おはこんばんちは。今回はAustrian AudioのHi-X25BTというワイヤレスヘッドホンをレビューします。
Austrian Audioは2017年に立ち上がったブランドです。その名の通りオーストリアのウィーンを拠点としています。
オーストリアと聞くと思い浮かぶのはAKGだと思います。Austrian AudioはHARMANによって2016年に70年の歴史を持つAKGウィーン本部が閉鎖された後、AKGのコアメンバーが集まって立ち上げられたブランドです。
設計・製造は全てオーストリアのウィーンで行われ、ヘッドホンについては不明ですがマイクは全て手作りされているという気合の入りようです。
そんなAustrian Audioのヘッドホンラインナップで唯一のワイヤレスヘッドホンがHi-X25BTです。AKGの流れを汲むAustrian Audio製ヘッドホンはモニターヘッドホンとして非常に評価が高いのですが、ワイヤレスヘッドホンの出来をレビューしたいと思います。
外観・特徴
ヘッドホンということでパッケージはイヤホンと比べて大きくなっています(当たり前)
大きすぎて普段使っている30cmの撮影ブースでは入り切らず、部屋の奥から60cmサイズの撮影ブースを引っ張り出す羽目になりました。
外箱はマジックテープ式のストラップで止められています(箱の右側にある赤いストラップ)。このストラップはハサミなどで適度な長さにカットすることでケーブルをまとめるストラップとして再利用できる利便性も兼ね備えています。
逆にこのストラップがないと箱がしっかりと閉まりません。
付属品は本体、巾着袋タイプの収納袋、USB Type-Cの充電ケーブル、USB Type-C to 3.5mmの変換ケーブル、6.3mm変換端子、USB Type-C to USB Type-Aの変換端子、クイックスタートガイド、正規代理店の説明書
なぜUSBと3.5mmの変換ケーブルが入っているの? というと、実はHi-X25BTは充電用のType-C端子はデジタル・アナログ両方の信号に対応しているため有線で使用することも可能です。
デジタルモードで使用する場合はType-C to Type-CのUSBケーブルを、アナログモードで使用する場合は付属のケーブルを使用します。アナログモードはDACチップが入っていないタイプのUSB Type-C to 3.5mm変換端子を用意することでヘッドホン用ケーブルでのリケーブルも可能です。日本国内で入手可能なものだとラスタバナナの変換ケーブルが最も入手しやすいと思います。
もしくはAliExpressなどで販売されているUGREENなどのType-C to 3.5mmアダプタを買うことになります。
外観は黒いハウジングやヘッドバンドに赤いアクセントが目立つかっこいい系です。
折りたたむことでコンパクトに収納することも可能なため旅行に持っていくときも嵩張りにくいのは良いと思いました。実際に夜行バスでの旅行で持っていきましたが、車内に持って入る荷物に入れても邪魔になりませんでした。
イヤーパッドは柔らかいメモリーフォームで、長時間の使用でも疲れにくいように深い設計となっています。Hi-X25BTにANC機能はありませんが、イヤーパッドは適度に密着して十分な遮音性を提供してくれます。モニター用ということで屋内での使用を前提としているのでしょう。
スペックはドライバーに自社開発の44mm Hi-Xドライバー(ハイエクスカーションドライバー)を採用し、インピーダンスは25Ωに設定。周波数特性は12Hz~24kHzです。
Hi-XドライバーはAustrian Audioの技術陣が最適だと判断した44mmというドライバー径とリング磁石システムを採用することでレスポンスやインパルス応答に優れているとされています。
ワイヤレスにはBluetoothを採用し、R側のハウジングの備えられたタッチセンサーによる各種操作が可能です。
音質
有線を基本としてレビューしますが、Bluetooth接続でも試しました。有線・Bluetooth共にFiiO M11 Plus LTDを使用しています。
Hi-X25BTの音質は、音源が持つ音の成分を包み隠さずに鳴らすことに特化したモニターサウンドです。音のディティールが非常に正確かつ詳細で、同じ楽曲であっても再生環境の違いをはっきりとわかってしまうほどにはっきりと鳴らします。
無線接続では高音の情報量が多めでハイ上がりですが、有線接続では僅かに高音寄りのフラットバランスです。ダイナミックレンジは広く、高音から低音まで非常に高い解像度と良好な定位感があります。脚色というものを徹底したサウンドは、職人芸によって磨かれた美しい刀剣のようなキレの良さがあり、非常に爽快で透明感のある音を鳴らします。
Hi-X25BTはモニターヘッドホンですので入力された音を正確に鳴らすことに徹しており、特定の方向へ特化した音作りはされていませんし、どのような音源でも元気よく鳴らして楽しく聞かせてくれるような気概は持ち合わせていません。音源の持つ音をそのまま伝えてくるようなサウンドですので、言ってしまえば全ては音源次第です。Hi-X25BTはヘッドホンという末端の再生機器のくせして「モニターなんだからそのまま鳴らして当たり前だろ?」と言わんばかりのワガママなお姫様です。
Hi-X25BTのみならずAustrian Audioのヘッドホン製品は全てスタジオなどの環境での使用を想定したモニターやチェック用途を前提とした製品であり、サンプリングレートやビット数のみならずミキシングやマスタリングで行われた音作りそのものをさらけ出すかのような音を鳴らします。リスニング用としてHi-X25BTを使用するということは音を楽しめるかどうかは音源次第ということを突きつけられます。そういう意味では非常に残酷なヘッドホンです。
Krewellaの名曲Aliveを公式がアコースティックアレンジしたもので、YouTube音源ながら非常に高い解像度と良好な定位感があります(LRが入れ替わってしまっているのはご愛嬌)
Hi-X25BTで聞くと一つ一つの音を正確に捉えることができるほどに分離の良い音作りがされていることがわかります。
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私はハイレゾ音源版も所有していますが、Hi-X25BTで聞くとSpotifyなどの圧縮音源版との違いがすぐにわかります。
パイプオルガンの広大なダイナミックレンジを余すことなく描写する表現力の高さはHi-Xドライバーの性能の高さが伺えます。
Hi-X25BTのBluetooth接続はSBCコーデックのみに対応しています。高音がややハイ上がりなこと以外はAACやLDACのみならず有線接続にも肉薄する音質です。
SBCで圧縮されているにもかかわらず元の音源や再生環境の違いすらはっきりとわかるほどに非常に細かいところまで正確に描写します。
Bluetoothオーディオにおいて音質はコーデックのみで決まらず、DSPでの処理やDACチップのみで決まらず、最終的な出力を担当するドライバーやアンプのアナログ部分の性能によって大部分が決まります。音が歪んでしまうaptXは論外だとして、SBCのみに対応だから音質が悪いというわけではなく、Hi-X25BTはHi-Xドライバーの裏付けるかのような高音質を聞くことができます。
注意点としてはエージングに非常に長い時間がかかる点が挙げられます。100時間程度では低音不足感が拭えず、200時間ほど鳴らしてから本領発揮といった印象です。Hi-X25BTをエージングする際はピンクノイズではなく普段聞いている楽曲を網羅したプレイリストなどを使用して様々な音を鳴らすことを推奨します。
また、カタログスペックのインピーダンス25Ω、入力感度113dBという数字からは想像できない鳴らしづらさがあります。音量はまだ取りやすいのですがアンプの性能が不足すると低音不足に陥りやすくなります。Bluetooth接続では内臓のDACとアンプを使用するため低音不足を解消しやすくなります。
高音
Hi-X25BTの高音は輪郭が非常にはっきりとした硬質な音を鳴らします。元気系ドンシャリとは全く違う、あくまでも音源が持つ刺激感を減衰させることなく鳴らすタイプで不自然さは全くありません。
ハーマンターゲットカーブを意識した製品では減衰させてしまう超高音域も余すことなく響かせてくれます。かなりガッツリと鳴らしながら不快な刺激はなく、ドライバー自体の限界も全く見えないほどに余裕があります。
Bluetooth接続では少しハイ上がり感があります。個々の音の尖った部分がさらに強くなるような印象です。SBCコーデックが原理上持っている歪みによるものでしょう。
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出だしから非常にシャープな高音が特徴です。この楽曲だけで高音域の性能が丸裸にできてしまいます。
高音が苦手なヘッドホン・イヤホンでは刺激が足りなかったり鳴らしきれずに潰れたような音になってしまうのですが、Hi-X25BTはシャープに鳴らしながら余裕を感じる鳴らし方をします。
中音
無線では高音が強く出るため少し控えめに感じますが、有線接続では適度なバランスで鳴らします。
脚色は控えめで癖のない音で、音の輪郭がくっきりとわかるくらいに細かい部分まで鳴らします。凹むことはなく常に適度な距離感を保ちます。分析的に聞き込んでも粗が見えず、音の数が多い場面でも破綻することはありません。
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映画「WHIPLASH」のラストで使用された、ジャズの名曲Caravanのカバーです。
個々の楽器をしっかりと聞き分けることができるほどに分離良く鳴らします。
ボーカル
音の分離が良いためボーカルは非常に聞き取りやすく、距離感や定位も正確です。
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上野洋子さんのどこまでも伸びていく染み入るような歌声が心地よい一曲です。中音から高音にかけてのチューニング次第で伸びが足りない・上ずったようになるなど、堪能するには高い性能が要求されます。
Hi-X25BTを有線接続のアナログモードで聞いてみると素晴らしいの一言でした。伸びの良さはもちろんのこと、尖ることなく上ずったようになることもありません。美しい歌声が染み入るように耳へと届きます。
Bluetooth接続ではハイ上がり傾向が強く、尖ったような印象があります。
低音
低音は過度に主張するタイプではありませんが、キレと締まりが良い音を分離良くタイトに鳴らすためベースラインを追いやすくなっています。
ミッドベースからサブベースにかけてはバランス良く鳴らしますが、40Hz以下の領域はやや苦手で深く沈み込むような低音は物足りなく感じます。
Bluetooth接続では内蔵のDAC・アンプを使用するため、有線と比較するとサブベースの沈み込みが改善される場合があります。
songwhip.com 100Hz → 65Hz → 50Hzと段階的に鳴るベースラインをしっかりと聞き取ることができます。
songwhip.com Hi-X25BTで聞くとベースラインが非常に追いやすいと感じます。
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序盤からサブベースへ深く沈み込むような低音が入っている楽曲ですが、Hi-X25BTでは少し沈み込みが物足りません。
50秒あたりからの低音はしっかりとしたキレがあり、タイトに鳴らしてくれます。
USBデジタルモード
Hi-X25BTはUSB Type-Cケーブルを利用して内蔵DAC・アンプを使用するデジタルモードに対応しています。
使用するにはHi-X25BT本体をデジタルモードにする必要があります。電源ON状態で電源ボタンを短く押すことで切り替えできると説明書に書かれているのですが、実際はやや挙動が不安定で音が出ないことがしばしばありました。
基本的に付属のType-C to 3.5mmケーブルで問題なく聞くことができるため、デジタルモードの出番はほとんどないと思います。
総評「有線・Bluetooth両方で高音質なモニターヘッドホン」
良い点
- モニターヘッドホンらしい脚色のない音
- 高い解像度と良好な定位感
- シャープで減衰感のない高音
- 自然で癖のない中音
- キレと締まりの良いタイトな低音
悪い点
- 20Hz付近のサブベースは苦手
- 値上げによるお買い得感の減少
- タッチセンサーは使いづらい
- Bluetoothが不要ならHi-X15がおすすめ
Hi-X25BTは有線とBluetoothという2種類の接続方法(デジタル接続も合わせれば3種類)を選択できる可用性の高さがありながら、どの接続方法を使用しても高音質なモニターヘッドホンとして使用できます。
原音に忠実で脚色はほとんどなく、細かいところまで鳴らしてくれます。各音域のバランスもフラットに近く、そういったモニター系ヘッドホンを探しているなら候補に入れて間違いありません。Bluetooth接続が不要なら価格を抑えたHi-X15を買うのがベストです。
Hi-X25BTは様々なジャンルの楽曲に合わせていけるヘッドホンです。フルオーケストラの壮大で厚みのある音から、ボーカル主体の透き通ったバラード曲、EDMやトランスなどの鋭い刺激のあるサウンドまで幅広くカバーすることができます。
脚色された音ではなく原音に忠実に楽しみたいという要求に応えてくれるヘッドホンですが、音楽を楽しむというよりも音を聞くということに特化したような音です。私はHi-X25BTの音が非常に好みですが、リスニング用としてそういった要求を持っている人は少数派だと思いますので、本機の購入を検討する場合は一度試聴されることを強くおすすめします。