です。ボス戦では悪夢に囚われ醜い獣となってしまった醜い獣ルドウイークと戦うことになります。
HPが50%以下になるとイベントが発生。背中に背負っていた剣が滑り落ち、倒れたルドウイークの前に光り輝きます。それを見たルドウイークは人としての理性を取り戻し、聖剣のルドウイークとしてプレイヤーの前に立ちはだかります。
そのイベントでのセリフが「ああずっと、ずっと側にいてくれたのか。我が師、導きの月光よ……」「My true mentor…My guiding moonlight...」でして、その演出がめっちゃ好きなんですよね。

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というわけで、Yanyin Moonlightを購入した理由は「名前がかっこいいから」「フロムソフトウェアのゲームに登場する同名の武器が好きだから」です。
もちろん見た目もかなり好みだったというのもあります。ただ、国内に試聴機どころか日本語のレビューがほぼ存在しないイヤホンを購入する理由としては非常に珍しいと思います。
友人からは「イヤホンを買う理由じゃない」と言われました。全くもってその通りですね。

総評

良い点

  • 名前がかっこいい
  • 高い分離感と繋がりの滑らかさを両立した楽しく聞けるサウンド
  • 細かいところまで質感の高い音
  • 硬質でキレイ系な高音
  • ボーカルとしっかり分離された中音
  • 中央に定位し厚みのあるボーカル
  • 量感のある質の高い低音
  • 名前がかっこいい

悪い点

  • 付属のイヤーピースが価格相応ではない
  • ESTらしいシャリシャリした質感が僅かに残る
  • サブベースへ沈み込むような低音は苦手
  • 相応の性能を持ったアンプが必要(最低でもポタアン)
  • 国内で試聴できない

Moonlightは7つのドライバーを正確にチューニングすることで厚みのある濃いボーカルと分離の良い自然なV字傾向サウンドを両立しています。
厚みのある濃いボーカルが目を引きますが全体の音作りも非常に高い完成度です。様々なジャンルの楽曲に対応しながら特にボーカル曲を楽しく聞くことができるサウンドとして完成されています。主戦場はボーカル曲ですが、ボーカル曲以外でも楽しめるイヤホンでしょう。
モニターサウンドだとかハーマンターゲットカーブなんてものとは遠いサウンドですが、元気で楽しく聞きたいけれどボーカルが凹むのは嫌だし聞いていて疲れたくないという難しい要求への一つの答えとしてアリだと思います。
アニソン、ロック、ポップスなどボーカル曲全般との相性が非常に良いと感じました。生演奏を録音したものでも楽しむことができるでしょう。相性が悪いのはボーカル定位をわざとずらすようにミキシングを行っている音源です。
一番のネックは国内で試聴することがほぼ不可能ということでしょうね。音作りはかなり高いレベルだと思いますので、いつの日かeイヤホンなどで試聴可能になる日が来ることを願っています。